第11話 三人は清純派

文字数 2,105文字

 二人はしばらくして階段を下りてきた。リリスは、白を基調とした上下の、見慣れない服を着ていた。
「こいつの国の、“みこ”・・・女神官の服だそうだ。」
 質問される前に、リリスはことさらぶっきらぼうに言って、メドーサとマリアの前に座った。
「こいつが作ったというからのを・・・。着てやらねばなるまい。」
「まあ、巫女の服というより、それ風に作ったというだけだ。」
 ゴセイも、椅子に座った。
「あなたがよく言っているテンシンケイカイの巫女ですか?」
「関係ない。あれは、お前の信仰は何だと聞かれて、煩いから言っているだけだ。まあ、リリスには、その女大神官ということにするさ。」
「ゴセイ、リリスのためだとか言って楽しそうに作っていたもんな。でも、リリスは意外に神官とか修道女、聖女っぽいね。」
「あら珍しく意見が一致しましたわ。私の神殿に仕えても、ふさわしいくらいですわ。」
「淫乱女神の巫女などお断りだ。」
「私こそ淫売聖女などは、立ち入り禁止ですわ。」
 にらみ合う二人を笑っていたメドゥーサだが、今度は二人から睨まれることとなった。“こうやって見ると、リリスは聖女で通りそうだな。マリアは当然だが、メドゥーサも清純な聖女で違和感がでないかもしれないな。”にらみ合う3人を半ばあきれ、笑っていたゴセイだが、
「センリュウは?」
 その問いに3人の誰かが応える前に、
「マスター!ユダが来ました。」
 声が聞こえた。
「なんじゃ、そのハイエルフもどきのダークエルフは?」
 リリスは、センリュウの大きな体の後ろにいた妖艶な雰囲気のエルフを目ざとく見つけて、怪訝そうな表情で尋ねた。女はさすがに嫌な顔を見せた。
「さすがリリス。よくわかったね。」
「ハイエルフの悪党ですわ、超の字の付く。」
「ダークエルフが一緒にしてくれるなと泣いて嘆願するくらいの悪党だよ。」
「メドゥーサの姐さんも、マリアの姐さんも、酷いっすよ。それでそこの・・・。」
「リリス様だよ。」
「リリス様です。」
 すかさずメドゥーサとマリアが同時に言ったので、彼女は口にしかけていた言葉を急いで飲み込み、
「ユダといいます。よろしくお願いします、リリスの姐さん。」
と頭を下げた。
「お前も座れ。一緒に食事をとれ。報告は、食べながらでいい。」
 椅子に座ると直ぐに、彼女は、
「旦那。もう、あの世界の連中の間でもちきりですよ。死神だ、地獄への送り人とか、有名どころが軒並み全滅でしたから。」
「死神?ああ、浪々の身になったが市井の自由を選んだって奴か?主家再興もせずにいる輩は、あの程度でしかないか…、所詮は。」
 そう言いながら、ゴセイは自分に腹がたった。リリス達は、彼の気持が分かるような気がした。“永遠の忠誠を捧げた至高の美しき兄妹である御方達か?”
「何か分かったのか?」
 3人の視線を無視してユダに尋ねた。
「あまり。」
と首を横に振った。が、直ぐに
「直接の依頼人は、針と糸の兄弟団でしたね。そこまでは分かったんですがね、それ以上先は掴めませんでしたよ。」
「そうか。まあ、お前がそこまで確認できたということだけでもいい。まあ、ご苦労だったな。」
 ヨウは、それ以上は何も言わず、黙って思案し始めた。
「あの30くらいに見えた魔道士の女もそうなのか、有名どころとかの?」
 リリスがユダに声をかけた。
「ええと‥ああ、いましたね。大魔道士級の奴で‥どなたが殺したんですか?」
「リリスには、子供扱いだったよ。それから、神族がいたけど、知ってるか?」
 メドューサが口をはさんだ。
「知ってますよ。死神とかと最強を争ってましたよ。確か、マリアの姐さんを敵視していたって聞いてましたが、マリアの姐さんが?」
「マリアに、鎧袖一触以下だったよ。」
“分かってはいるんだけどね。”とユダは、震えながら、センリュウに小声で尋ねた。
「リリス様って、どれだけ強いんだい?」
「余計なことを考えるな。」
「だって…。」
 そのやり取りは、ゴセイに聞こえていた。
「ユダ。かつてな、リリスはな、全盛のメドューサを半殺しにして、その疲れきったリリスを全盛期のマリアは抑えるだけで精一杯だったんだ。リリスの力も落ちているが、明日なら、二人と一対一なら勝てるぞ。」
 マリアとメドューサは、不満顔だったが、反論をしなかった。“あの二人より、強い?あの二人が今より強かった?想像もできない・・・。”
「ゴセイ。全盛期などと言ったら、もう二度とないように聞こえるじゃありませんか?私の力は、復活しますわよ。」
「僕も…、かつての力を越えるんだからね。」
 マリアとメドューサが、不満そうに、意気込んで文句を言った。
「ああ、すまんな。二人には、かつてを越えることを期待して…、いや、確信してるさ。」
「もちろん、我もだろうな?」
「当たり前だろう。だからこそ、私も、今より強くならねばなと思っている。」
 ゴセイは、3人を抱き締めた。睨み合う3人だったが、彼は気にしなかった。
“これ以上強くなるのかよ?”ユダは振るえながら、呆れた。
「それでだ、ユダ。針と糸の兄弟団の本拠地のことは調べているか?」
「ええ、大体のところは。」
 ジャガイモと肉の料理を頬張りながら、説明を始めた。
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