第6話 マリア

文字数 2,456文字

 リリスが、周辺の魔法使用の痕跡を消し終わると、
「ここから、半日一寸の町で、他の連中と合流することになっている。」
 ゴセイは言った。リリスとメドューサは、自分の乗る馬を彼が乗る馬の左右に、争うように並べて進んだ。その後を、戦利品を載せた馬が何頭も従っていた。
 1時間ほど行くと、
「おい。ダークエルフが、五騎、こちらに向かっておるぞ。傭兵っぽい連中だが、如何する?」
「どんな奴らだ?」
「こいつらだ。」
 リリスは、映像を3人の前に映しだした。
“へえ~。さすが、破壊と殺戮の魔女。こんなことも簡単にできるんだな。”
「メドューサ。この魔法を使うとなると、大抵の奴は消耗が激しいが、リリスは、ずっと小さな力で使える。昨日でも、お前と戦えば、かなりやられたぞ、お前が、力ではるかに上回って、勝つことは確実だったが。」
“ふん。”と二人は同時に、そっぽを向いた。
「それから、こいつらは心配ない。私の部下達だ。」
「そうか。色々増やしておるな。」
 満足そうな表情ながら、ちらっとメドューサを見た。彼女は文句は、言わずに、
「本当に…。でも、余計なのも増やしているんだよな。」
 溜息をつくように言った。
 しばらくして、ダークエルフの一団が視界に入ってきた。彼らもこちらに気が付いて、
「ダンナー!」
と手を上げて、馬の脚を速めて近づいてきた。
「早かったな。どうした?待っていれば良かったものを。」
 エルフにしては大柄な、リーダー格の男に話しかけた。
「予定が早く進んで。それに、あの動きが速まって、早くお話しして、動いた方がいいかと思いまして。そしたら、マリアの姐さんが、こっちに行けば合流出来ると。あ、そちらがリリス様ですか?よろしくお願いします!」
 彼が、頭を下げると、他の4人も頭を下げた。
「いや、美人すね、3人も…いや、すんません。リュウビが侵攻を始めましたよ。」
と説明を始めた。
「まあ、想定内だな。取り敢えず撃退するか。」
「へ?」
 あまりにも無造作に、ゴセイが言ったので、さすがに彼らも呆気にとられた。
「でもダンナ。あのショカツの指揮の下に50万人の大軍ですよ?」
「フン。実数は10万人と少しだろうよ。既に、ハンニバルとスキピオに動員を命じている。お前達は、まずはあの戦利品を持って、印のついていないやつは売って、売り上げの半分と印のついたやつは私の館に送れ、いつも通りな。残りは、仲間でちゃんと上手く分配しろよ。それが終わったら、この戦いに合流しろ。」
「わかりましたよ、だんな。」
 半信半疑の顔をしながら、彼らは、戦利品を持って行きかけてから、思い出したように振り返り、
「それから、なんかダンナのことを狙っている奴らがいるにような雰囲気でしたぜ、町の中は。それから、マリアの姐さんに、ちょっかいをかけようとする身の程知らずがいましたぜ。まあ、ちょっかいをかけたら、皆殺しでしょうがね。まあ、既に死体になっているかも…。」
 それを言うと、背を向けて、本当に行ってしまった。
「大きな戦いが有るのか?」
 リリスが、彼の側に馬を寄せて、期待するように声をかけた。
「ああ、東方の帝国でな。ショカツという男が宰相になってから、急成長し、各地域に勢力を広めている。お前の力を、大いに頼りにしている。」
「そうか。そうであろうな。少しでも多く、早く、力を回復してやる。」
 リリスは、満足そうであったが、メドューサがむくれて、
「僕は頼りにならないと言うことかな~?」
「頼りになるお前とマリアがいて、その上にということだ。」
「はい、はい、分かったよ。ということにしておくよ。」
“マリアか。其奴らが三人目か。誰だ、そいつは?どういう奴だ?こいつが、力のない奴を身近に置くはずはないし、あのダークエルフ達の話では、かなりの強さを持っているようだが。まあ、会えば分かるな。”
 結局、リリスな何度も心の中で、それを繰り返してしまった。
 日が暮れ始めた頃、町に着いた。宿の1軒の前で馬を下り、馬の世話をそこにいた男に頼んで、宿の盛り場兼食堂に入ると、
「ゴセイ!」
と銀髪の長身の女が、手を上げて呼んだ。そのテーブルには、もう1人、かなり大柄の浅黒い肌の女も座っていた。
 3人が席につくと、銀髪の美人と大柄な女、一応美人、が立ち上がって、
「マリアですわ。リリス様…お久しぶりというべきでしょうか?」
 銀髪の美人である。
「マスター、御無事で。リリス様、センリュウです。」
は浅黒い大女だった。
 頭を下げた。
「おい、お主?」
 リリスはじっとマリアを睨んだ。そして、思わず立ち上がり、叫ぶ衝動を何とか押さえ、
「お、お前は、あの時の女神?」
と抑えた声がでた。
「神々の戦いに敗れ、墜ちて奴隷とされていたところで出会って、そして拾った。」
 ゴセイの説明に口をとんがらせたマリアは、、
「まるで、私を犬猫みたいに。気が付いたら、翼を失って血だるまになっていて…地上に堕とされ、崇拝も失われて、奴隷にされていたのですわ。」
“思い出したくもないことですけど。”という調子で手短に経緯を話した。
「お前というやつは、あの女神まで拾いおって…。呆れてものものも言えんわ。それで、そこのセンリュウとやらは…ドラゴンか、それも高次元のか?」
「さすがに、リリス様、一目でお分かりに。裏切られて、封印されていたところを、マスターに解除されてからお仕えています。今は、省エネ状態でこの姿です。」
「おい、こいつは大丈夫なのか?」
 リリスは、メドューサを見た。
「大丈夫だと思うけど…。」
 3人の視線がゴセイに集中する。
「ドラゴンの本体を見ているからな。それに3人までだ。時間がなくなる。」
 3人の目は、疑わしいと言っていた。
「ご心配なく、ドラゴンの発情期は限られてますし、人間達には反応しません。でも、人間の形態ですから、もしかすると、あ、痛い。」
 ゴセイが手刀でセンリュウの頭を訴えた。
「お前まで、リリスを揶揄うな。」
 しかし、リリスも、メドューサも、マリアも笑わなかった。
「まあ、食事を注文するか。」
 

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み