第7話 リミット、ただ一つの願いを叶える力

文字数 1,814文字

 限定魔術(リミット)は、ただ一つの事柄に特化した魔術。
 言うなれば、ただ一つの〝願い〟を叶えてくれる力。
 それでも、魔力を使った技術に違いはない。

 ――願いは、自らの魔力をもって実現される。

 その為、内容によっては使用回数が著しく制限されるだけでなく、叶うことなく死に至る危険性もあった。
 とはいえ、先の戦争で尽きたのは一人きり。
 それも全戦力を投じるまでもなく、たったの八人で勝利へと導いた。
 
 だからこそ、マゲイアが統一されてからは隠蔽し、禁忌とされていた。
 更に、手を出した者を愚者(フール)だと貶めた。

 もし、その事実――リミットの力を知られてしまえば、絶対に勘違いする者が現れてしまうから。
 全ては、リミットを恐れてのことである。

 魔術を可能な限り生活に向ける為に、一般家庭にまで家電を導入する訳にはいかなかった。
 好奇心を刺激する、他国の技術を見られる訳にはいかなかった。
 戦争や争いといった生死の境、極限まで追い込む訳にはいかなかった。

 幸い、リミットには致命的な不都合が存在する。
 他の魔術、転換魔術(チェンジ)付加魔術(チャージ)が一切扱えなくなるのだ。
 
 マゲイアの気候は、衣服だけで耐えられるほど優しくはない。

 噴火の度に気温は激動し――暑い時は四十℃を超え、寒い時は氷点下へと突入する。それも突発的に。酷い時には、一日の温度差が五十℃以上離れたりもするのに、冷暖房器具といった便利な道具は存在しなかった。

 魔術があれば問題ないから――言いかえれば、魔術が使えなければ生きてはいけない。

 このデメリットに関しては、国も隠さずに広めていた。
 そうすることで、大人がリミットに手を出す事態を防げたからだ。

 普通に考えて、チェンジとチャージの利点は大きい。

 寒ければ熱を、暗ければ明かりを、暑ければ冷気を、お腹がすけばエネルギーを、怪我をすれば癒しを――火も、水も、氷も、風も、雷も、大地も操れる。
 超人的な速度も、力も、耐久力も、視力も、聴力も必要な時に手に入る。土地や動植物に栄養を与えることで、食料を安定的に手に入れることもできる
 それを手放してまで、禁忌に触れようとする愚か者はまずいなかった。

 けど、子供は違う。

 その場の感情と気分、強烈な好奇心に負けて、偶発的にリミットを創り上げてしまう。その能力は幼さ故に稚拙ではあるものの、国を転覆させる可能性は否めなかった。
 
 単純問題として、個人の力が国を上回ってしまえば国は成り立たなくなる。
 
 そういった事態を考慮して、マゲイアには『争い』に特化したリミットの使い手が常にいた。一時の感情ではなく、一生を国に捧げる覚悟で願いを叶えた者たち。
 国に危険が迫れば命を賭けて戦い、そうでなければ黙って控えている。
 例え一生であっても――平和だったと、喜んで死んでいく。

 まさしく、国の為だけの戦士。
 
 彼らはフールとは違い、隠者(ハーミット)と呼ばれていた。
 その存在を知っているのは極僅か。マゲイアの王族とフィロソフィアの権力者たち。

 それは信頼の証などではなく、魔術の扱えない彼らに知られたところで、危惧しているような問題は起こりようがないからだ。
 ただ、表向きは信頼の証としてマゲイアは相応の代価を頂いていた。おかげで、王族は時間と魔力〈寿命〉に加え、ハーミットの消耗も避けられていた。

 されど、今回ばかりは温存しておけないだろう。
 フィロソフィアは、絶好の機会で失敗している。
 
 情報によると、アルルを連れ去ったフールには遠距離攻撃が通じない。
 すなわち、彼らが信頼している兵器――主力武器が封じられたも同義である。加え、保護せねばならないアルルの抵抗を考えると、手に余るのは明白であった。

 なのに、彼らはこちらの申し出を渋った。

 リミットの危険性はフィロソフィア側も理解しているだろうが、かの国は一枚岩ではない。 アルルたちの力を目の当たりにして、利用しようと考える者が現れないとも言い切れなかった。
 
 それで更に勘違いする者が増えれば、マゲイアはまた戦いを迫られる事態に陥る。

 それだけは、絶対に避けねばならない。
 その為には、アルルを殺すのすら辞さなかった。

 ――望むはマゲイアの安寧のみ。
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登場人物紹介

カズマ、22歳。

ハフ・グロウスの軍人だが、忠誠心に欠ける為、左遷される。

支配国からの独立を目論んではいるものの、具体的な計画性は皆無。

拳銃で接近戦をこなす、グリットリア式の変わった銃術を扱う。


リューズ、おそらく16歳。

マゲイアの住民。禁忌とされるリミット《限定魔術》に手を出したフール《愚者》。

長いこと追われる身であるものの、諦めず亡命計画を企てるほど強かで逞しい。

かつて、望んだ願いは『剣の最強の証明』

ゆえに彼女のリミット――白兵戦最強《ソードマスター》は剣を召喚し、遠距離からの攻撃を無力化する。

アルル、12歳。

マゲイアの第16王女でありながらも、リミットに手を出したフール。

もっとも、その立場から裁かれることはなく、軟禁に留まっている。

かつて、望んだ願いは『窓から見える風景だけでも自由にしたい』

ゆえに彼女のリミット――キリング・タイム《カナリアの悪戯》は窓越しの世界を自由に操る。

ロイス、おそらく16歳。トリックファイター《伝統破壊者》の通り名を持つ。

14歳の時に、マゲイアから亡命を果たしたフール。

その為、魔術師でありながらグリットリア式銃術も扱う。

かつて、望んだ願いは『一人でも平気な世界』

ゆえに彼のリミット――プレイルーム《独りぼっちの楽園》は自分にだけ見え、感じ、触れられる空間を具現化する。

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