第11話 空からの襲撃
文字数 1,682文字
踏み入るまでもなく、二人とも異変に気付いた。
広がる大地。ある種、見慣れた道が先にある。
「なんで、こんなに広いのに……?」
車内で振り返り、アルルは漏らす。
後ろには密集した建物。隙間が道であり、道が隙間となった無駄の省かれた造り。打って変わった風景にアルルは疑問を抱き、リューズは嬉々として頬を緩ませている。
「汚染されているからだよ。実際、人体に致命的な影響は発見されてないんだけどな。見ての通り植物は育たないし、動物も寄ってこない」
それでも、人は生きていける。
ここは、住む場所のない人間が集まる集落として機能していた。人権問題を謳い、フィロソフィアが用意した住居施設が幾つか点在している。
しかし、そこに住んでいるのはそれなりに余裕のある人間だ。
健全な土地には個人が根付くスペースすらないが、ここは有り余っている。
乾いた砂塵に覆われ、近代的なビルにかつての輝きは残っていない。古代の塔のように取り残され、廃れた遺物じみていた。
その所為か、周囲には無断で造られた住居がくっついている。
ゴミを寄せ集めただけであったり、白っぽい石で囲っただけの稚拙さだが、住んでいるのはれっきとした大人であり、老人であった。
彼らは海底から地上を見上げるような危うい瞳を携え、カズマの乗る軍用車を舐めつけていた。
その色に恐れを成してか、アルルは身を屈めるもリューズは違った。
カズマでさえ見て見ぬ振りをするかしないのに、瞳を引き絞り迎え撃っていた。眼差しから察せられる感情は軽蔑に違いないが、高慢さは宿っていない。
まるで、甘えるなと厳しく叱咤するかのように力強い。
だからだろうか、いつもならば見送るだけの彼らが立ち上がった。傍に転がしておいた拳銃を握り、発砲した。
――無駄だと、知っているはずなのに。
ハフ・グロウスで認められている銃器は対人用のみ。
軍でさえ、戦闘機に付属しているモノ以外は所持していなかった。
その為、激しい暴動など武力で持って制圧する必要性がある場合は、フィロソフィアに救援を仰ぐ仕組みを取っている。
よって、防弾仕様になっている軍用車に損傷を与えることは不可能おであった。
それ以前に、ハフ・グロウスの拳銃は基本的に中折れ式のリボルバー、火薬の少ない弱装弾、人体にのみ非情な効果を発揮するホローポイントと、普通車ですら壊せない代物。
密集した街では車一台の爆破でさえ命取りになってしまうので、拳銃は威力を殺がれ、車は速度を削がれていた。
それでも、時速四十キロと人が走って追いつけるスピードではない。
ましてや、車体の上に乗られるなんてありえなかった。
――ドンッ、という着音と振動は疑いようもなく天井から伝わってきた。
カズマは周囲を窺うも、車よりも高い足場は近くに見当たらない。
「止まんねぇと、撃つぞ?」
なのに、声がする。それも上から。よく聞こえないが男。
カズマは冷静に無視を選び――バンッ! と風が車内へと入り込んだ。
「想定されてねぇ場所は脆いって知らなかったか? 特に、フィロソフィア製はな」
今度ははっきりと聞こえた。
若い男の声。嘲笑混じりの響きから、今のは警告だとカズマは車を止める。急ブレーキ。振り落とすつもりだったが、効果は全くない様子。
「降りろ」
ボンネットに着地した男はチャラかった。狼を彷彿させる長い茶髪。耳や胸元、手首には貴金属。真っ赤なシャツに、丈の長い迷彩柄のジャケットを羽織っている。
「アルル。五メートルくらいでいいから、あいつ飛ばして」
リューズの声は車の外まで聞こえなかったのか、男に反応はない。
「開始 ――カナリアの悪戯 」
「降臨 ――白兵戦最強 」
アルルの呪文に続いて、リューズは飛び出す。
「面白ぇ、テメーもマゲイアの人間か」
男の声はすぐ近くから聞こえた。
広がる大地。ある種、見慣れた道が先にある。
「なんで、こんなに広いのに……?」
車内で振り返り、アルルは漏らす。
後ろには密集した建物。隙間が道であり、道が隙間となった無駄の省かれた造り。打って変わった風景にアルルは疑問を抱き、リューズは嬉々として頬を緩ませている。
「汚染されているからだよ。実際、人体に致命的な影響は発見されてないんだけどな。見ての通り植物は育たないし、動物も寄ってこない」
それでも、人は生きていける。
ここは、住む場所のない人間が集まる集落として機能していた。人権問題を謳い、フィロソフィアが用意した住居施設が幾つか点在している。
しかし、そこに住んでいるのはそれなりに余裕のある人間だ。
健全な土地には個人が根付くスペースすらないが、ここは有り余っている。
乾いた砂塵に覆われ、近代的なビルにかつての輝きは残っていない。古代の塔のように取り残され、廃れた遺物じみていた。
その所為か、周囲には無断で造られた住居がくっついている。
ゴミを寄せ集めただけであったり、白っぽい石で囲っただけの稚拙さだが、住んでいるのはれっきとした大人であり、老人であった。
彼らは海底から地上を見上げるような危うい瞳を携え、カズマの乗る軍用車を舐めつけていた。
その色に恐れを成してか、アルルは身を屈めるもリューズは違った。
カズマでさえ見て見ぬ振りをするかしないのに、瞳を引き絞り迎え撃っていた。眼差しから察せられる感情は軽蔑に違いないが、高慢さは宿っていない。
まるで、甘えるなと厳しく叱咤するかのように力強い。
だからだろうか、いつもならば見送るだけの彼らが立ち上がった。傍に転がしておいた拳銃を握り、発砲した。
――無駄だと、知っているはずなのに。
ハフ・グロウスで認められている銃器は対人用のみ。
軍でさえ、戦闘機に付属しているモノ以外は所持していなかった。
その為、激しい暴動など武力で持って制圧する必要性がある場合は、フィロソフィアに救援を仰ぐ仕組みを取っている。
よって、防弾仕様になっている軍用車に損傷を与えることは不可能おであった。
それ以前に、ハフ・グロウスの拳銃は基本的に中折れ式のリボルバー、火薬の少ない弱装弾、人体にのみ非情な効果を発揮するホローポイントと、普通車ですら壊せない代物。
密集した街では車一台の爆破でさえ命取りになってしまうので、拳銃は威力を殺がれ、車は速度を削がれていた。
それでも、時速四十キロと人が走って追いつけるスピードではない。
ましてや、車体の上に乗られるなんてありえなかった。
――ドンッ、という着音と振動は疑いようもなく天井から伝わってきた。
カズマは周囲を窺うも、車よりも高い足場は近くに見当たらない。
「止まんねぇと、撃つぞ?」
なのに、声がする。それも上から。よく聞こえないが男。
カズマは冷静に無視を選び――バンッ! と風が車内へと入り込んだ。
「想定されてねぇ場所は脆いって知らなかったか? 特に、フィロソフィア製はな」
今度ははっきりと聞こえた。
若い男の声。嘲笑混じりの響きから、今のは警告だとカズマは車を止める。急ブレーキ。振り落とすつもりだったが、効果は全くない様子。
「降りろ」
ボンネットに着地した男はチャラかった。狼を彷彿させる長い茶髪。耳や胸元、手首には貴金属。真っ赤なシャツに、丈の長い迷彩柄のジャケットを羽織っている。
「アルル。五メートルくらいでいいから、あいつ飛ばして」
リューズの声は車の外まで聞こえなかったのか、男に反応はない。
「
「
アルルの呪文に続いて、リューズは飛び出す。
「面白ぇ、テメーもマゲイアの人間か」
男の声はすぐ近くから聞こえた。