第12話 殺戮は望んでいないのではないですか?

文字数 4,510文字

 翌日、ゴセイ達は宿を出た。
「まあ、リリスが一番だよ。」
「同意しますわ。あの恥ずかしいセリフを言われたんですからね。」
「そうだね。あれを聞かされたら、仕方がないさ。」
「何じゃ、その恥ずかしいセリフというのは?」
 3人は、馬上でも、昨晩、ゴセイが最初にリリスを抱き、次いでメドゥーサ、マリアを抱いて、ぐったりしている二人を尻目に再びリリスを抱いた。メドゥーサとマリアが不満を言うと、リリスは、
「一回当たりの所要時間は、短いではないか。二回目は、お前ら二人の臭いがついた体で抱かれるのだ。」
と反論すれば、
「二回合計すれば、リリスの方が長いよ。それに、リリスの臭いをつけたゴセイに抱かれる身にもなれ。」
「私は、メドゥーサの臭いまで移されて迷惑この上ありませんわ。」
と反論があがり、それでひとしきり争っていたのだった。
「よく覚えておりますわ。かの崇敬するお二人は逃避行の最中、女性の方はさすがに嶮しい山道で、思わず恋人に助けを求めた。男の方は、その苦しい時を忘れ、頼られたことを喜ばれた。わが永遠の忠誠を捧げる至高のお二人は、流刑にされた兄である御方の処に妹御である御方は追いかられ、再会できた時、愛する者がいるからこそ家に帰ろうと思い、故郷を思うのだ、愛する者がここにいるのに、家に帰ろうと思うだろか、故郷を懐かしむだろうかと歌った。かのお二人を崇敬し、至高のお二人に永遠の忠誠を捧げる我が、差し伸ばされたイシュタルの手を払えるか、イシュタルのいない家や国に帰ることを望むことが出来るだろうか?否だ!断じて否だ、女神よ、断じて否だ!と言ってましたわね、私に向って。」
とマリアが言うと。
「そうそう、言った、言った、確かに言ったよ。こうも言ってたよ。イシュタルが破壊と殺戮の魔女だと、天が言う、神が言う、人が言う、だが、我は知らない、見たことも、聞いたことも、感じたこともない!ってさ。本当にゴセイは、あの時はシンだったけ・・・、本当に嘘つきだよね。」
とメドューサが愉快そうに言った。
「こういうときは、仲良くしおって。しかし、そんな恥ずかしいことをよく言えたものだのう、お前は。」
「あの時は、お前を少しの間でも失いたくないと思って、遮二無二になっていたんだ。それに、嘘は言ってないぞ。見ても聞いてもいないはずからな、誰も、お前が殺戮を破壊したのをな。」
 そう言って、リリスの肩を抱いた。
「全く、お前というやつは。」
 リリスは、彼の肩に頭を預けた。
「リリス。明日の晩に、仕事を頼むことになるが、頼むぞ。」
「面白い仕事か?」
「まあ、な。明日を楽しみにしていてくれ。」
 ゴセイは曖昧な笑顔を浮かべた。
「マリア、少しばかり先に転移させてくれ。」
 翌日、午後になりかけた頃だった。
「どこへですか?」
「私の思念に合わせてくれればいい。そこでしばらくしてから、また転移してもらう。」
「どのくらいですか?誰と?」
「我々全員だ。大丈夫だ。そんなに消耗はさせない。少々疲れるだろうが。」
「分かりましたわ。」
 現れた転移魔方陣により転移し終わると、
「マリア。大丈夫か?」
 ゴセイが少し心配そうに尋ねると、
「大した距離ではありませんでしたから、力の消耗はそれ程ではないですわ。それに、転移も気がつかれないようにしておきましたから。」
 誇るように言うマリアに続くように、
「完璧だ。魔力の漏れはない。この世に、これを探知出来るものは僅かだろう、近くにいてもだ。」
 リリスがつまらなそうに解説した。
「帰りも頼むし、万が一の戦いにまきれるかもしれないから、あとは出来るようにだけゆっくりしていてくれ。」
「はい。」
「もう、ゴセイはマリアに甘いんだから。」
「お前とは違って、女神様は繊細なんだ。」
「リリスも、いいことを言いますわね。」
 マリアは微笑み、メドューサは不満そうだったが、
「少しばかり、まだ先だ。行くぞ。」
 ゴセイが促した。
「あれが、針と糸の兄弟団の本拠だ。」
 人気のない坂道を、周囲を警戒しながら進み、小高い丘の頂上に出た。開けた所だった。
 正面には、かなり離れていたが、一見すると、かなり大きい教会と砦の中間のように見える建物が見えた。ゴセイが指し示したのが、それだった。
「あれを破壊してもいいのだな。」
 リリスが嬉しそうに、目を輝かせながら言った。
「全壊にして、中の奴らを皆殺しにしてよいのだな。」
 確認するように、リリスは勢い込んで尋ねた。
「ああ、もちろんだ。」
 ゴセイが答えたが、まだリリスの質問は終わらなかった。
「子供達もおるぞ。地下室の牢獄だが、皆殺しでよいのか?。多分、誘拐されたり、買われてきた連中だぞ。本当にいいのだな?」
「ああ、もちろんだ。下手に残すと足がつく。一人残らずなら、狙いは分からない。それに、私は日頃から、情け深い人間だと装っているからな。」
 ゴセイは、自分を自身を納得させるような感じだったが、
「特に子供をね。」
 メドューサが、割って入った。
「?」
「できるか?まだ、力が不足しているのなら…。」
 疑問の言葉は、ゴセイの言葉で、喉の手前でかき消された。
 もうリリスは、どちらでもよかった。
「心配するな。」
「では、頼むぞ。」
 彼女は、実に嬉しそうな顔になった。
「それでは行くぞ!」
 彼女は久方振りに、破壊と殺戮の力を全壊に出来る喜びに夢中だった。ずっと、その衝動を抑えていたのである、ゴセイにより封印を解かれ、彼とともに、あたかも良き勇者のような旅をしてきて、大規模な殺戮は出来なかったのである。良き勇者として、人々に称賛、感謝される生活も悪くなかったが。
 ゴセイは、メドューサとセンリュウに、周囲の警戒を命じた。
「周囲に入り込んで来た者があれば、即殺せ。」
「マリア。魔法が感知されないようにしておけ。」
「それは、大丈夫じゃ。」
「念のためだ。」
 不満顔を一瞬したリリスだったが、すぐに頭は、目前の殺戮に集中された。
 空中に、何もないところに、突然、砲身のような物が、針と糸の兄弟団本部の周囲を取り巻くように現れた。無数現れた。そして、そこから、火炎に包まれた溶岩のような物、火球、雷球、様々な光の球が打ち出された、
 真上からは、様様な色の稲妻のような物が物が降り注ぐ。本部の真下だけがおおきく揺れ、割れた地面から、火柱が上がり、溶岩とガスが吹き出した。大きな風が、取りまくようにふき始めたが、それは外からの攻撃を妨げるどころか、それはすりぬけ、かえってそれらを引き込みさえして、建物、人、獣を切り裂いていった。
「余計なことを。」
 ゴセイの頭の中に、針と糸の兄弟団本部内の阿鼻叫喚の様子が入ってきた。リリスかと思ったが、彼女は殺戮に夢中だったし、メドューサは周囲の警戒と後の残りはリリスの殺戮劇に集中していた。“マリアか。”だが、彼は止めろとは言わなかった。
 かつては、裁縫業者や糸や針を販売する業者の互助組織でもあったが、何時の頃からか、暗殺組織の老舗となっていた糸と針の兄弟団の本部は、崩壊するまでに、さほどの時間はかからなかった。誰もが、何が起きているのか、今自分が死ぬということを理解する間もなく、恐怖を感じるだけで死んでいった。
 法王庁が依頼した、針と糸の兄弟団に、自分の暗殺を依頼したらしいと、返り討ちした連中の脳を、リリス達が覗いた、断片からなんとなく類推できた。一神教の宗教で、寛大さのない彼らが、その宗教の信徒にならない異国の者であるミョウヨウに反発があるのは分かっていた。各国の貴族となって、名が知られるようななっているから、なお許せなくなったのだろう。かなりの大金を支払って依頼した針と糸の兄弟団が壊滅したとあっては、少なからず狼狽えるだろう。その間に、送り込んでいる連中に、自分への敵意を削減するよう工作を指示していた。
「見たか?見たか?ハハハ…。」
 狂ったような笑顔と笑い声を上げ、リリスは、ゴセイに抱きついた。体が快感からビクンビクンと痙攣を繰り返していた。そのリリスを抱きしめ、
「マリア。頼む。元の場所だ。」
 マリアは無言で、転移魔方陣を作り出した。
 元の場所に戻った。目的の町までは、さほど遠くないが、既に夜となっているので入ることはできない。それ以上に、リリスの快感は、性的興奮状態も最大になって、おさまりがつかなくなっていた。そのため、急いで野営の支度をし、そそくさに食事を始めた。リリスは体を痙攣させて、呆けたように、残忍な笑いを浮かべているばかりなので、ゴセイが食べさせた。そして、メドゥーサ達が食べ終わる前に、少し離れた所で、2人は裸になり、リリスは喘ぎ声を上げ始めた。不満顔のメドゥーサとマリアだったが、食べ終わり、リリスが終わると、先を争うように裸になり、ゴセイに飛びついていった。センリュウと言うと、興味深そうにしていたが、黙って周囲を警戒していた。
「ゴセイ。あなたは、殺戮はしたくないのではないですか?」
 夜明け近く、日が昇る方向を、色々な色の光が地平線に重なって現れていた、見ていたゴセイの背中に体をすりつけたマリアが、耳元で尋ねた。リリスとメドゥーサは、ぐったりとなっていた。マリアも、快い疲労感を強く感じていたが、やっとのことで起き上がったのである。
「争いをすると、決まって私は、お前は自分だけが正しいと考え過ぎだ、と怒られた。相手の話に耳を傾けたのは私だ。どうして、相手に、それを言わないのかと思った。いつも、私は我慢を強いられた。」
「それで、世界に復讐を?」
「それは、その我慢をすることは、世を生きる手段として有効だと分かった。私は、その教えのおかげで、多くのことが上手くいったのだと思っている。」
「では何故?」
「お前は、どうなのだ。」
「は、私?」
「マリア?お前は、多くの勇者を育て、加護を与え、多くの人々を救ってきたろう?」
「私が?」
 口ごもったが、
「あなたの言うとおりでしょうね、でも、全ては既に曖昧な記憶になってしまった。そして今、人間は、私の名も、存在も忘れた。他の神の名で祈り、信仰する人間など、天罰を落とし、死んでしまえと思っていますわ。」
「それでいいではないか?」
 ゴセイは振り向いて、彼女を抱きしめた。そのまま彼女は、彼に身を委ねた。その2人を、リリスとメドゥーサが睨み、多くの色が消え、赤い朝焼けの光が2人を照らし始めた。
「のう、マリア。」
 朝食を取ってから、出発してしばらくして、リリスが呼びかけてきた。彼女に声を、かけられることを予想していなかったので、マリアは少しばかり驚いた。
「あいつはな、多分知ってるだろうが、甘い、甘過ぎる奴じゃ。それでも、必要であれば、冷酷に殺してきた。お前も、メドューサも見てるだろう。我を封印から解き放った時から変わらぬ。殺戮は好まぬが、敢えて止めることはしない、そういう奴じゃ。それだから、我は奴のそばにおる。」
 わざわざ馬を寄せてきて、一方的に言うと、また、元の場所に戻った。彼女がゴセイの右側、マリアが左側に位置し、メドューサがことあるごとに、割り込んできていた。取り敢えずの目的の町までは、もう直ぐだった。
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