第22話 リリス、お前に私の城を見せよう 

文字数 3,907文字

 ゴセイ達は、数日後ポエニ王国の王宮図書館にいた。
「このようなもの、何の役に立つのですか?」
 センリュウはつまらなそうにしながらも、書物の山をかき分けるように探し、写本を求めるために取り出してくる書物の山を、黙々と運んでいた。リリスは
「これも加えた方が良い。我は、これが欲しい。」
と一番積極的に数を増やしていたが、マリアとメドゥーサも頻繁に両手に抱えて、欲しいものを持ってきた。
 1か月間王宮図書館に自由に出入りしを許し、彼が望む書物のすべての写本、発送をポエニ王国が行うことが報酬の中に入っていた。
「さすがに、文武に高名な方は違いますな。勇者はかくなるものと感服しました。」
 頭を下げた大将軍に、ヨウは、
「私は勇者と認定されたことの無い者、そのお言葉、過分に感じます。私のわがままを聞いていただき、陛下や閣下には感謝しております。」
と答えている。
「マスター。プラム公が来ました。」
 ゴセイは、その言葉で、四人を残して図書館を出た。
 プラム公は、彼女の側近3人と貧相なポエニ人を従えていた。
「公国再建に出発かね?」
「はい。既に民の一部も到着しておりますから、早くいかねばと思いまして。新な地を我らに与え、再建へのご助力、更には人もお送りいただき深く感謝いたします。」
 彼女は深々と頭を下げた。
 ヨウは、彼女の親衛隊として彼の部下を彼女の家臣として与えていた。今の彼女にとっては、いかに少数であっても、戦力増はありがたかったし、それが精鋭ならなおさらだった。既に、ショク帝国側が、彼女の異母妹を立てた小公国を建国させている。いろいろな意味で、そこに対決していかねばならなくなっている。人材もあてがった。それが後ろに従う小男だった。この国の元宰相、ショウである。国王の信任を受けながら、ショカツからの甘言と誘い、
「まさに聖人を補佐するにたる賢人」
「私とともに、聖人であらせられる陛下を補佐しましょう。」
という言葉に乗り、国王をショク帝国との会談に送る→捕虜とさせる→ポエニ王国の乗っ取りに加担したのである。才知に恵まれながら、刻苦勉励も、醜い容姿への苦しみを解決することはできず、ぎりぎりのところで、兄である大将軍に阻止され、死刑を待つ身をヨウに救われたのである。
「ショウ殿の政治、外交の才は優れている。ショウ殿頼んだぞ。」
 彼は深々と無言で頭を下げた。
「それから、早いうちに他国の王族と結婚する必要がある。大して安全保障にはならないだろうが、ないよりましだし、やりかたによっては効果も大きい。いくつか送るから、その中から選べ。ショウ殿も、良い相手となるよう厳選するように。」
「選択はさせてもらえるのですね。」
「ああ、もちろんだよ。」
“政略結婚がなによ。国のため、民のためなら、この体を使いまくってあげるわ。”
 だが、ヨウは、
「ショウ殿。分かっていると思うが、身分、由緒があり、それを害することが非難を浴びる一族出身だが、乗っ取るとかショクに脅威を抱かせる、勢力争いに巻き込まれることがない、ということが重要だ。次に、プラム公の気持ち、彼女を不幸にしない奴ということだ。」
“?”
「心得ております。」
「あいつは、お前を捨てた。いや、最初からその程度の者としか見ていなかったのだ。それでも甘い言葉をかけてくるだろうが、それに応じなければ、裏切り者として容赦ない憎悪を向けるだろうから、心しておけ。」
「心得ております。」
 ショウは、繰り返して頭を深々と下げた。ここにいたっても、彼はショカツを恨めず、彼の言葉を信じたがったし、自分を迎えようと思っていると信じてさえいた。それでも、ヨウの命令で、全ての才を振るってショカツに対抗することを拒否出来ない自分も感じていた。
“ポエニ国から、プラム公国建設への支援を頼んだが、100%提供は、まあ最初1年間だけで御の字だろうな。面倒を見てやらねばなるまいが、役にたたせながらと言うと・・・。”
 彼女らとは、その日の内に別れることとなった。
 ゴセイは、その数日後ポエニ国を後にした。ハンニバルとスキピオの兵はもとより、直属のユダ達も解散して、リリス、メドゥーサ、マリア、センリュウのほかは神族のロキなど数人で西へと向かった。
「こいつらを残したのは?」
「これから行く、私の領地の領民だからな。」
 その途中、フンヌ王国に立ち寄った。領地に入る前に国王の使者が迎えにきていた。この周辺の地域大国だった。ポエニ王国を支援するには、適した位置にあり、国力を保有していた。国王夫妻自ら国境近くの城まで来ているという事だった。さほど大きくない砦の一室で、国王夫妻は、側近の者達が怪訝に思うのも無視して、自分達とヨウ達だけでの謁見を行った。
「カーツ・・・、イシュタル・・・。」
 国王は震える唇で呟いた。王妃は顔面蒼白で、思わず立ち上がり、直ぐに椅子に崩れ落ちた。
「おお、小僧に小娘。元気そうで何よりだ。」
「リリス。アッティラ王陛下と王妃様に失礼だろう。」
 あくまで跪き、礼儀を守ろうとするゴセイはリリスをたしなめた。
「リリスは知ってるのかい?」
 いたずらっぽく尋ねるメドゥーサに、リリスは珍しく応じた。
「もう、多分50年昔か。こやつが一人で、よたよたと歩いてきたのを拾ったのだ。」
 クーデターで両親である国王、王妃が殺害され、助け出してくれた忠臣、侍女も彼を守って死んでしまい、一人残った彼はひたすら歩いていた、逃げていたのである、何が起こったのかも理解できないながらも。
「薄汚れた小さな子供だった。まだ5歳くらいだったかの?」
 彼を拾った(助けた)カーツ・シンとイシュタルは、彼の復帰の為に戦い、そのおかげで彼は無事に王位についた。それから10年以上の後、二人は再び彼を助けることになった。
「子供の王様だ。当然後見人、摂政が政治を取ったが、よくある話、そいつがそのまま権力を持ち続けようと野心を持って、親政をとれる歳になったこやつを追い落とそうとしておった。この時、そこの女も、奴の婚約者にもかかわらずに、それに加わっておった。あの歳でたいした野心家だったな。」
 そのクーデターを、シンとイシュタルが壊滅させて彼を助け、婚約者として、妻としての義務を果たせと彼女に命じた。
「それだけのことをしてもらって、態度が悪いですね。」
 マリアが指摘すると、
「女神様もたまにはいいことをいうな。そのとおりじゃ。」
 リリスは、少しあざ笑うような顔で言った。王妃は、不快そうな表情を押さえることができないでいた。
「彼女は、妻は・・あれからは貞淑な良き妻でした。」
 王の弁解のような言葉に、
「そうなるのが当然ですからね。あなた方のご子息達にも命じさせていただきます。その結果として、彼らもその手を血で汚さずにはおれないでしょう。」
 一旦言葉を切ってから、
「3日間滞在いたします。その間、不忠な輩からお守りいたしましょう。」
 その日のうちに、王子、王女達は身近に使える者達を自ら成敗することになった。
「この程度の剣で、先ほどの大言壮語をなさったのですか?」
 男の必殺の剣技を軽く受け流して、弄ぶようにマリアは言った。男を助けようととびかかってきた虎耳の女を、剣で切り裂くほどではないとばかりに、乳房を握り潰して心臓をつかみ出した。叫びながら、女の名前だろう、斬りこんできた男を、遊ぶのは飽きたというように、彼が何が起こったかわからないうちに、四体を切り離して殺した。それが、この国に送りこまれていた間者達だと確認してから、ゴセイ達は旅立った。
「これが、私の最初の館だ。」
 ゴセイは、リリスに堀と城壁で守られた屋敷を指し示したのは、それから十数日後のことだった。それは、さして大きくない所領の領主としても、はっきりと小さすぎるものだったし、実用一点張りで、余りに簡素なたたずまいだった。それなりに防御や政務の便もいくつも考慮してはいたが。さらに、奇妙とも思える穴が壁に穿たれ、回転する場がいくつも有った。
「あれ?ゴセイが作っているものを使う時のためだとさ。」
「これからのものと。」
 メドゥーサもマリアも、詳しく解らないものだった。
“奴がそのうち作る、今その修行中だと言い続けたものなのか?” 
 それでも、リリスは、“我が知らないこ奴の・・・なのだな。”と少し寂しいものを感じてならなかった。“我なしに、魔王と女神と作り上げたのだな。”
「お帰りなさいませ、主様。メドゥーサ様、マリア様。・・・リリス様?」
 彼らを迎えた女は、リリスとは初対面だったが、ゴセイに寄り添う彼女を見て言った。
「そうだ。彼女がリリスだ。」
 ゴセイがリリスの腰に手をまわして告げると、頭を深く下げて、
「これからよろしくお願いします、リリス様。」
“これが、ここの管理を任された女か・・・。これも我の知らない、我無しの・・・。” 
「ほう、これが、お前の作りたがっていた、入りたがっていた風呂か?」
 リリスは、四人がゆったりと入れる浴槽に、ゴセイの肩に頭をのせながら言った。
「そうだ。お前と入る夢がようやくかなった。」
 本当にしみじみとして言うゴセイだったが、リリスは、やはり彼にまとわりつくメドゥーサとマリアをちらっと見て、
「それがどうして四人も入れるものなのじゃ?」
と口を尖がらせた。
「これを作り始めた時には、マリアもメドゥーサも、既にいたからな。」
 ゴセイの回答に、リリスは不機嫌そうに顔背けた。
 その夜、既にぐったりしているメドゥーサとマリアをよそに、リリスは下から四肢を、ゴセイに固く絡ませ、
「我でよいのだな!」
と何度も叫びながら激しく動いていた。


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