鹿族

文字数 574文字

 大人たちが宴会で盛り上がる中、子供のカナタは庭に出て『器』たちと話していた。
「わたしの人間がくれた名前は、スジャーニ。あなたが助けてくれたのね。」
 雌の子虎がカナタにじゃれついてくる。半年ぶりぐらいだろうか。子供と言えど既にカナタの体重を超えている。
「おれは、あの人間と同じ名前でいい。」
 牡鹿はトットのことを言っているようだ。
「彼はトットだからトッティでいいか?」
 牡鹿はカナタのつけた名前に満足そうに鳴いた。『器』には復活の儀式のために人が使える名前が必要だった。スジャーニは幼くして親と死別したため伝説については何も知らなかった。トッティが鹿族の話をしてくれた。
「神が創った5体の霊獣の内、青龍は麒麟に次ぐ能力の持ち主だった。そのため青龍の不老長寿の力が鹿の角に、強靭な顎と鋭い歯は鮫に分けられた。鹿族は鮫の近づけない山奥で暮らした。『器』は何体かの候補がおり、死期を悟ると代々各部族の儀式によって移し替えていく。『器』が空かどうかは模様によって判別できる。『器』に魂が入っているもの同士のみが、互いに部族を超えて意思を伝え合うことができる。人族は滅ぼされたと聞く。カナタ、お前が死ねば人族の『器』は永遠に失われてしまうだろう。」

 その夜、カナタは不思議な夢を見た。赤子の自分の周りを松明を持った人々が踊っている姿だった。
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登場人物紹介

ユナ・バーン

カナタの母

サーベル使いで、サーベルタイガー・ユナの異名を持つ

カナタ

『器』の一人

10歳まで山奥に隠れて暮らす

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