テヘロとテヘナ

文字数 779文字

 馬の『器』の候補として産まれた双子のテヘロとテヘナは砂漠の奥、人の手の届かない所で仲間達と平和に暮らしていた。一族は人間の旅人が砂漠で倒れている所に、出くわした。普通の人間だったら放って置いたろう。しかし、その若い男の額には人の『器』を伝る一族の印があった。 子馬達は初めて見る人間に興味津々だった。その人間が兄をテヘロ、妹をテヘナと名付けた。彼がサタドゥールだった。

 サタドゥールは思慮深い男であった。少なくとも彼らにはそう見えた。古い伝承を調べているといっていた。常に『器』の意味を考えていた。なぜ、この世界に『器』がいるのか。霊獣などいないほうが本当はよいのではないか。『器』でない彼にはその答えを知ることはできない。『器』になりたいと長老に願い出たが、
「お前には継がせない。」
 と、かたくなに拒まれた。そのため自分と同じ空の『器』を解剖したこともあったが、結局、何もわからなかった。

 彼が木陰で休んでいると、馬達がこぞってどこかへ行く。彼は、一番高い木に登ると、その様子を眺めていた。『器』の馬が中央に立っている。その周りを他の者達が外向きに取り囲んでいた。一頭の白い子馬が『器』のそばに連れてこられた。テヘロだ。子馬を連れてきた馬が『器』の首の垂れ下がった部分に食らい着いた。『器』の首から赤い血が滴り落ちる。噛みついた馬が子馬にその血を舐めさせている。しばらくすると、『器』の後ろ足の太ももから赤い玉の模様だけが消えた。そしてテヘロの足に赤い玉が現れた。復活の儀式だ。サタドゥールは初めて儀式を見た。彼は馬達が戻ってくる前に、すばやく木から下りると元の木陰で寝ているふりをした。

 サタドゥールは元気になると人間の場所である街へ帰っていった。一頭の馬が彼を街の近くまで送った。その後、時折だが子馬が失踪するという事件が続いていた。
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登場人物紹介

ユナ・バーン

カナタの母

サーベル使いで、サーベルタイガー・ユナの異名を持つ

カナタ

『器』の一人

10歳まで山奥に隠れて暮らす

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