第7話 襲撃

文字数 2,359文字

「もうお腹がぺこぺこだから、注文するよ。」
 メドューサが、店の者を呼んだ。やって来たのは、若い男だった。メドューサは、矢継ぎ早に注文を出した。ゴセイは、それが終わってから、幾つか追加と修正をした。追加は、リリスの好みのものだった。彼は、リリスの顔を見た。リリスは、小さく頷いた。次に、マリアを見た。
「ここのワインは、ひどく不味いですわ。でも、ビールはかなり美味ですから、ワインは止めたほうがいいですわ。少なくとも、私自身はビールにしますわ、今日は。」
 ゴセイは肯き、リリスにまた視線を移した。リリスも頷いた。それを聞いて、ワインを取り消して、全てビールにした。センリュウには、何も聞かなかった。“こういう役割分担に、なっているのか。我の知らない時間、でだな。”少し悲しく、不快に感じた。
 しばらくのして、ビールが入った陶器製を中年の女が持ってきた。
 女は一人づつ、自ら彼らの前に置いた。
「リリス?」
 ゴセイは、手に取らずじっと陶器製のジョッキを見ていた。
「即効性の猛毒じゃ、毒魔法でのだ。かなりのやつが、やったのだろう。お前のだけじゃ。」
「どおりで面倒なことを、わざわざやると思ったよ。」
「如何するつもりじゃ?」
「観客もいるようですが。」
「見世物になるのかい?」
「期待に応えてやらないとな。」
「すぐ失望に変わるがな。」
 ゴセイは、ジョキを取ると、かなり呑み込んだ。直ぐに、テーブルの上に突っ伏した。小さいが、苦しそうなうめき声が上がった。“何度見ても慣れないな。”4人は同じことを思った。
「痛み止めの回復魔法をかけるか?」
「それなら私の方が…。」
 つい口からでた。
 ゴセイが顔を上げた。顔色はかなり悪かったが、
「大丈夫だ。もう殆ど痛みはなくなった。」
「驚いているよ。」
「マスター。一人立ち上がって、こちらに来ます。」
 髭ずらの、大柄な、いかにも傭兵といった中年の男だった。手には、ビールのジョッキを持っていた。
「お前さん。4日前にここを出た、パーティーの中にいただろう?他の連中はどうしたんだ?」
 テーブルにドンと手をついて、ゴセイに顔を近づけた。その目は、半分近くが残っているビールのジョッキに向けられていた。失望した表情が現れた。それでも、何とか、気を取り直して、
「おい、その中に俺の女がいたんだよ。どうしたんだよ?」
「どういう女かな?女は、何人もいたからな。」
 とぼけるような調子でゴセイは応じた。
「鞭使いの、金髪の女だよ。」
「記憶にないが…、メドューサ。お前はどうだ?」
「ああ、それならあの女か、金髪というには、混じりが多かったけどね。若い魔道士と仲良くしていたよ。」
「ああ、あの二人か。」
「ゴセイは、僕しか目に入らないからだよ。」
「まあ、お前達3人を見ていると、他の女には関心が出てこないからな。」
 メドューサをまず見てから、リリス、マリアに視線を向けた。3人は、それに合わせて、微笑を浮かべ、品を作って見せた。
「まあ、今頃、二人で仲良く、組んずほぐれつしているんじゃないかな?」
「ということだ。」
 ゴセイとメドューサの揶揄うようなやり取りに真っ赤になって、
「どうして、一緒に行って、お前らだけ此処にいるんだよ!」
「途中で、私の教派の巫女様に出会ってな。その供をするのが、私の義務だから別れて…。」
 その男はいきなり、ゴセイの顔に、持っていたジョッキの中身を彼の顔にぶちまけた。さらに、悪態をつく前に、センリュウに羽交い締めされていた。その痛さに声をあげている男に、立ち上がったゴセイは、
「ビール、ありがとう。これは、お礼だ。」
 自分のビールを、メドューサが無理矢理開けた男の口の中に注ぎ込んだ。メドューサは、それが終わると、今度は無理矢理口を閉じさせた。
 ゴセイが手で離してやれと指示するのを見て、センリュウとメドューサが手を離した。男は、必死に注ぎ込まれたものを、
「ゲエゲエ!」
と吐き出し始めた。
「外に出るぞ!」
 ゴセイは、店の主に、
「毒が入っていた。こいつで分かるだろう。金は払わんからな。」
と言って、4人を連れて宿を出た。
「どうするのじゃ?」
「今日は、屋台で夕食にする。このぶんだとすると、また襲って来そうだからな。」
 五人は、屋台が集まっている街の一角に足を向けた。肉やら魚やらが焼かれ臭いが漂っていた。男女が老若と問わず集まっていた。それをかき分けながら、ひとつの屋台の前に立ち、串に刺した焼いた肉を何本も買った。メドューサは、渡されるとすぐに豪快にかぶりついた。マリアは、淑女然で食べ始める。“下品なこと、相変わらず。”“そんな食べ方をする食べもんじゃないだろう。”とチラチラとお互いに牽制しあった。リリスもかみ切りながら、
「相変わらず狙われておるな。誰だ?分かっておるのか?」
 同じようにかみ切った肉を、噛みながら、
「身に覚えがありすぎる。まあ、今回の連中は調べさせてはいる。」
 視線をセンリュウに向けた。
「ユダは、明日には合流する予定地です。」
「ユダ?」
「悪党連中の世界には詳しいからな、この種の調べ事には、うってつけの奴だ。」
「そうか。」
 食べ終わりかけた頃、小男が声をかけてきた。
「お若い女性の方が、お好きなものを取りそろえておりますが、当店にお出でになりませんか?」
“来たか。”ゴセイは、同意した。五人は、人気のない場所に連れて行かれた。
「当店は、ご婦人のみなので。」
 男は、気づかれないように、薄笑いを浮かべ、頭を下げて見せた。
「ほどほどにしてくれよ。」
「分かっておる。」
「仕方がないな。」
「店の中だけで、に。」
「はい。」
 4人が小さな店に、小男に連れられて入っていった。それを見送りながら、油断なくゴセイは周囲を警戒した。
「ふん。16人…、上に8人、姿を消した4人。それから…。」
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