獣復活

「どこへ逃げようと無駄だというのに。」
　ドラゴンの意識は、カナタたちに向いていた。ドラゴンには植物達の意識を通して、テヘナに乗って走る彼らの姿がありありと見えた。

「最期のお勤めだ。しくじるなよ。」
　城の中央の大広間にいたゼノ、イゴー、トット、タホトは城の四隅へと散っていった。

　やがて、ドラゴンの七つ目の玉が完成した。いにしえの獣は復活した。
「そうか、やつの名はカナタか。あと一押し。８つ目の魂を取り込めばこの体は完全体となる。すべての生物、この大地の王となれるのだ。」
　ドラゴンは高らかに雄たけびを上げると、立ち上がり翼を動かした。

「カラン、カラーン。」
　城の塔の鐘が鳴り渡る。
「ゴゴゴゴゴ・・・。」
　鈍い地響きの後、
「ドン！ドン！」
　という激しい音が城の四隅から聞こえた。次の瞬間、ドラゴンを取り囲むように巨大な亀裂が走る。庭が揺れる。すさまじい地響きとともにドラゴンの巨体は、彼を乗せた土もろともに深い竪穴に落下し始めた。その上に崩れた城の瓦礫が覆いかぶさる。ドラゴンの重さに耐え切れず陥没したようにも見えたが、もうもうと舞う土煙の中に濃い硝煙の臭いが漂っていた。

　城が敵の手に落ちた時の、最後の手段。敵の大将もろともの城の爆破。近衛師団に極秘に与えられた真の役割だった。だから、彼らはその日まで生き延び続けなければならなかった。ゼノは娘を師団に決して入れなかった。そのことをゼノはユナに語らなかったが、彼女はゲノから密かに聞いていた。

　ユナは逃げる後ろでその音を聞いた。彼女は振り返ることはしなかった。カナタを獣の手の届かないところへ逃がす。そのことだけを考えて、西の灰色の大地へと向かっていた。