第15話 もっと取り上げれば良かったのでは

文字数 3,197文字

 市庁舎は騒然とし、誰もが混乱していた。
「衛兵達はどうしたのだ?」
 市長は叫び声を上げた。珍しい女の市長だった。色々と複雑な事情から昨年、市長の座につき、1年近くがたっていた。
「衛兵の多くが、恐怖に動けなくなって…」
 そう報告する衛兵長も、恐怖で震えていた。
「市民兵を動員しろ!」
 市評議員の一人である女が悲鳴を上げるように叫んだ。
「既に、招集をかけましたが、彼らも動けなくなったり、逃げてしまいました、彼らを見て。」
 衛兵長が、改めて言った。
 かつて美しかったのかどうかも分からなくなっている、ややうすくなっている金髪の女二人は、それでも何とか言おうとした。男達というと、老いも若きの別なく、腰を抜かして、言葉が出てくるどころではなかった。そして市庁舎の評議会会議室は、異臭にも包まれていた。
「さて、どうしてくれるのですかな?」
 大量の特に凶悪なレッドゴブリンの首と人間の戦士達の首を入れた荷車の後ろに立っているゴセイ・ミョウ・ヨウの姿があった。彼も、傍に立つ3人の女達も、その後ろに立つ大柄な女とその後ろに並ぶ十数人の男女の戦士達も返り血がべっとりと付着していた。さらに、ゴセイの前に首輪で繋がれた二人の男が座らされていた。
「二人がすっかり話してくれましたよ。」
 三日前の話だった。ユダを含む十数人と合流したゴセイ達が、スキアボーネ市の宿に入った時のことだった。市長の使者と名乗る男が、3人の従者を連れて現れた。市長とし政府からの要請があるので、市庁舎までご足労いただきたいということだった。
 リリス、メドューサ、マリアを連れてゴセイは彼に案内されて市庁舎に出向いた。
 市長室長には、市長、市評議員会正副議長などが待っていた。
 かなりの数のゴブリンの一隊が周辺を荒らし回っている。それには、人間やエルフやオーガの族も加わっているらしい。そのため当たるところ敵なしの状態で、スキアボーネ市が次の標的となっているようだが、生半可な数では守りきれるものではない。
 有名な正聖騎士であるゴセイ・ミョウ・ヨウが来たとの情報があり、藁にもすがる思いで、彼の助力を要請するのだというのであった。市民兵も、従うことを約束し、もちろん報酬も支払うていうものだった。
 ゴブリンの一隊が暴れ回っているという話しては聴いていた。こういう話には、報酬を釣り上げる傭兵団も多いものだということは理解できた。市認定の魔道士など6人が、かなりの実力者とすぐに分かったが、紹介され、彼らが市民兵の先頭に立つと説明された。
 ゴブリン達の情報から、市の南東5㎞ほどの森の近くの開けた場所で待ち構えることとなった。夜戦だった。
「囲まれたぞ。市の兵は、皆退却しておる。」
 リリスが吐き捨てるように言った。
「約1000匹といったところですか?すっかり見くびられたものですね。」
 マリアも、いまいましそうだった。
「僕たちを犠牲にして…というわけではないよね。」
「ああ、あの6人。実力があり過ぎるな。」
「市民兵の中の50人ほどが毛色が違っていたぞ。」
「第二ラウンドがあるというわけだ。とにかく、目の前の連中を叩き潰すぞ。リリス、左右後方の連中を叩け。そちらが混乱している中、正面は、残りで叩く。あ、そこの3人は残って、リリスを護衛しろ。」
「その必要はないぞ!」
 リリスの不服そうな顔を、ゴセイは意にかえさないといった風で、
「念のためだ。では行くぞ!」
 ゴセイが立ち上がって剣を抜いた。
 左右後方で轟音が鳴り響き、衝撃を感じる中、20人ほどの一隊が飛び出した。その一団に、魔法や矢、礫、石、投げ槍などの攻撃が集中した。それは全くきかなかった。逆に、彼らが張ってある防御壁は、目の前で消え去り、雷球、火球や矢が彼らを襲った。混乱している中に、ゴセイ達が突入した。かなりの数の人間やエルフ、オーガなどがいた。今回は臨時に加わったのか、前からなのかは、分からなかったが、非ゴブリンたちの比率はかなり高かった。
 戦いは、ほとんど一方的殺戮となった。
「た、頼まれたんだ。助けてくれ!彼女だけでも。」
「お、お願い。助けて…。」
 抱き合うように、命乞いする男女の人間を前にして、ゴセイは、その目の前で、やはり命乞いをする人間、亜人達をメドゥーサとマリアが、無雑作に斬殺しているのを止めなかった。
 しかし、ゴセイは彼らに突きつけていた剣を納めた。
「フン。お前達は、実力があるから助けてやる。他の生き残っている連中を集めて、死んだ奴の装備を剝ぎ取って運べ。逆らう奴は、容赦なく殺せ。いいな。」
 二人は、土下座して感謝の声をあげた。
「相変わらず甘いね。」
「まあ、荷物運びは必要ですけど。」
 両脇の二人が呆れるように言った。
「相変わらずだのう。」
 後ろから、リリスが抱きついた。慌てて、メドゥーサとマリアは、ゴセイと腕を組んだ。
 それが終わって戻る時に、襲撃を受けた。
 あの6人を先頭にした数十人の戦士達が、いきなり襲いかかってきた。彼らからの魔法攻撃や矢や槍、その中には聖矢、聖槍が含まれていた、が飛んできたが、リリスが張った結界に魔力は中和され、矢も槍も弾かれてしまった。逆に、彼らが張った防御結界は中和されて消え去った、リリスによって。
 再び、ゴセイ、メドューサ、マリアを先頭に斬り込んだ。再度の一方的な殺戮劇が展開されたのだった。5人がゴセイと斬り結び、魔力をぶつけてきた。一つ一つを受け流し、受け止めながら、複数の魔法攻撃を同時に発動して、ゴセイは一人づつ倒していった。
「…。」
 でない声を上げて、主を助けようと立ち上がろうとしているオーガの女戦士を、背中から突き刺し大地に貼り付けたゴセイは、
「小退金!」
と呟いた。
 辛うじて立っていた聖騎士を思わせる男は、呪いの言葉を上げる前に、まるで一点に向けて収縮するかのように押し潰された。
「思ったより早かったね。」
「また、強くなりましたわね。でも、皆殺しで良かったのですか?」
 既に、半ば以上を、肉片にしたメドューサとマリアが、脇に立っていた。
「そこに1人、虫の息の奴がいるだろう?」
「もう1人息があるぞ。」
 リリスが、少年を1人もってやって来た。彼らすら囮だった、半ば。五人の暗殺者が、密かに潜んでいた。彼らが、一斉に襲いかかってきた時、既に察知していたリリスの張った捕獲魔法に引っかかり、4人は死亡、1人が重傷という結果になった。
「まあ、その辺でいいだろう。」
 翌日、ゴセイ達は、戦利品を持って、市庁舎に押しかけた。生き残った二人が、全ては市長、評議会議員達と彼らが結託してのことだと白状、告白した。市民兵がどうしたとの怒鳴り声が一段落すると、一通り6人の魔道士達の腑甲斐なさを詰ってから、市長と評議員会達による罪のなすりつけ合い、誰が彼らとの取引に合意したとかの、を経て市の財源不足とゴブリンや盗賊の襲撃に困り果てていた中での高額な礼金と実質的にコブリン、盗賊対策が解決される提案に乗ったことの同情、理解を求める哀願をしはじめた。ヨウは、それを最後まで聞いた後、首謀者である評議員数人の財産の3分の2を没収、その1/3をゴセイが報酬として受け入れる、1/3を市の会計に、1/3を貧困層に分配せよと命じた。そのことを、市庁舎より市民に向けて告示するようにとも要求した。それに、当然不満な表情を見せる者もいたが、ヨウは問答無用だった。
「嫌なら、皆殺しになるだけだ。」
 ヨウは、冷たく言っただけだった。もはや、拒否できるような状況にはなかった。彼らは同意した。
「あまり大きいと、奴らに同情が行くからだ。」
 この程度なら、大抵の庶民は拍手喝采、いい気味だと思うだろうが、あまり過酷だと、同情してしまうかもしれない。
「フン。どちらにせよ、あまりにも甘いわ。」
 リリスの言葉に、メドューサマリアも首を縦に振った。
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