第27話 ショカツの醜い妻

文字数 2,587文字

 ポーラン帝国の帝都ワレサで、
「噂通りの醜い女だのう。」
「噂より酷いんじゃないかい?」
「噂と違って賢くもありませんわね。」
とリリス、メドューサ、マリアは聞えよがしに囁いていたのは、ショク帝国宰相ショカツとその妻から招待された宴での席上でであった。
 ゴセイは、頼まれた世界平和の橋渡しの旅の了解を、ポーラン帝国皇帝に得るために、皇帝に拝謁したのである。彼が最初の貴族の爵位と領地を得たのは、彼のもとであり、他の国々からも領地与えられ、貴族に列してはいても、正式な意味では、彼はポーラん帝国皇帝の臣下なのである。その政府、軍には属さず、その功績からはあまりに小さい領地と高くない身分しか与えられていないとはいえ、臣下は臣下なのである。皇帝が、自覚はしていないが、彼の奴隷であるとはいえ。
 40を過ぎた皇帝は、彼の報告を受け、彼の願いを快く許可した。
「お前は変わらぬな。お前に助けてもらった時、私は少年でしかなかったが、いつの間にか、私の方がずっと年上のようになってしまった。」
「いつまでも青二才のままなのです、私は。」
「・・・。ところで、魔族殺しと神族殺しの他に、もう一人女人がおるが・・・、彼女がリリスか?」
「陛下のご明察のとおりです。私の最初の妻であるリリスが、彼女です。ようやく再会できました。」
「そうか・・・。やはり若く、美しいな。そして、強いのか?」
「3人の中で最強です。」
「そうか。これからは別れることなく、ずっと一緒おるようにな。」
というような会話をした。
 その帝都にショカツがいるのは、ショク帝国とポーラン帝国の通商条約の締結と商館の設置で、帝国の代表として彼が赴いていたのである。その彼は、ヨウが帝都にいると知って、彼を夕食に招待したのである。が、早々に、食前酒を飲んだゴセイが気分が悪いという表情になり、
「毒を入れましたね。」
と言ったからである。ショカツも、彼の妻も平気な顔で否定した。リリス、メドゥーサ、マリアがまるで、回復魔法かけるかのように手の平を彼の背中に押し当てた。ショカツは、これでわかったという顔をした。その妻は、今のことがなかったかのように、今日出す酒の解説を始めた。その上で、何がよいかと尋ねるつもりだった。彼は、しかし、それを止めた。
「残念ですよ。そのような表面的なだけの知識しかご披露できないとは、残念ですな。」
と言って、はるかに深い解説を始めた。
「まあ、私も知らないことの方が多いですから、この辺にしておきましょう。」
と終わらせた直後に、聞えよがしに3人は囁いたのだ。
"こやつは人間か?"リリスは、そこまで思った、醜いからというのではない、人間とはいえないような力、能力を感じたからだ。彼女にとっては、到底取るに足りないものにすぎないものであったが。ただ、人間ではないとも言えないとも思った。彼女は、それをゴセイに伝えた。
「箸の使い方が見事ですな。どこで、それを?」
と、あたかも誠実そのものの顔で話しかけるショカツに、ゴセイは怖いものすら感じた。
"こんな毒殺を試みるとは・・・。単に、不死身の理由を確かめようとしたのか?しかし、実際に死んでしまったら・・・。とにかく邪魔なものは排除か?しかし、このようなことをしては信用が・・・いつでも否定できる自信があるということか?まったく・・・。"
「我が皇帝陛下は、信義を重んじ、民を愛する聖人なのです。帝国の臣民は、陛下を慕い、支配されている感覚はなく、陛下の信義が世界に広がることを心から望んでいるのです。それは、大雨の中に、一点の晴れ間が見えたのと同じです。戦争と支配しか考えない君主の中に、信義の君主、民を愛する陛下が現れた。人は晴れ間に向かって駆けていく、陛下のもとになびいているというのが、今の状態です。」
「それなら、各国への武力侵攻、謀略は必要ないし、止めるべきだと思うが。」
「何か誤解されていますね。」
 彼は、自分の主が以下に民を愛する皇帝で聖人である証明となる話を始めた。どのように言っても、そこに巧に持っていかれてしまう。
「君には敵わないから、これ以上は止める。だが、君たちの主張には、同意はしない。君はある意味、私と似ているかもしれない。だからこそ相いれないのだろう。だがね、孤児を使い捨ての殺人鬼にするのも、それを私の孤児院の者達を殺して入れ替わるのは止めてほしいね。」
「何のことでしょうね。確かに、私は孤児たちを引き取っていますが、彼らは皆妻を母のように慕い、立派に巣立って、陛下の理想の国造りに貢献していますよ。」
 それから、また、彼の主の聖人の証明になってしまった。
「その女を母のように慕って?」
「信じられないけど、いかれているからね。」
「慕う事こそが、狂っているのですよ。」
 食事が終わると、
「どうでしたか?妻の手料理は?」
「こいつの料理の方が美味いな。」
「同感だね。」
「珍しく、お二人が正しいと思います。」
 顔色を変えない二人に、ヨウは空間から陶器を取り出した。
「私が3年がかりで作ったビールだよ。最後に、両国の平和のために、これで乾杯しようではないか。」
 すかさずリリスが、6人分の杯を取り出しておいた。ゴセイみずから注いで、手に取った。
「さあ。」
 促した。ショカツとその妻の顔から明るさが消えた。一応手に取って、形の上では口に持って行ったが、飲もうとはしなかった。
「毒など入れていないよ。」
とヨウが言って、飲みほしても、3人も続けて飲み干しても、美味そうに、それでも二人の態度は変わらなかった。その後多少の儀礼的なやり取りの後、4人は別れを告げた。礼を言った後、ヨウは突然、
「あなたは、鬼神も操る、従えているそうだが、彼らは存在しない。彼らが存在するということ自体が、私が永遠の忠誠を捧げる至高のお二人を害する。私は、存在しない状態にする、それは絶対だ。」
 それだけを言うと彼は背を向けて歩み去った。
「なんじゃあれは?」
「あの不細工女がそれなのかい?」
「どうするのですか、その鬼神とやらを?」
「消すのか?そういえば・・・お前の言う二人とは・・・確か・・・。」
「とにかく皆殺しにするということだね?僕は大賛成だよ。」
「まあ、神を称する奴らに情けはかけませんから・・・。」
 ゴセイは、それに関しては3人にも語らなかった。
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