第10話 私も必要なんですよね

文字数 2,180文字

 「たいしたことは分からぬな、結局。依頼の仲介者は分かったが、そこまでだ。上の方だ、くらいの言葉がでてきているだけだった。」
 死体の頭の中を覗きまわったリリスが言った。ゴセイは、
「その仲介者というのは誰だ?」
「針と糸の同胞団とやらだが、殺しとか危ない仕事を請け負っている連中のようだな?」
「ああ、その通りだ。」
 そうこうしているうちに野次馬が集まってきた。さらに、の役人達がやって来た。事情説明のために来いと言ってきた。傭兵や犯罪ギルドなどの殺しあいなど、見て見ぬふりをするのが普通なのだが、規模が大きいとはいえ、何故か執拗に聴取したいから同行を求めてきた、しかもかなりきつい調子で。
「リリス、メドューサ、センリュウ。先に宿に帰ってくれ。私とマリアでゆくから。」
「わしではダメなのか?」
 リリスが不満を言った。メドューサも、同感だという顔だった。
「人数は多くない方がいい。こういう時は、マリアが適任だ。それに、いざとなったら、呼ぶから。」
 ゴセイは、最後は宥めるように言った。二人は不満顔だったが、それ以上は何も言わなかった。ゴセイは、マリアを連れて、役人達に従った。するとマリアは、これ見よがしに腕を組んできた。二人は、当然睨みつけ、その刺さるような視線を、ゴセイは感じたがマリアのしたいようにまかせた。 
 市の当局は、傭兵達の命のやり取り、血生臭い事件は、基本的には市民や市に危害が及ばなければ見て見ぬふりをするのが普通である。数十人規模の死者が出ても、基本的には同じである。規模が大きすぎるからと問題になるとしても、大した取り調べなどはしないものである。しかも、ヨウが曲がりなりにも、貴族の称号を、他国のそれであっても、持っているのだから、なおさらだ。どう考えても、簡単な聴取と、市側の治安不備の詫びを聞き、この後は注意をと伝える程度であるはずだ。それが、諮問会議のまえで椅子に座らせられて、執拗な取り調べが為されたのだ。
“今回の襲撃には、市にも手を打っていたか?それで、その失敗に慌てているのか?それとも、追加の到着を待っている?”延々と続く取り調べに飽き飽きしながら、彼らの表情を観察していた。マリアが、淡々と答えながら、だんだんと脅しを強めていった。夜明け前、委員達が震え上がって二人を解放した。
「腹が減ったが、どうだ、新手はついたようか?」
 市庁舎を出てから、ゴセイは、耳元でマリアに尋ねた。
「いますわ。10人。たった…。待ち構えているようですわ。不可視の魔法で3人、物陰に気配を消しているのは7人。」
「罠に乗るか?避けて進んで、追ってこさせるか?」
「あちらから、襲ってこさせましょう。罠で一網打尽に。」
「罠でか?」
 ゴセイが、マリアの顔を覗き込むと、不満そうな表情で、彼の腕を自分の豊かな胸に押しつけて、もじもじするような動きをした。
「リリスやメドューサとばっかり…。」
「奴らに見せびらかすのか?それを囮にするのか?」
 ゴセイが、その場を想像して笑った。
「私はかまいません。でも、ちょっと場所は選んで…。」
「わかった。」
 押し殺した最後の喘ぎ声とともに、体を激しく痙攣させ、膝も壁に手を押し付けていた腕の力も抜けて崩れかかるマリアを後ろから支えたゴセイも、大きく動かしていた下半身の動きを止めて、微かにうめいた。
「相変わらず、すばらしいよ、女神。」
 彼は彼女の耳元で囁いた。彼女は、首をひねって彼の方を見て、
「私も必要なんですよね?」
 元最強の戦いの女神の顔は、不安そうな少女の顔のようだった。“こういう
顔もかわいいな。”
「もちろんだ。」
 彼は少し開いている彼女の唇に、自分の唇を重ねた。長い間舌を絡ませてから、
「我慢できなくなったな?」
「男も女も堪え性がないようですわ。」
 あざ笑うように言った。彼にとっては、その残忍な笑い顔も、とても愛らしく感じられた。
 3人が大地に崩れ落ち、7人が地に倒れて、うめき声をあげていた。マリアの薄い結界を突破したと思った彼らは、そのすぐ後に攻守一体の結界が有り、突破したはずの結界が、突破したことにより攻撃魔法に変わることに気が付かなかった。気が付く前に倒れていた。三段目の攻撃魔法網は発動する必要はなかった。そこまでは、誰もたどり着けなかったのだ。
「あら、誰一人死んでませんでしたわ。申し訳ありません。まだまだですわね。メドゥーサ達に笑われそう。」
「言わなければいいさ。それに、奴だって似たようなものだ。それに、それだけ手練れだった
ということさ。止めを刺すぞ。」
「はい。」
 二人は剣を抜いて、下半身露出のまま、10人の男女に止めをさした。彼らも意識が半ば朦朧とし、足がふらついていたが、剣などを何とか構え、魔法を発動したが、軽く弾かれて血を噴き出して倒れた。その後、ゆっくりと二人は下を履いた。
 はぎ取った剣などを持って二人は宿に戻ったが、案の定、待ち構えていたリリスとメドゥーサが、
「戦いの女神とやらが聞いてあきれるわ。」
「マリアの臭いがプンプンだよ。」
と文句を言うとマリアが、
「あなた方に言われたくありませんわ。」
と反撃した。ゴセイは三人の争いを無視して、
「リリス。お前に見せたいものがあるから来い。」
 リリスは不満顔だったが、彼に従って階段を上がった。メドゥーサとマリアのにらみ合いは、続いていたが。


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