パレード潰しの日(2)
文字数 1,971文字
三人がほぼ同時に、ピエロ斬りを抜いた。小象が、ぱぽーとラッパを吹く。始まった……振り向いた瞬間、まだかなり後ろにいたパレードが一気に近づく。
草里が真っ先に前に出る。
ピエロだ。いる、いる。白と赤二色の衣装に身を包み楽しそうな笑顔。踊っている。たくさん……こんなに、斬れるの? それに、その後方に、かすんで見えた。象だ。パレードの象……大きい。こんな小象、一飲みにしてしまうくらいに。
草里がもうパレードの真っ只中に飛んでいる。
草里は紙を切るようにぱさぱさとピエロを切り開いていく。なんて鮮やかなんだろう。
草里は紙を切るようにぱさぱさとピエロを切り開いていく。なんて鮮やかなんだろう。
死んだピエロは尚踊るようにして舞ってくる。
切り開かれたピエロのなかに、色んな風景や模様や色が見える。そのほとんどは、曖昧ではっきりとしない、景色とも言えない景色で、色とも言えない色で……はっ。そのなかの一つに、宝石の輝きが見えた。ピエロの死体のなかにわたしは手を伸ばす。内臓の感触。だけどたまらない快感がわたしを抉る。曖昧な色が目の前に拡がる。宝石、どこだ…………
切り開かれたピエロのなかに、色んな風景や模様や色が見える。そのほとんどは、曖昧ではっきりとしない、景色とも言えない景色で、色とも言えない色で……はっ。そのなかの一つに、宝石の輝きが見えた。ピエロの死体のなかにわたしは手を伸ばす。内臓の感触。だけどたまらない快感がわたしを抉る。曖昧な色が目の前に拡がる。宝石、どこだ…………
草里がわたしの身体を持ち上げる。
はっ。そうだった。取り込まれるところだった。これは、罠か……でもさっきのは本当に……
草里はまた、随分先に飛んでいる。
はっ。そうだった。取り込まれるところだった。これは、罠か……でもさっきのは本当に……
草里はまた、随分先に飛んでいる。
あ"っ
ひしゃげた声。
隣。四副さんが、蹲っている。
えっ。見ると、四副さんの足元に四体の小さな太っちょピエロがいて、四副さんのひざから下がふうっとずれたかと思うと、それを二体ずつがかかえて嬉しそうな顔しながら持ち去ってしまった。
それからまたどこからともなく小デブなピエロが出てきて、四副さんの手首をぷっさりと切り取って、鼻の頭に引っ付けたり、頭のてっぺんのデカリボンに結び付けたりしている。皆皆笑っている。ああ、そう、それは楽しそうに。
四副さんはもう、あ"・あ"・あ"とかも"・も"・も"とかよくわからないひしゃげた声を漏らしつづけるばかりで。
四副さんはもう、あ"・あ"・あ"とかも"・も"・も"とかよくわからないひしゃげた声を漏らしつづけるばかりで。
ピエロたちは四副さんの服をぺらぺらと破って身体のあらゆる色んな出っ張りをすぽすぽと引っこ抜いて楽しそうに去っていく。ああ、うわあ。四副さん……
わたしは彼女のピエロ斬りを見つけてそれで彼女を助けられないかと見渡したが、すでにピエロ斬りもピエロの手に渡っており、それをピエロは五人がかりでエイヤっと振り回して四副さんを切り開いてしまった。彼女のなかの見てはいけない秘密だとか過去だとかが惜しげもなく景色として拡がり始める。
わたしは彼女のピエロ斬りを見つけてそれで彼女を助けられないかと見渡したが、すでにピエロ斬りもピエロの手に渡っており、それをピエロは五人がかりでエイヤっと振り回して四副さんを切り開いてしまった。彼女のなかの見てはいけない秘密だとか過去だとかが惜しげもなく景色として拡がり始める。
わたしは逃げるようにもがくが、纏いつく重い水のなかを泳ぐみたいに、進まない。辺りはすぐに暗くなり、小さな星のような点滅が辺り一面にちらついている。ピエロの笑い声とあ"あ"あ"も"も"も"という気持ちの悪い声が混ざって一緒くたになってわたしの頭のなかに流れ込んでくる。
ピエロが見ている。わたしを見ている。
パレードにやられるなんて、ああいやだ。
パレードにやられるなんて、ああいやだ。
シュン、と一閃が閃き、うはー! という叫びともとれぬ声をあげて、紙きれのように破けたピエロがぺらぺらと舞ってくる。
また、シュン、シュン、と閃きだけが暗がりのなかで舞う。その度、うはーうはーと言って紙きれのピエロが舞い散る。
草里? これは、草里のピエロ斬り? 草里が、どこかで斬っているの?
わたしは、はあっと息をして白い地平に倒れこむ。たくさんの紙のピエロが積もっており、更に降り積む。もう、閃きは見えないけど、シュン、シュン、という音だけはまだ響いている。
草里? これは、草里のピエロ斬り? 草里が、どこかで斬っているの?
わたしは、はあっと息をして白い地平に倒れこむ。たくさんの紙のピエロが積もっており、更に降り積む。もう、閃きは見えないけど、シュン、シュン、という音だけはまだ響いている。
わたしは自分の身体を確認した。無事……だ。どうやらどこもどうにもなってはいない。周りに、四副さんも郡さんも姿は見えない。ただ白があるばかり。
はらはらと、破れて舞ってくるピエロ。
一つ手に取ると、それは全く紙でできたピエロだった。紙の破けたところからは内臓が絵として飛び出ている。この紙のピエロは確かに死んでいる、殺されているということが表現されている。これが、ピエロの死なのか。これが草里のピエロ斬りなのか。
はらはらと、破れて舞ってくるピエロ。
一つ手に取ると、それは全く紙でできたピエロだった。紙の破けたところからは内臓が絵として飛び出ている。この紙のピエロは確かに死んでいる、殺されているということが表現されている。これが、ピエロの死なのか。これが草里のピエロ斬りなのか。
わたしはへたっと座り込んでその風景がいつまで続くものか、ぼうっと見ていたが、ふと、ピエロの堆積の横に落ちている一枚の紙に目をやると、それは四副さんだった。さっきピエロに服を脱がされ、身体の色んな部分を除去されひどいことに手首を鼻や頭のてっぺんに取り付けられた裸の四副さんの、死体の絵だった。小さな絵のなかで、四副さんは死んでいた。
ソラミミ!
やっと草里の声が聴こえた。