海渡り

文字数 848文字

 島の海岸では朝早くから、海の道が現れる瞬間を一目見ようと、見物客達とそれを目当てにする露天商達でごった返していた。
 イゴーたち大人は明け方まで飲んでいた疲れからか、まだ寝ている。ゼノは昼には戻ると言い残して、朝早くどこかへ消えた。カナタは丘に隠れている仲間のものとへ向かった。
 人混みから離れた草むらで
「おい、人間!」
 と呼ぶ声が聞こえた。『器』だ。しかし、いままで聞いたことのない声だった。声の主は草むらの中から赤く光る目でをじっと見つめていた。
「お前達、『器』のくせになぜ人間と一緒にいる。やつら『器』を集めて何をしようというんだ。」
 ウサギだ。
「わからない。だが、悪い人たちではない。」
 カナタは茂みのウサギに向かってやわらかに伝えた。
「人間てのは信用できない。おれはもう少し様子を見させてもらう。他の奴らには言うなよ。」
 そういって、穴ウサギは茂みに消えた。

 人・虎・馬・ワシ・鹿の5族の『器』が揃った。一行は、海の道が繋がり海渡りの儀式が終わった昼過ぎに出発した。人ごみの中では動物たちは目立つ。彼らは動物使いの旅の一座に化けた。どちらの国にも支配されないこの自由な土地には人々を検閲する兵士達もいない。翼のあるハイアットは空からいつでも島にいけたが、一行をもっともらしくするために一座の動物として鹿のトッティの背中に止まっていた。
「空から行けば、ひとっ飛びなのに。」
 ハイアットは愚痴をこぼしていた。
「退屈しのぎに、わしらの伝説でも話してやろう。」
 そう前置きをすると、ワシ族の話をし始めた。
「ワシ族は、霊獣、朱雀の末裔だ。直系の末裔は後は白虎の虎族だけだ。ワシは空に、虎は大地に置かれた。われらはそうやって住み分けてきた。」

 人混みを離れると、カナタはゼノに尋ねた。
「ドラゴンと伝説の獣は、本当に同じなのですか?」
「さあな。」
 軽くいなすゼノに対し
「嘘つきサタドゥールのいうことなんざ、信用できるかい。」
 イゴーは怒りに声を荒げた。
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登場人物紹介

ユナ・バーン

カナタの母

サーベル使いで、サーベルタイガー・ユナの異名を持つ

カナタ

『器』の一人

10歳まで山奥に隠れて暮らす

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