第2話 左遷された男
文字数 1,896文字
軍属のカズマは人を護りたかった。
理不尽な死から、できうる限り護ってやりたかった。
しかし、彼の願いは時代にそぐわず。
人口の増え続けた現在、人の命は物よりも軽い。殺人よりも器物破損のほうが重罪であり、守るべきは国民ではなく、国を形成している土地や建物。
そのような思想に反発し続けた結果、カズマは左遷された。二十二歳の秋だった。
無論、後悔はしていない。
それどころか、友人に連絡を取る理由ができたと喜んでいるくらいだ。
なんせ、友人のルカは最初の配属先からして終わっていた。カズマがそうならなかった理由の半分は、その友人のおかげである。
そのことに若干の負い目があったカズマは、学舎を卒業して以来、連絡を取っていなかった。
けど、これで対等。少なくとも、愚痴を言い合えるようにはなっただろうと、カズマは軽く自嘲する。
本日、カズマに与えられた任務は整備士の送迎だった。
場所はマゲイアと呼ばれる島国。
噂が本当であるならば、そう悪くもないとカズマは思い直す。
科学大国フィロソフィアを、たったの一日で降したとされる魔術王国。
真相は定かではない。
ただ、一方的な宣戦布告をしたフィロソフィアが翌日に撤回したのは周知の事実であった。
そして、後日。
フィロソフィアは戦闘機ではなく、貨物機でマゲイアを訪問した。
そういった経緯から、フィロソフィアはマゲイアに敗北したと囁かれていた。
カズマは眼下の島国を見下ろすも、あまりに小さい。フィロソフィアどころか、自国の十分の一。おそらく、人口は百万人にも満たないだろう。
対するフィロソフィアは面積も人口も百倍以上。武力戦に限らずとも、負ける図は想像すらできなかった。
――あくまで、こちらの常識では。
そうなると、魔術の存在を認めざるを得ない。それが兵器を凌駕するとは思えないが、魅力的なエネルギーと技術である可能性は十分に有り得る。
それを『武器』に交渉すれば、争いを避けるくらいは難しくないだろう。
現に経済大国 や農業大国 を始めとした四大国は、外交交渉を持ってフィロソフィアを御していた。
それにしては、目新しい技術や発明の情報が入ってこないものの、それは本国が独占していると決めつければ腑に落ちる。満足のいく回答に辿り着いたところで、カズマは思考を切り上げた。
操縦桿を上下左右に忙しなく操作し、集中する。
二人乗りの航空機。ちなみに立派な戦闘機だ。長いこと使われていない(これからも使われる機会はない)が、五十口径の重機関銃も装備されてある。
着陸に伴い島が国に、国が街へと変わっていく。
背の高い建物がないおかげか、自然が目立つ。人口問題とは無縁なのか、手付かずの土地も多く見受けられた。建造物の一つ一つも大きく、見栄えもいい。機能的とは言い難いが、傍から見るぶんには憧れを抱かせた。
そんな絵のような風景に混ざりこんだ異物――フィロソフィアが作ったであろう滑走路および、それに伴う施設は森に囲まれるように鎮座していた。
空から見た限り、一番近くの建造物は立派な城の景観――マゲイアの王城に違いない。
カズマは余裕を持って、着陸させる。
眼下の景色に目移りしながら、ふと発電所の規模の小ささが気になった。自然を大事にしているのか、それともさほど必要としていないのか。
どちらにしろ、羨ましい限りだとカズマは思う。
フィロソフィアの手が加わった場所でさえ、これほどの差がある。自国と同じなのに――それが、勝者と敗者の違いだと噛み締める。
戦闘機から降りると、マゲイアの者が迎えにきた。整備士は慣れているのか、冗談すら交わしている。
「カズマ少尉はどうしますか?」
今から発電所など、設備の点検に動くとのこと。ついて行っても雑用。となれば、断るに限るとカズマは時間を潰せる場所を尋ねる。
「施設から出るのは禁止されていますから。そうですね……」
その勧告に魔術の信憑性と価値が上がるも、直接触れるのは叶いそうもない。
マゲイアは王政であり、未だ公開処刑が行われている実情を考慮すると、無茶は言えなかった。
「なら、適当に過ごしている」
手を上げて歩き出すと、絶対に施設外に出ないようにと念を押された。
「ちゃんと、監視カメラもありますからね。バレなきゃいいって考えは、止めてくださいよ?」
子供じゃないとムカつきながらも、カズマはわかっていると応じた。
理不尽な死から、できうる限り護ってやりたかった。
しかし、彼の願いは時代にそぐわず。
人口の増え続けた現在、人の命は物よりも軽い。殺人よりも器物破損のほうが重罪であり、守るべきは国民ではなく、国を形成している土地や建物。
そのような思想に反発し続けた結果、カズマは左遷された。二十二歳の秋だった。
無論、後悔はしていない。
それどころか、友人に連絡を取る理由ができたと喜んでいるくらいだ。
なんせ、友人のルカは最初の配属先からして終わっていた。カズマがそうならなかった理由の半分は、その友人のおかげである。
そのことに若干の負い目があったカズマは、学舎を卒業して以来、連絡を取っていなかった。
けど、これで対等。少なくとも、愚痴を言い合えるようにはなっただろうと、カズマは軽く自嘲する。
本日、カズマに与えられた任務は整備士の送迎だった。
場所はマゲイアと呼ばれる島国。
噂が本当であるならば、そう悪くもないとカズマは思い直す。
科学大国フィロソフィアを、たったの一日で降したとされる魔術王国。
真相は定かではない。
ただ、一方的な宣戦布告をしたフィロソフィアが翌日に撤回したのは周知の事実であった。
そして、後日。
フィロソフィアは戦闘機ではなく、貨物機でマゲイアを訪問した。
そういった経緯から、フィロソフィアはマゲイアに敗北したと囁かれていた。
カズマは眼下の島国を見下ろすも、あまりに小さい。フィロソフィアどころか、自国の十分の一。おそらく、人口は百万人にも満たないだろう。
対するフィロソフィアは面積も人口も百倍以上。武力戦に限らずとも、負ける図は想像すらできなかった。
――あくまで、こちらの常識では。
そうなると、魔術の存在を認めざるを得ない。それが兵器を凌駕するとは思えないが、魅力的なエネルギーと技術である可能性は十分に有り得る。
それを『武器』に交渉すれば、争いを避けるくらいは難しくないだろう。
現に
それにしては、目新しい技術や発明の情報が入ってこないものの、それは本国が独占していると決めつければ腑に落ちる。満足のいく回答に辿り着いたところで、カズマは思考を切り上げた。
操縦桿を上下左右に忙しなく操作し、集中する。
二人乗りの航空機。ちなみに立派な戦闘機だ。長いこと使われていない(これからも使われる機会はない)が、五十口径の重機関銃も装備されてある。
着陸に伴い島が国に、国が街へと変わっていく。
背の高い建物がないおかげか、自然が目立つ。人口問題とは無縁なのか、手付かずの土地も多く見受けられた。建造物の一つ一つも大きく、見栄えもいい。機能的とは言い難いが、傍から見るぶんには憧れを抱かせた。
そんな絵のような風景に混ざりこんだ異物――フィロソフィアが作ったであろう滑走路および、それに伴う施設は森に囲まれるように鎮座していた。
空から見た限り、一番近くの建造物は立派な城の景観――マゲイアの王城に違いない。
カズマは余裕を持って、着陸させる。
眼下の景色に目移りしながら、ふと発電所の規模の小ささが気になった。自然を大事にしているのか、それともさほど必要としていないのか。
どちらにしろ、羨ましい限りだとカズマは思う。
フィロソフィアの手が加わった場所でさえ、これほどの差がある。自国と同じなのに――それが、勝者と敗者の違いだと噛み締める。
戦闘機から降りると、マゲイアの者が迎えにきた。整備士は慣れているのか、冗談すら交わしている。
「カズマ少尉はどうしますか?」
今から発電所など、設備の点検に動くとのこと。ついて行っても雑用。となれば、断るに限るとカズマは時間を潰せる場所を尋ねる。
「施設から出るのは禁止されていますから。そうですね……」
その勧告に魔術の信憑性と価値が上がるも、直接触れるのは叶いそうもない。
マゲイアは王政であり、未だ公開処刑が行われている実情を考慮すると、無茶は言えなかった。
「なら、適当に過ごしている」
手を上げて歩き出すと、絶対に施設外に出ないようにと念を押された。
「ちゃんと、監視カメラもありますからね。バレなきゃいいって考えは、止めてくださいよ?」
子供じゃないとムカつきながらも、カズマはわかっていると応じた。