決戦

文字数 763文字

「カナタは私とゲノが後から付けた名。その子の本当の名前を知るものはもういない。」
 ユナは苦しそうにあえぎながら話した。
「名前は己のルーツであり所有の証。それを捨てたというのか。」
 獣の問いに
「本当の名前なんてどうでもいい。私達にとってこの子はカナタ。ゲノとユナの大切な一人息子。これが、わたしたちにとっての真実。この名前は愛情をつなぐもの。縛るためのものじゃない。」
 そう答え、カナタに向けて続けた。
「カナタ。父さんのゲノも本当の名前じゃないの。追われていた父さんにゼノが自分の名前に似せてつけた。ゼノは本当は娘じゃなく、息子が欲しかったんじゃないかしら。父さんはカナタの父親として生きるために昔の名前を捨てた。」

 獣の様子がおかしい。いつの間にか腹ばいになっている。見ると、馬のテヘロの玉が消えている。それは、黒馬テヘナのアザノ中央に移っていた。
「いつの間に。」
 獣は、力の入らなくなった後足から剣先を抜くと
「小ざかしいやつだ。黒馬、空の『器』だったとはな。お前の名前は、よく知ってるぞ。俺がつけたんだからな。鎖を差し出せ。テヘナ。」
 テヘナの模様から赤い鎖が獣に向かって飛び出した。

「サタドゥール。」
 鎖がつながる直前、『器』となったテヘナがカナタに伝えた言葉だ。直後、鎖で動けなくなったテヘナを獣がその大きな口で飲み込んだ。
 今なら、やつは動けない。カナタはゆっくりと近づくと
「名前の鎖を我に。サタドゥール。」
 と叫んだ。獣の蛇族の模様から黒い鎖がカナタへとつながった。
「母さん、お別れです。」
 というと、そのまま獣の牙にかかった。

 獣に8つの玉が揃った。獣の中では、人への憎しみと信頼が葛藤していた。多くの『器』の魂がサタドゥールが与えた憎しみからいまだ抜け出せないでいた。
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登場人物紹介

ユナ・バーン

カナタの母

サーベル使いで、サーベルタイガー・ユナの異名を持つ

カナタ

『器』の一人

10歳まで山奥に隠れて暮らす

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