検問
文字数 721文字
トットはシラコとの国境近くの街に着いた。
「お前はここの茂みに隠れていろ。」
トットの言葉がわかったのか、牡鹿は街外れのわずかな茂みに身を潜めた。
「かしこいやつだ。」
トットは独り言をつぶやくと、街の雑踏の中へと消えた。
やがて、戻ってきた彼の手には一本の手綱が握られていた。
「国境を越えるまでの辛抱だ。」
そういうと、鹿の首に手綱を巻いた。それは馬のものだったが、ハミの代わりに轡をつけなおしてあった。鹿は嫌がることなくトットの指示におとなしく従った。それから彼は、薄汚れたマントを羽織り、敗れた帽子を被った。そして、穴の空いた厚手の手袋をはめると手綱を持って歩き出した。
「いいこだ。」
トットにうながされ、検問所に入った。
「止まれ!何しに行く。」
憲兵が銃を構えながら質問する。
「へえ、シラコに出稼ぎにめえりやす。」
トットは訛った口調で、一枚の紙を懐から出した。
「木こりか。」
憲兵は、トットの差し出した手形の人相書きと彼の顔を何度も見比べた。
「ドラゴンとの戦に備え武器や砦をつくる大量の木材を切り出してるらしいが、お前もそこへ行くのか?」
銃を下ろした憲兵の問いにトットは首を縦に振った。
「このあたりの連中は皆同じだな。ところで、連れているのは馬ではないな。鹿か?」
憲兵がいぶかしげに質問する。
「へい。われらマタギは山で暮らしやす。ですから馬よりも鹿のほうが便利なんで。」
トットの答えに憲兵は
「そういうものなのか。」
と納得したようにつぶやいた。
「行っていいぞ。それから、無事に帰ってこいよ。お前達でも大事な国民なんだからな。」
憲兵の言葉にトットは一礼して、検問所を後にした。
「お前はここの茂みに隠れていろ。」
トットの言葉がわかったのか、牡鹿は街外れのわずかな茂みに身を潜めた。
「かしこいやつだ。」
トットは独り言をつぶやくと、街の雑踏の中へと消えた。
やがて、戻ってきた彼の手には一本の手綱が握られていた。
「国境を越えるまでの辛抱だ。」
そういうと、鹿の首に手綱を巻いた。それは馬のものだったが、ハミの代わりに轡をつけなおしてあった。鹿は嫌がることなくトットの指示におとなしく従った。それから彼は、薄汚れたマントを羽織り、敗れた帽子を被った。そして、穴の空いた厚手の手袋をはめると手綱を持って歩き出した。
「いいこだ。」
トットにうながされ、検問所に入った。
「止まれ!何しに行く。」
憲兵が銃を構えながら質問する。
「へえ、シラコに出稼ぎにめえりやす。」
トットは訛った口調で、一枚の紙を懐から出した。
「木こりか。」
憲兵は、トットの差し出した手形の人相書きと彼の顔を何度も見比べた。
「ドラゴンとの戦に備え武器や砦をつくる大量の木材を切り出してるらしいが、お前もそこへ行くのか?」
銃を下ろした憲兵の問いにトットは首を縦に振った。
「このあたりの連中は皆同じだな。ところで、連れているのは馬ではないな。鹿か?」
憲兵がいぶかしげに質問する。
「へい。われらマタギは山で暮らしやす。ですから馬よりも鹿のほうが便利なんで。」
トットの答えに憲兵は
「そういうものなのか。」
と納得したようにつぶやいた。
「行っていいぞ。それから、無事に帰ってこいよ。お前達でも大事な国民なんだからな。」
憲兵の言葉にトットは一礼して、検問所を後にした。