第39話 旅路④

文字数 1,455文字

 あてがわれた宿、宿というよりはティムールの別邸の一つだった。一番小さく、質素だという。確かに内部の装飾は地味ではあるが、一流なものばかりだった。それは調度品も、設備もそうだった。浴室は、四人では大きすぎるものであった。ヨウが浴室に入る際、この建物の侍女の何人かが従おうとしたが、
「三人の体を丹念な洗うのは、私の楽しみなのでね。」
と言って、いやらしそうな、実にいやらしそうな笑いを浮かべて、体よく断った。
「どうも、ゆったり浸かる感じではないのだよな。中で泳いだり、汚れを流したりという感じの造りなんだから・・・。」
「そもそも、お前の好みの方が、変わっているのだ。まあ、すっかり、我もそれに染まってしまったがな。」
 ゴセイの文句に、右側に寄り添っているリリスが言った。
「僕だってそうだったよ。マリアに教えてやらないといけなかったし・・・あれ?」
 彼の左腕を、自分の胸の谷間に抑え込んでいたメドューサは、拍子抜けしたというような顔して、マリアの方を見た。マリアはというと、ゴセイの正面で肩まで湯に浸かりながら、彼をじっと見ていた。
「ん?」
「?」
「どうした?何か言いたいことがあるのか?」
 ゴセイが促すと、徐に彼女の口が開いた。
「今日の、私とメドゥーサの目を逃れていた連中の始末は、全て私に任せていただけませんか?」
 少し思い詰めている感じだった。メドューサが"何を"と言いかけるのを、ゴセイが止めた。リリスは、まあよいが、という風にマリアを無言で見ていた。
「別に構わないが、どうしてだ?あいつらは何者だ?」
「ずっと前に滅んだ神の一族が作った人造神、大天使達とも・・・。少なくとも、彼らは、そう名付けました。その神の一族とともに滅びたとされていましたが、どこかに、残存していたのでしょう。そして、誰かが起動したのでしょうね。」
「どうしてわかった?」
「あの後、追尾していたのですわ。」
「我に言われるまで気が付かなったのが、よほど悔しかったのだな?」
 そのリリスの挑発には、マリアは反応は示さなかった。その代わり、
「己を神と思い込んでいる奴らの心の中も、感知することができました。」
と続けた。
「わかった。連中が仕掛けてきたら、お前に任す。いいか?」
 ゴセイは左右を微かに見た。
「しかたがないなあ~。」
「我は、その後ろにいる連中を探しておる。」
 これを聞いて、ゴセイは、
「あくまでも、奴らが仕掛けてきたらだぞ。勝手に動くな。それから、勝てるのだな?」
「大丈夫です。」
 マリアは、ことさら強く肯定した。
「大丈夫だろう。こいつの力でなら、このくらいの数なら殺れるだろう。」
 リリスが保証した。ゴセイは、それを聞いて頷いたが、
「分かった。ただし、私も一緒に戦わせてもらう。私も戦いを、そいつらとの戦いを楽しみたいからな。」
と条件をつけた。
「分かりましたわ。」
 マリアは同意した。2人は不満そうな顔だったが、
「分かった。」
「仕方がないなあ。」
と諦めてくれた。
「お前と、本当に久しぶりに2人だけで戦えるな?」
と抱きしめながら、マリアの耳元で囁いた。
「ええ。そうですわね。あの日、私は、私の意志であなたのものになった。あなたが、私の神であることの存在を確たるものとしてくれている…。」
「ああ、そうだ。お前は、最強の戦いの女神だ。」
「そうです…あなたの最強の戦いの女神…あ、あー。」
 彼女は、何度も頷きながら、喘ぎ声を上げた、その夜のベッドの上で。その彼女を何時も以上に、彼は優しく抱きしめた。“また、2人だけの時間を共有できるのね。”
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