隊長

文字数 733文字

 決戦の場に無人の神小島は最適だった。神様にはちょっと迷惑な話かもしれないが。神小島に獣が降り立つ。きしくも海の道が開く日。隣の神大島は逃げる人とやってくる人でごった返していた。
「神小島に行きたい、誰か船を頼む。」
 ユナの高い声が響いていた。

「手伝おうか、ユナ・バーン。」
 振り向くと、彼女の後ろを兵士たちが囲んでいた。城の兵士たちだ。
「邪魔をするなら、相手なるぞ。」
 ユナは、剣を構えた。
「おっかないねえ。さしずめ手負いの虎ってところか。」
 そういって、兵士たちの後ろから隊長が分け出てきた。
「話がややこしくなる。お前たちは下がってろ。」
 彼は周りの兵たちを下げた。
「ほう、一対一とはいい度胸だな。」
 ユナは周囲に気を配りながら、身を低く構えた。
「まずは、兵たちを助けてくれた礼を言わせてくれ。」
 隊長の予想もしなかった言葉に、ユナは気が抜けた。
「あの化け物が現れて俺はあきらめたね。兵たちを助けたかったが、城を守る俺達が逃げるわけにはいかねえ。不殺のサーベルタイガー。思い出したよ。何か裏があるとは思ったが、いい口実ができた。それで、残っていた全員で後を追わせた。」
 兵たちは剣を胸の前に立て敬礼をした。
「なんだ、お前の手の上で踊らされてたってわけだ。」
 ユナは苦笑した。
「今度は、俺達がお前を助ける番だ。」
 兵たちは目を輝かせニッと微笑んでいた。
「あの島へ連れて行ってくれるだけでいい。あいつは人の手に負えるやつじゃない。お前たちも近衛なら主を守れ。王は死んでいた。今の主は国の民だ。」
 ユナの言葉に隊長は振り返りながら
「だとよ。おれはちょっくらお嬢様を送ってくるから、留守は頼んだぜ。」
 と兵士たちに告げた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ユナ・バーン

カナタの母

サーベル使いで、サーベルタイガー・ユナの異名を持つ

カナタ

『器』の一人

10歳まで山奥に隠れて暮らす

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み