第24話 シチリア王

文字数 2,784文字

 鎧や盾には、紋章の類はつけていなかったが、その持つ聖剣、聖槍、身に着ける聖鎧などから聖騎士クラスの者達だとすぐに分かった。そして、全員が魔法を仕えた。さらに後方で、魔法詠唱をしている数人がいることを感じた。空中に、数羽のグリフォンに乗る連中がいた。センリュウは、空中に飛び上がった。ゴセイには、数人が襲い掛かってきた。後方の数人は魔法詠唱を終える前に、防御結界を張っていたが、全員が消し炭、黒焦げになっていた。ゴセイに向かった数人の男女は、後方の惨状に気が付いたかどうかわからないが、絶妙の連携で彼を襲った。ゴセイは、彼らの剣や槍を受け流し、魔法攻撃を中和しながら、一人ずつ魔法攻撃でひるませ、剣を叩きつけた。
「この悪魔め!」
 叫んで切り込んできた女騎士は、彼に小柄な男の騎士の頭を砕かれるのを見て逆上したようだった。それで生じた隙をつかれ、彼の剣で彼女の胸は刺し貫かれ、衝撃魔法で飛ばされ、大木に体を叩きつけられた。
「3人確保できた・・・。お前たち、役に立ちそうな・・・。」
 振り返った彼に、
「すまん。全員消し炭にしてしまった。」
「全員、マラバラにしちゃった。」
「切り刻みんで、ミンチにしてしまいました。」
「全員叩きつぶしてしまい・・・」
 ゴセイは、大きなため息をつかざるを得なかったが、
「まあ、仕方がない…3人いれば情報は取れるだろうから…。」
 自分が倒して、まだ息のあるもの達の方に振り返ると、いつの間にかリリスがそばに来て、彼の袖を引いた。彼女を見ると、リリスは彼の顔を見上げて、
「た、確かに消し炭にはしたが、奴らの持ち物はな…、先にはぎ取ってだな…、そこに分けてな、服は畳んでおいてあるぞ。」
 そこには、剣や鎧から下着まで、衣服は下着までキチンと畳まれていた。”突然裸にされたことを、奴らは消し炭になる前にわかったかな?”裸にされた聖騎士の女の姿を想像して、ゴセイは苦笑した。リリスはというと、いかにも褒め言葉を期待してもじもじしていた。それが、たまらなく可愛く見えた。彼女の期待通りに、ゴセイは、彼女を抱きしめ、唇を重ねた。
「さすがは、リリスだ。」
「あ、当たり前ではないか。」
と言葉を交わすまでにかなりの時間がかかった。痛い視線を感じ、リリスが彼女らにドヤ顔を、見せているのが分かったので、
「マリア。そこに倒れている奴を助けとやってくれ。」
 彼女が優越感を感じさせながら、ゴセイが倒した瀕死の男女達のところに向かうのが分かるので、
「メドューサ。こいつらの首尾を監視していた奴らがいるはずだ。もうかなり逃げたかもしれないが、捕まえろ。ああ、二人でいいぞ、後は死んでも別にいい。」
「分かったよ。人使いが荒いんだから、相変わらず。」
 それでも、機嫌が少し直ったのが分かった。センリュウには、自分とともに肉片などになった連中の身につけているものを剥ぎ取ることを命じた。
「はい、マスター。」
とだけ言った。リリスも加わっての作業が始まった。それが終わった頃には、血だらけだが死にそうにはない二人の男女を、メドューサが持ってきた。マリアは、5人の男女を静かに正座させていた。
 彼らは、三位一体教会の聖修道士騎士に見えたが、予定説派の聖騎士達だった。三位一体教会側に罪を擦り付けたいというつもりだったのは当然だったが、ゴセイが再洗礼派の支持者であるという理由での暗殺指令だということが分かった。予定説派は、三位一体教会を非難して成立した宗派であるが、三位一体教会側以上に再洗礼派を敵視していた。
「どうしてそうなるのかね?この前は、多神教徒だと言って狙われたが。」
 そう言いながらも、”宗教などそういうもんだ。”とわかっていた。
「2㌔くらい先に、今度は正真正銘の迎えのようだぞ、10数騎の一隊だ。」
とリリスが言った。
「ではここで待つか。」
 しばらくして彼らはやってきた。正座している7人の聖騎士風の男女に、不審そうな視線を送りながら、皇帝の名で出迎え、案内、護衛に来た旨隊長と思われる男が丁寧に述べた。それに、ゴセイは謝意を伝え、ことの経過を説明した。
 彼らの先導で、その後は順調に何事もなく進むことができた。宿も手配されていた。ただし、それ程上等な宿ではなかったことから、リリスをはじめ、文句をしきりに言い出した。何故か、自分達を先導する面々が、上等な宿や地方の豪族の館に宿泊するのだから、なおさらだった。ゴセイは、彼女らを宥めつつ、新たに加えた、元襲撃犯達を自分の家臣にしたことを認めさせ、彼らの宿を探すのに、確保するのに奔走するはめになった。そうこうするうちに、目的の地にやって来た。帝都ではない。彼らを呼んだ、ゴセイが“シチリア王”と呼ぶ皇帝の別邸のある都市だった。彼は、ゴセイと会うために、わざわざやって来た、できるだけ早く会うために、ということだった。
「この魔女の絵のモデルはマリアじゃないか?この品の悪さは、そっくりだよ?」
「あらあら、こちらの怪物こそあなたではないのかしら?醜悪な顔がそっくりですわ。」
 長い廊下を歩いている途中で、何枚かの絵を指さして、メドゥーサとマリアが罵り合った。その前、彫刻の醜悪な悪魔を似ていると二人に言われて激怒して言い返したリリスは、涼しい顔をしてゴセイの横に立って進んでいた。今まで歩んで来た道からの景色、街並みを含めて、とは全く異質な空間が広がっているように感じるものだった。そもそも豪壮な別邸だったが、その大きさ、豪華さよりも、全く周囲とは異なり、そうでいながら調和もしている、全く異質な建物だった。
「神聖レムニス帝国フリドリヒ二世。海洋国家でもあるノルマン王国の王にして、神聖レムニス帝国皇帝に選ばれた、今年で40歳になる男だ。開明的で、異民族、異種族、異教徒の区別なく有能な者を引き上げ、そのような民を共存の下に統治し、全ての文化に関心を持ち、取り入れ、利益に敏く、それにより国を、国民を豊かにし、芸術、学芸、魔法、錬金術、哲学を愛し、復興に努力し、教会の言う神の言葉も、教会も、何者も恐れず、死という宿命以外には屈服しようとしないとんでもない馬鹿野郎さ。今度は、何を言い出すことやら。」
 ゴセイは、ため息をつくように言った、リリスに。彼女には、彼の言葉に既視感を感じた。彼を高く評価し、自分が高く評価する相手に、彼はよくこういう言い方をしていた。照れ隠しなのか、罪悪感なのか。わからなかったが、そのとんでもない馬鹿野郎である皇帝の頼みとやらを、彼とともに受けなければならない、と思ったリリスもため息をもらした。たいてい、そういう場合は、細々と面倒臭い、手間のかかることをしなければならないことを知っていたからだ。そうこうしているうちに、大きなドアの前に彼らは立った。ドアが開かれると、さらなる別世界が広がっていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み