ソラミミとピエロ斬りの草里楓(1)
文字数 773文字
ソラミミ
草里 楓の声がわたしを呼んだ。
ソラミミ
もう一度。呼ばれたとわかってからわたしはここにいたのだと気づいて、
目を開ける。ここは学園の……教室、か。
わたしは、空丘耳穂で、ソラミミと呼ばれてて、ソラミミが聴こえたことなんて一度も無い。けど、草里はなぜかいつも「また」と言う。
ソラミミがまたいっちゃってたのだって。くくく。などと笑い合う、周りの友達の声。教室の風景がぼんやりと戻ってくる。
草里がわたしのぎゅっと握ったままの手のひらをこじ開ける。
苦労してこじ開けてみれば、わたしの右手のひらは、雫に濡れている。少しだけきらきらして見えるそれ以外には、何もない。だめだった。持ってくる間に、また溶けてしまったんだ。
じっと真剣な眼差しだった草里がため息つくと、寄ってきていた何人かの女子らもやっぱり。と言ってめいめいの席に戻っていく。すると、彼女らに隠れて見えなかったが、背の低い担任の赤居が呆れ顔で腕組みしている。
わたしはこの学園に来る前、草里いうところの、わたしがいっちゃう場所……から、そこにしかない、不思議な、宝石みたいなものを持ち帰ったことがあるのだ。その特別な才能を認められてわたしは今年、この学園に来ることになったのだったけれどー―