ウシクワール

文字数 745文字

 ウシクワールは人間の生まれる遙か昔から姿形を変えない古代ザメの一種だ。かれらの背中は固い銀鱗で覆われ、青い口のような模様があった。いにしえの伝説の語り部としての証だと一族には信じられてきた。
 彼は『器』になる気はなかった。人間が漁を始めた頃、サメは人間を襲うことはなかった。が、人間はサメを獰猛な生き物として忌み嫌っていた。やがて、人間が毒水を海に流し、汚すに従い、サメも人間を嫌っていった。ウシクワールの一族は『器』を守る者として、常に人間と距離を取っていた。

 ある時、彼はシャチに襲われている人間の子供を助けた。その時ウシクワールという名前を漁師達からもらった。それ以来、シャチはウシクワールをつけ狙うようになった。やがて、彼が『器』に選ばれた。それは、強かったからではない。彼が最も用心深かったからだ。

 サメの儀式が、全ての『器』の中で、最も原始的で獰猛だろう。『器』に魂を移すことは復活の儀式の始めの部分にあたる。その方法は『器』の生きた肉体の一部を食すことだった。陸上の動物達は生き血をすすることもできたが、海に住む彼らは生者の肉体をかじり取った。手足もなく、毒も持たない彼らに選択の余地など無い。特にサメの儀式は原始的で『器』の一頭を数頭の候補が襲いかかる。彼らは互いに入り乱れて戦い、最後に残った一頭が次の『器』となる。こうして何千年と彼らは魂の移し変えを行ってきた。
 サメたちは、自分の力を鼓舞するため、その鋭い歯で勇猛に戦った。ウシクワールは待った。互いに傷つき、最後に一頭が残るのを。これは人間たちの戦いを見て学んだ。彼らは、まず弱い連中同士を戦わせ、最後に大将が出てくる。サメには無い発想だ。ウシクワールは『器』には興味は無かったが、死ぬのも御免だった。
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登場人物紹介

ユナ・バーン

カナタの母

サーベル使いで、サーベルタイガー・ユナの異名を持つ

カナタ

『器』の一人

10歳まで山奥に隠れて暮らす

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