ソラミミとピエロ斬りの草里楓(2)
文字数 2,243文字
わたしはこの学園に来る前、草里いうところの、わたしがいっちゃう場所……から、そこにしかない、不思議な、宝石みたいなものを持ち帰ったことがあるのだ。
いっちゃう場所というのは、その人固有の夢やあるいは特異な妄想の発達した空間と解釈されるが、明確に定義されるようなものではない。
だから教師はわたしの昼寝をとがめることはない。いつ、また宝石を持ち帰ってこれるかもしれないので。
けど、あれからも何度か、掴みかけたことはあるけれど、掴みかねて、そのまま今まで何も掴めていないまま。
けど、あれからも何度か、掴みかけたことはあるけれど、掴みかねて、そのまま今まで何も掴めていないまま。
チャイムが鳴る。
こうして今日が終わり明日が終わり、このままわたしにはもう何も掴むことはできないのかもしれない……。
ここ、雲の間に学園には、様々な特殊な力を持った子が通っている。けれど、わたしと同じようなことをする子は、あまりいない。同じ《手わざ系》の子でも、もう少し具体的に、水や砂のなかからきれいな石を見つけ出したり、きちんとした材料があってそこから金や銀を作り出す子はいるけど。
こうして今日が終わり明日が終わり、このままわたしにはもう何も掴むことはできないのかもしれない……。
ここ、雲の間に学園には、様々な特殊な力を持った子が通っている。けれど、わたしと同じようなことをする子は、あまりいない。同じ《手わざ系》の子でも、もう少し具体的に、水や砂のなかからきれいな石を見つけ出したり、きちんとした材料があってそこから金や銀を作り出す子はいるけど。
草里と、千切れ雲の舞う下り坂を下り、徒歩で帰路に着く。この学園にいるのは女子ばかりで、女子寮もある。あるけど、わたしや草里のように寮に入っていない子もいる。
草里の背中には、その小さな背丈には不釣合いの長い鞘がかけられている。《ピエロ斬り》だ。《戦系》。幻だとかなにかふわふわとした得体の知れないもの、夢から追ってくるものとかそういう形の定まらないものを斬る子たち。この子たちの使う特殊な剣を一括してピエロ斬りと呼んでいる。学園には、わたしのような手わざ系に比べると戦系の子のが断然多い。多いけど、草里はそういうなかでも腕は抜群と言われていた。
そーう? わたしのオカアさんなんか、葡萄作りで楽しくやってたよ。じゃあそれか、わたしらが扱うピエロ斬りを作るのとかは? ソラミミが採ってきたみたいな、ああいう特別な石とかを原材料にしないと作れないものらしいよ。これは
草里は背中の鞘をコンコン、と叩く。
正門から伸びる坂道が終わって、でこぼこの草原を歩く。ここらへんは雲が大きくて、歩くわたしたちのすぐ近くを流れてくる。学園のあるこの地方は、地上と空との《あわいの地区》と呼ばれるように、地上を遠く離れた空の近くにあるところなのだ。
ときどき其処ここ転がってくる雲のなかに身体ごと入る。一瞬で抜けてしまうけど、どことなくわたしのいく場所にニオイや感触が似ている。
飛んでくる雲を避けながら、草里が聞いてくる。雲のなかの感触が嫌いなのだそうだ。
出口がないのかと思うくらい、暗いもやもやしたとこにふと迷い込むこともある。
草里が、わたしの髪をわしっとする。
前方から、身体の倍くらいの雲のかたまりがゆっくり流れてきた。草里が背中のピエロ斬りを抜いてびゅっとそれを断ち切る。雲が散らばって草原の彼方に流れていく。
わたしら手わざ系でも、戦系の子らと一緒に運動の授業はする。最近はピエロ斬りなんかやってて、楽しい。
や、そりゃヘタクソって言っても、普通なら斬れないものを斬るんだから、斬れるだけまああんたはその手の才能自体はあるってことだけど。特殊なものが見えたり、触れたりするっていう。けど、あんたちょっととろいし
戦系の子らが将来就く仕事は色々あるけれど、学園でも一年の後期になるこの時期には幾つかの専科に分かれている。一般的なのはとにかく正体不明のもの全般を斬るピエロ斬り。形の定まらない雲とか煙とか、高度な場合には透明な気体とかを対象にするのが幻斬り。わたしの仕事に関係の深いのだと、夢追い斬りというのがある。文字通り、夢や妄想のなかから姿を現すものを斬る。