第25話 シチリア王 2

文字数 2,391文字

 大広間の奥には、多数の女達に囲まれた、ゴセイがいうシチリア王、神聖レムニス帝国皇帝が座っていた、豪華そうな絨毯の上に胡坐をかいて。そこは全てが異質な空間だった。
「アラビアンナイトだな、まるで!」
とのゴセイの言葉に、
「なんだ、それは?」
 リリスだった。
「え?」
 メドゥーサ。
「翻訳して下さい。」
 マリアも。
「千夜一夜物語!」
 ゴセイは、呆れたような、驚いた顔のままだった。
「なおさら分からん。」
 諦めた、リリスは。
「え~と。」
 メドゥーサには、困惑しかなかった。
「もういいですわ。」
 マリアは考えるのを止めた。
 奥に坐し、半裸に近いほどの衣装の美女たちに囲まれた皇帝は、彼らに笑いかけて、
「まあ、座り給え。私個人の内内の宴だ。緊張も格式もいらん。お前たち、客人を案内せんか。」
 その言葉に、女達がゴセイ達を導こうとそばにきた。必要以上に体を、ゴセイに密着させようとする女達の間にリリスとマリアは割り込み、メドゥーサは慣れているように彼女らに案内され、皇帝の2~3m離れて対峙する敷物に座った。ゴセイの両脇に座ろうとする女達を排除し、彼に酒の杯を渡し、そこに酒を注ごうとするのを取り上げるリリスとマリアを横目に、メドゥーサは悠々と女達から酒を受け取り、さらに言いつけていた。”さすがに元魔界の最強、最凶の統一魔王様だ。”とゴセイは可笑しくなった。
 彼らが座るのを見て、
「ヨウ!余の3人目の推薦を断っておいて、いつの間に3人目を娶った?」
 第一声の質問だった。
「陛下。私は3人までと申し上げましたが、その席は埋まっておりますとも、1番目の席には、リリスが既にいますとも申し上げたはず。この者が、そのリリスです。」
「そうか、リリス殿が帰ってきたか。お前の、第1の席の女に恥じない美しい女だ。」
 目を細めて、リリスを品定めするようにも見て、笑っている皇帝に対して、リリスのピクピクしているこめかみを気にしながらも、ヨウは、
「お恐れながら、陛下。私をお呼びになった目的を言って教えていただけませんか?」
と頭を下げながら言ったが、
「ろくなことではないな。」
「あ、賛成!」
「珍しく賛成です。」
 ゴセイは、3人の言葉は、聞こえないふりをした。皇帝は、笑いを絶やさず、
「なに、世界に平和をもたらそうと思ってな、君に協力してもらうためだよ。」
「世界に平和を?」
 ヨウは、疑わしいという目を、彼に、皇帝に向けた。彼の隣に、半裸にも近い衣服の若い美女が座ろうとしたが、リリスが押し返して、張り合うように、自分の衣服の露出部分を増やした。それを見て、マリアとメドューサもそれに習った。
「ははは…。リリス殿は色っぽいな。マリア殿とメドューサ殿も、相変わらず…3花競演だな。欲しくなってしまうな。」
「差し上げられませんよ。本題に戻りましょう。まずは、どうなさるおつもりですか?陛下が、そのあたりを考えていないとは思えませんが。」
「さすがに分かっているな、助かるよ。アルディーンと、まず話しをつける。既に1年以上にわたり、使者の交換を進めているんだ。」
“本当にシチリア王だ。”ヨウは、心の中でしんみりと思った。
「君は、彼にも大変信頼されていると聞いている。もちろん正式な交渉は、別に正式な使節を送り進める。君には、その下準備、道慣らしをしてもらいたいのだ。嫌とは言わせないよ。ぜひ引き受けてくれ。引き受けると言ってもらうよ。君の主にも、依頼したと伝える使者を送っている。」
 断るなら・・・という調子だったので、リリスも、メドューサも、マリアも臨戦態勢の表情になった。しかし、ヨウは彼女らを手で制して、
「他ならない陛下のご依頼、断ることなぞありません。しかし、」
「しかし?」
 彼は愉快そうに、ヨウを見た。
「陛下の死後、10年も持ちませんよ。」
 ヨウは、静かに、少し憂いを含んだ表情で言った。
「その根拠は?」
 皇帝はめげなかった。
「ある、生涯1度しか敗北を喫しなかった偉大な皇帝が、敵であり、また偉大な王との間に和平条約を締結しました。それは、その皇帝の唯一の敗北、死、誰もが逃れられないによって、相手の王も既に、そのため15年間で終わりを遂げました。」
「その皇帝がシチリア王と言うわけか。」
 ヨウは頷いた。皇帝はしばらくしてから、
「後は、君に頑張ってもらうからな。よろしく頼むぞ。」
 上機嫌で言う皇帝にヨウは、大きなため息をついた。そして、穏やかな笑みを浮かべて、
「分かりました。ただ、しばらく時間を下さい。」
「もちろんだよ。十分準備をしたまえ。シンドバッド義兄弟達とも連絡を取るのだろう?」
 笑っていたが、逃がさないというつもりでいるのは分かった。
「本当にしかたがありませんな。」
 ゴセイの笑顔に、“やるのか?”“ほ~。”“あらあら…、”リリス、メドューサ、マリアは少し困惑していた。
「ところで、このような任務を私などに託そうと思い立ったのですか?」
「今まで言ったろう?まあ、さらに・・・しいて言えば・・・ソウ先生が君こそ適任だと言って、大いに推薦したのだよ。」
「ソウ先生ですか・・・・。」
 ゴセイとは、顔見知りであり、よく語り合った仲である。人間、亜人そして魔族までを全て平等であると主張し、平和、人々の利益になることなら報酬とは関係なく、千里の道も遠いとせず東奔西走している清貧の哲学者、思想家である。彼の平和思想、平等思想は敬遠しつつも、彼の持つ知識、技術、手腕を必要として、彼を招く諸国も多い。民の利益になるのであれば、彼はその知識、手腕を発揮して、飄然として立ち去っていくのが常だった。
「あの方を尊敬していますが・・・人を見る才は疑わしいですな、私を推薦するなど。」
 渋い顔で言うヨウを見て、皇帝は大笑いした。リリス達は、頷いていた。
「ところで、シンドバッド義兄弟とは何だ?」
 リリスは尋ねた、小声で。

 
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