第27話 マゲイアの参戦
文字数 1,997文字
銃声が止み、静寂。
硝煙と血の入り混じった、酷い匂いが鼻につく。
「言っとくが、そいつはオレにとって人質にはなんねーぜ?」
ロイスは吐き捨て、銃口を向ける。
スキンヘッドの中年は、アルルの頭に手を置いたまま近づいてきた。
構わずロイスが引金に指をかけたのを、
「おぃっ、ロイス!」
カズマがたしなめる。
「銃を下ろせ、ガキが」
中年も忠告するが、言葉が悪い。
ロイスはこれみよがしに苛立ちを示していた。
「相変わらず態度が悪いな、トリックファイター」
中年はアルルの頭から手を離し、その背中を押した。
「それに頭も悪い。人質にするつもりなんざねぇよ。むしろ、保護してやってたんだがな」
「なんだそりゃ? 礼のつもりか?」
「礼だと? なんで俺が、貴様に礼をしなきゃならない?」
言葉だけ聞けば、二人共チンピラである。
アルルはてくてくと中年から離れ、ロイスを横切ってカズマの元へ。
「カズマって強かったんだね」
第一声に、無邪気な感想を言ってのけた。
「はん? オレが教えてやったから、復讐できたんだろうが?」
「バカか? こんだけ派手にやってりゃ、誰だって気づくもんだ。貴様の情報なぞ、糞の役にもたってねぇよ」
「はぁ? じゃぁ、なんでもっと早く来なかったんだ? 怖かったのか、あぁ?」
「フィロソフィアの犬共が外出禁止令をほざきまくってたんだよ。それを蹴散らすのに少しばかり骨が折れた」
「……殺したのか?」
チンピラのいい合いに、カズマが口を挟む。
「貴様は……フィロソフィアの犬にしては、中々の戦いっぷりをしてたな」
中年は質問には答えずに、賛辞を口にした。
「小僧、あの戦い方は誰に習った?」
「祖父さん――トドロキに教わった」
「なるほど。トドロキ隊長か……」
感慨深げに中年は零した。
「どのツラ下げてあの場所にいるんだか……いや、それが責任……一番の償いになるのか」
ぶつぶつと独り言を述べたあとに、中年は相好を崩した。
「安心しろ、仮にも元同胞だ。俺たちは殺していない――」
カズマが胸を撫で下ろしている隙に、ロイスがまた吹っかける。
「はっ! 随分と甘ぇな」
「それはこちらの台詞だ、トリックファイター。そんなに自分の命が大事なら、グリットリアの戦い方をするな」
「んだと? 死ぬか、テメー?」
ロイスはまた銃口を向けるも、中年はやれやれといった様子で息を吐く。
「やはり、なにもわかっていないようだな」
その一言で、銃口が火を噴いた。
カズマはロイスの引き金の軽さに呆れ、中年の技量に感心する。
「あ! 昨日のおっちゃん!」
リューズが声を上げた。
中年の手には、園芸用スコップが握られていた。
「やっと思い出したか、ソードガール」
にやりと中年は歯を見せる。
「俺がその子を助けたのは、ソードガールの友人だったからだ」
「……私の?」
なんで? とリューズは首を傾げる。
「ソードガールのおかげで思い出したからだ。戦いは楽しい。それと、俺たちはまだまだ強いってことをな」
リューズには優しい眼差しを送るも、ロイスには違った。
中年は侮蔑と呼べるような眼差しを向ける。
「貴様と戦った時には、そんなこと思いもしなかった。トリックファイター、ここで貴様を殺さない理由はわかるな?」
ロイスは不愉快そうに顔を歪ませた。
「憶えておけ、グリットリアの戦いは誰かを護る為にある。それを汚すような真似をするな」
「……うるせーよ。 そんなの知るかっ。テメーらの時代錯誤な価値観を押し付けんじゃねぇ!」
「そう言って、また逃げるのか? 安全圏で一人はしゃいで、都合が悪くなると尻尾を巻く。情けないな」
今まで一番、辛辣かつ馬鹿にした言葉だったがロイスは黙っていた。壊れんばかりに銃を握り、堪えるように食いしばっている。
「まぁ、また逃げたいのなら好きにすればいい」
「……逃げたん……じゃねぇよ」
中年は気にも留めずロイスから視線を外し、カズマを見た。
「トリックファイターのせいで、きちんと言えてなかったな」
――俺たち〝は〟殺していない。
その言葉に安心したのは束の間、カズマはすぐに思い至った。
ただ、ロイスが会話をかっさらっていったので聞けずにいた。
「ハフ・グロウスの軍はほぼ壊滅だ。どれぐらいの人数が死んだのかはわかっていないが、まともに動ける奴はいないだろう」
「……なにがあったんだ?」
「わからん。俺は直接見た訳じゃないからな。ただ……」
腑に落ちないと表情に出ていた。
中年は、今から発する言葉を頭の中で何度も咀嚼しているかのように言い渋り――
「全員凍死だそうだ」
硝煙と血の入り混じった、酷い匂いが鼻につく。
「言っとくが、そいつはオレにとって人質にはなんねーぜ?」
ロイスは吐き捨て、銃口を向ける。
スキンヘッドの中年は、アルルの頭に手を置いたまま近づいてきた。
構わずロイスが引金に指をかけたのを、
「おぃっ、ロイス!」
カズマがたしなめる。
「銃を下ろせ、ガキが」
中年も忠告するが、言葉が悪い。
ロイスはこれみよがしに苛立ちを示していた。
「相変わらず態度が悪いな、トリックファイター」
中年はアルルの頭から手を離し、その背中を押した。
「それに頭も悪い。人質にするつもりなんざねぇよ。むしろ、保護してやってたんだがな」
「なんだそりゃ? 礼のつもりか?」
「礼だと? なんで俺が、貴様に礼をしなきゃならない?」
言葉だけ聞けば、二人共チンピラである。
アルルはてくてくと中年から離れ、ロイスを横切ってカズマの元へ。
「カズマって強かったんだね」
第一声に、無邪気な感想を言ってのけた。
「はん? オレが教えてやったから、復讐できたんだろうが?」
「バカか? こんだけ派手にやってりゃ、誰だって気づくもんだ。貴様の情報なぞ、糞の役にもたってねぇよ」
「はぁ? じゃぁ、なんでもっと早く来なかったんだ? 怖かったのか、あぁ?」
「フィロソフィアの犬共が外出禁止令をほざきまくってたんだよ。それを蹴散らすのに少しばかり骨が折れた」
「……殺したのか?」
チンピラのいい合いに、カズマが口を挟む。
「貴様は……フィロソフィアの犬にしては、中々の戦いっぷりをしてたな」
中年は質問には答えずに、賛辞を口にした。
「小僧、あの戦い方は誰に習った?」
「祖父さん――トドロキに教わった」
「なるほど。トドロキ隊長か……」
感慨深げに中年は零した。
「どのツラ下げてあの場所にいるんだか……いや、それが責任……一番の償いになるのか」
ぶつぶつと独り言を述べたあとに、中年は相好を崩した。
「安心しろ、仮にも元同胞だ。俺たちは殺していない――」
カズマが胸を撫で下ろしている隙に、ロイスがまた吹っかける。
「はっ! 随分と甘ぇな」
「それはこちらの台詞だ、トリックファイター。そんなに自分の命が大事なら、グリットリアの戦い方をするな」
「んだと? 死ぬか、テメー?」
ロイスはまた銃口を向けるも、中年はやれやれといった様子で息を吐く。
「やはり、なにもわかっていないようだな」
その一言で、銃口が火を噴いた。
カズマはロイスの引き金の軽さに呆れ、中年の技量に感心する。
「あ! 昨日のおっちゃん!」
リューズが声を上げた。
中年の手には、園芸用スコップが握られていた。
「やっと思い出したか、ソードガール」
にやりと中年は歯を見せる。
「俺がその子を助けたのは、ソードガールの友人だったからだ」
「……私の?」
なんで? とリューズは首を傾げる。
「ソードガールのおかげで思い出したからだ。戦いは楽しい。それと、俺たちはまだまだ強いってことをな」
リューズには優しい眼差しを送るも、ロイスには違った。
中年は侮蔑と呼べるような眼差しを向ける。
「貴様と戦った時には、そんなこと思いもしなかった。トリックファイター、ここで貴様を殺さない理由はわかるな?」
ロイスは不愉快そうに顔を歪ませた。
「憶えておけ、グリットリアの戦いは誰かを護る為にある。それを汚すような真似をするな」
「……うるせーよ。 そんなの知るかっ。テメーらの時代錯誤な価値観を押し付けんじゃねぇ!」
「そう言って、また逃げるのか? 安全圏で一人はしゃいで、都合が悪くなると尻尾を巻く。情けないな」
今まで一番、辛辣かつ馬鹿にした言葉だったがロイスは黙っていた。壊れんばかりに銃を握り、堪えるように食いしばっている。
「まぁ、また逃げたいのなら好きにすればいい」
「……逃げたん……じゃねぇよ」
中年は気にも留めずロイスから視線を外し、カズマを見た。
「トリックファイターのせいで、きちんと言えてなかったな」
――俺たち〝は〟殺していない。
その言葉に安心したのは束の間、カズマはすぐに思い至った。
ただ、ロイスが会話をかっさらっていったので聞けずにいた。
「ハフ・グロウスの軍はほぼ壊滅だ。どれぐらいの人数が死んだのかはわかっていないが、まともに動ける奴はいないだろう」
「……なにがあったんだ?」
「わからん。俺は直接見た訳じゃないからな。ただ……」
腑に落ちないと表情に出ていた。
中年は、今から発する言葉を頭の中で何度も咀嚼しているかのように言い渋り――
「全員凍死だそうだ」