第42話 深窓の姫君

文字数 866文字

 その日、マゲイアの上空に一台の軍用機が姿を見せた。
 グリットリアがフィロソフィアから独立した一週間後のことだ。
 
 マゲイアの王は即座にハーミットを動かし、撃ち落とそうとするも何故か攻撃が届かない。
 本日は外出禁止令も出ておらず、その光景は多くの住民たちに見咎められていた。誰もがチャージで視力を強化して、初めて見る〝ソレ〟に圧倒されていた。
 
 そんな彼らの気持ちを知ってか知らずか、扉が開いた。
 
 三人……いや、四人の顔がマゲイアを見下ろす。
 空に足を付けた内の一人は、多くの住民の記憶を刺激した。
 
 ――第十六王女アルル。
 
 彼女の傍らには、剣を携えた少女と無手の少年が控えている。この二人に心揺さぶられたのは、ほとんどいなかった。
 三人はまた得体の知れない乗り物に引っ込み、アルルの声が響いた。

『皆さん――』
 
 澄んだ声は島中に届いていた。
 アルルは窓から地上を見下ろし、リミットの全てを語った。
 演説中、稲光や竜巻が幾度となく襲いかかっていたが、なんの邪魔にもなっていなかった。むしろ、アルルの言葉に真実味を帯びさせていた。

『魔術がなくとも、人は生きていけます。現に、わたしは生きています。リミットを手にしようとも――わたしたちは生きていけます』
 
 アルルは王を否定した。
 言葉で、行動で、それが正しいと示した。
 王が間違っていると、皆を騙していたと暴露した。
 
 これがどういう事態を招くかは、アルルにもわからない。
 
 また戦乱の時代に陥るのか、それとも変わらぬ王制が続くのか。
 亀裂が入ったとはいえ、フィロソフィアとマゲイアの関係は未だ続いている。
 暴動が起きれば、彼らの力を借りるのも可能であろう。
 もちろん、それが招く危険性を許容できるのであればだが。
 
 アルルは冷笑を浮かべ、王城を見据える。
 
 そんなアルルの姿をマゲイアの国民は見上げていた。
 一人残らず、誰もが記憶に刻んでいた。
 
 長きに渡る安寧をぶち壊した、深窓の姫君の冷笑を――
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登場人物紹介

カズマ、22歳。

ハフ・グロウスの軍人だが、忠誠心に欠ける為、左遷される。

支配国からの独立を目論んではいるものの、具体的な計画性は皆無。

拳銃で接近戦をこなす、グリットリア式の変わった銃術を扱う。


リューズ、おそらく16歳。

マゲイアの住民。禁忌とされるリミット《限定魔術》に手を出したフール《愚者》。

長いこと追われる身であるものの、諦めず亡命計画を企てるほど強かで逞しい。

かつて、望んだ願いは『剣の最強の証明』

ゆえに彼女のリミット――白兵戦最強《ソードマスター》は剣を召喚し、遠距離からの攻撃を無力化する。

アルル、12歳。

マゲイアの第16王女でありながらも、リミットに手を出したフール。

もっとも、その立場から裁かれることはなく、軟禁に留まっている。

かつて、望んだ願いは『窓から見える風景だけでも自由にしたい』

ゆえに彼女のリミット――キリング・タイム《カナリアの悪戯》は窓越しの世界を自由に操る。

ロイス、おそらく16歳。トリックファイター《伝統破壊者》の通り名を持つ。

14歳の時に、マゲイアから亡命を果たしたフール。

その為、魔術師でありながらグリットリア式銃術も扱う。

かつて、望んだ願いは『一人でも平気な世界』

ゆえに彼のリミット――プレイルーム《独りぼっちの楽園》は自分にだけ見え、感じ、触れられる空間を具現化する。

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