語り部

文字数 917文字

 この世界の姿は植物によって形創られた。彼らは大地に根を張り巡らし、大地の意志を形成した。動物は植物に寄生しながら生きてきた。植物が動物を寄生させ続けるのは自らの種族を守るためだった。いわば、王と騎士のようなもの。動物は自分が寄生する植物が荒らされないように守ってきた。この世界に数多くの植物と動物の種族が生まれた。
 やがて、それぞれの種が大地を我が物にしようと、争いを始めた。巨大になった動物達は互いに邪魔な植物に対し、破壊の限りを尽くしていった。大地の意志は、この世界を治めるために4体の霊獣を創った。それらは玄武・朱雀・白虎・青龍と呼ばれた。彼らは各々地下・空・地上・水を統治した。巨大過ぎる力は時として衝突を繰り返す。そこで知恵を持つ麒麟が創られ、彼らをまとめさせることになった。それゆえに、霊獣の中には麒麟を疎ましく思うものもいた。
 4霊獣は自らの命を合わせて一匹の凶暴な生物になった。ドラゴン。後に人間がつけた名前だ。ドラゴンの凶悪な力に、麒麟は知恵で対抗した。戦いはいつ終わるとも知れなかった。しかし、ついに決着のときは来た。大地が荒れ果てることを悲しんだ麒麟は、自らの知恵を人に与え、ドラゴンに飲み込まれた。こうしてこの世界で最も邪悪な獣が生まれた。
 命をも操ることができる麒麟の知恵を与えられた人は、7体の『器』となる動物とその模様を持つ種族を選び出し、獣の力と魂をそれらに移す復活の儀式を行った。獣は7つに裂かれ、麒麟の残された力である天空を駆ける俊足は馬の後足に与えられた。玄武は蛇の毒牙と穴ウサギの目に、朱雀はワシの翼に、白虎は虎の前足に、青龍はサメの歯と鹿の角に分けられた。そして、それぞれが近づかぬように置かれた。
 魂の入った『器』には模様の中に玉があり、魂の玉は種族ごとに守られてきた。

 それから幾千年。水中のサメは姿を変えることなく太古の営みを続けてきた。しかし、地上の者達は環境の変動によってその姿を変えていった。やがて、大地への感謝を忘れ、傲慢になった。麒麟は、いつか邪悪な魂が、人の『器』を滅し、獣を復活させると予言した。

 サメの語り部は話を終えると、深い海の底へと戻っていった。
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登場人物紹介

ユナ・バーン

カナタの母

サーベル使いで、サーベルタイガー・ユナの異名を持つ

カナタ

『器』の一人

10歳まで山奥に隠れて暮らす

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