第28話 シンドバッド義兄弟

文字数 3,731文字

「兄貴。面白い話と仕事をお願いしますよ?今日までのこと、義弟に伝えておきますから。ヨウ様もとっておきの面白い話しを、お願いしますよ。」
 荷物運びのシンドバットが、商人のシンドバットと船乗りシンドバット、そして、ゴセイ・ミョウ・ヨウに向けて、着やすく呼びかけ、遠慮することなく頼み事をしていた。荷物運びとは言っても、今では大々的に運送業を手広くやっている。義兄弟達と知り合ったことやヨウと関係を結んだことが、成功のきっかけにはなったが。
 三人の他にもう一人、学者のシンドバットがいた。三人の経験談を小説にしていた、きた。さらに、地誌の研究、その取りまとめにも利用していた。彼の書く、「冒険シンドバット」は大好評で、それで得た利益の一部を、三人の義兄弟にも分配している、もちろんヨウにもだ。また、学者として得られる情報を彼らに提供もしている。四人は、そうした義兄弟である。もちろん、四人がシンドバットという名を持っていたのは、単なる偶然の一致に過ぎない。名前が同じだということで、意気投合して義兄弟になったのである。
「ヨウ様の場合は、リリス様も加えた四角関係の痴話げんかが要ではないかな?」
「メドューサ様とマリア様との三角関係の痴話げんかは好評だったからな。さらに・・・。学者の兄貴も喜びますよ。」
「あいつの筆が止まらなくなりますよ、きっと。」
 そういって盛り上がる3シンドバット義兄弟だが、リリス達のこめかみがぴくぴくしているのを見たゴセイは、
「まあ、今回はよろしく頼む。用心棒がわりもしてやるから。」
と言ってお開きにしようとした。その気持ちを察してか、3人はやるべき仕事に戻っていった。
「あれがシンドバット義兄弟か。」
「そうだよ。役には立つけどさ・・・。」
「煩いのが困ったところですわ。」
 リリス、メドューサ、マリアは不満そうに見送った。
 何人かのゴセイの部下たちが合流してきた。ラファイアットら元聖騎士達だった。彼らは、礼儀正しくゴセイとリリス達に挨拶をしたが、ゴセイは別格にしてマリアに特に礼儀正しいように見て取れた。
「まあ、元女神だからな、聖なるものを感じるのであろうな。」
「元ではないですわよ。今でも女神です。」
「誰も信じていないけどね。」
「いい加減、マリアをいじめていないで、船に乗るぞ。」
 涙目のマリアに抱き着かれながら、ゴセイが言った。リリスとメドューサは、不満そうだつたが、すぐに彼の背中に胸を押し付けながら続いた。それを荷物運びのシンドバッドが、にやにや見ながら様子を書き取っていた。
「ヨウの旦那には、しっかり送金できるように名作を頼むぜ、義兄弟。しかし、リリス様も美人だな。ヨウ様がずっと待っていただけはあるよ。」
と独り言を言ってから、やおら振りむくと、
「野郎ども。神聖帝国皇帝陛下の頼まれ物はしっかり、義兄者の、船乗りシンドバッド様の船に丁重に運び込むんだぞ!」
と大声で命じた。皇帝は、ラシードへの手土産品をたっぷりと用意していたが、それだけで船いっぱいになっていた。"あそこに変な連中がいるな。ヨウ様には敵が多いからな。後で、義兄者達を通じてお伝えしておくか。"さも、そのようなものを見たり、気が付いたことはないかのごとく、部下の荷運夫達に他の荷も含めて指示を始めた。その彼に、彼が気が付いた連中の誰もが気が付くことはなかった。
 船乗りシンドバットの三隻の商船は、出航した。しばらくは順風満帆、何事もなかった。
「ヨウ様の剣が、あれほどだったとは。」
 ラファエロ達が、マリアとゴセイの剣の練習試合を見ながら唸っていた。三回に二回はマリアが勝っていたが、彼女から一本をとること以上に、その一本が彼女が勝ちを譲っているかもしれないのだが、彼女の彼らが目で追えない剣速で縦横無尽、変幻自在のの動きに、彼がついていき、彼の剣もまた同様なことに驚いていたのだ。
「なんだ、ゴセイの剣を見た事がなかったのか?」
とリリスが怪訝そうに尋ねると、
「そ、そういうわけでは・・・。」
と弁解するのを、
「マリア直属につけられていたことが多かったのさ。それに、彼女にばかり目をやっていてさ・・・。」
とメドューサが悪意のこもった解説をするので、
「そういうことでは・・・。」
と彼らは冷や汗をかかなければならなかった。
 ゴセイ達の乗る、船乗りシンドバッドも商人のシンドバッドも乗る船には、他の騎士、戦士達も客として乗船していた。彼らの何人かが、彼女に関心を向けて、つまり言い寄ってきたのだが、その手段として彼女の剣の練習の相手をしたいと言い出した。彼らは、かなりの剣の使い手だったから、彼らはマリアを練習試合で打ち勝つことができると思っていた、確信していた。そのことで、彼女の関心を向けさせる、まず一つ目の手段だと思っていた。
 が、結果は軽く彼女に叩き伏せられた。数日間は、起き上がれないほどになった。その時の彼女の剣の動きを、彼らは驚嘆したが、ヨウとのそれはその時とは比べられない、低レベルだった。それに、ヨウが、それに準じる剣の動きで戦っていることに驚きを感じていたのだ。
 カシャーン、とゴセイの剣が飛ばされ、甲板に音をたてて落ちた。
「また負けたな。もう、お前には勝てないな。」
 ゴセイは、彼女が手加減していることを知っていた。
「本当に、人間がここまでの域に達することができるとは驚きですわ。私の力が復活する分、あなたが成長しているのですから。最近では、差が小さくなる一方ですから・・・。」
 彼の剣を拾い上げて、彼に渡しながら、すかさず抱き着いた。
「は?」
 驚くラファエロ達を横に、
「ずるいぞ!ゴセイは、これから僕と練習試合するんだから。」
とメドゥーサが二人を引き離そうとしていた。
「あら?」
「え?」
「リリスどうした?」
とゴセイが声を上げた。
「軍船が一隻、追いかけてきているな。ウリエル騎士団の船だ。騎士団多数が乗船している。もう二、三日で追いつくかもしれない。襲うつもりだぞ。だが、それはいいとして、さらなる後方、魔族の軍船が、ひいふうみいーよー・・・、十三隻だ、海の魔獣、それからドラゴンもだ。こちらの方が楽しめそうだ。」
と遠くを見る様に報告した。
「騎士団の軍船は、我が葬ってしまおうか?」
「あ、それなら僕がやるよ。」
「いえ。私が。」
「いや、襲わせないと彼らの面目が立たないだろう。」
「しかし、騎士団が何故?」
 ラファエロが驚いたようすだった。彼は、異なるが同様な騎士団に属していたことがあるからだ。
「異教徒の王のもとに、和平の使いに行くのだ、敵でしかない、我々はな。」
 ゴセイは、そう説明したが、
「しかし、それは内密のことでは?」
「まあ、これだけの土産を用意すれば、わかるだろうさ。」
 リリス達四人は、センリュウも加えて、わくわくするような表情だった、退屈から解放されると。
まずは、ウリエル騎士団の軍船が水平線のかなたに現れた。重い荷物を積み込んだ商船では逃げようとしても逃げ切れるものではないが、シンドバッドの三隻の船は速度を変えることもなく、何事もないように進んでいた。だから、騎士団の軍船は容易に船団の進路を遮る位置についた。軍船から停船、臨検、捕獲を命じる旗が掲げられた。
「どうしますか?」
 船乗りシンドバッドが、にやにやして尋ねた。商人のシンドバッドもニヤニヤして、彼の横にたたずんでいた。その他の船員は、不安そうだった。
「無視しろ。」
 ヨウは、それだけを言った。軍船の甲板では、石弓を抱える騎士が何人も並び、魔導士が3人ほども立った。梯子など乗り込む準備も見て取れた。
 数十mまだ近づいたところで、矢と火球が飛んできた。それは、途中で消滅してしまった。
「おお、あの女が何かしようとしておるな。」
「婆さん、踏ん張りすぎて漏らすんじゃないかい?」
「その前に、発作で死んじゃうんじゃありませんか?」
 わざわざ3人の声が、聞こえるようになっていた。
「おうおう、怒っておるな。生意気にも。」
「どうする、沈めちゃう?」
「燃やしましょうか、証拠が残らないように?」
 ゴセイはため息をついて、
「乗り込むぞ。船乗りは殺すな、騎士は10人だけ残せ、魔導士はどうする?」
「大した奴はおらん。」
「同感だよ。」
「二人の言う通りですわ。」
「では、全員殺せ。行くぞ。センリュウも来い。それから、ラファエロ、お前たちは、この船の潜り込んでいる連中を殺せ、他の船にもいるか、リリス、飛ばしてやれ。船の兵士達と協力してやれ、いいな。」
 騎士団の軍船に5人が現れると、一瞬唖然とした騎士達だが、すぐに得物を持って挑みかかってきた。ゴセイの超長剣が抜かれた。一閃で、騎士の一人が血を吹き出して倒れた。二閃目はなかった。
「三人、残してやったぞ。」
「二人、ここに置くよ。」
「三人、いますわ。」
「相手にした二人はどうしますか?」
 既に終わっていた、大部分が。
「死なないように、早く回復してやれ。」
 彼女らの足元にいる、というより置かれた半死の男女を見て命じた。
「そこのお前たちは、大丈夫だ、心配するな。こいつらを無事に連れて帰ってくれ。」
と震える船員たちに向かって声をかけた。

 

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