第17話  攻防戦 2

文字数 2,885文字

「セキスイ城でのことは、既に報告を受けている。王として、国を代表して感謝を伝えたい。流石に、吾が国にも、その武勇が伝えられるゴセイ・ミョウ・ヨウ殿と奥方殿達と感服している。」
 はるかに高い壇上の玉座に座るポエニ王国国王マルカ五世は、立ち上がらんばかり興奮していた。
 セキスイ城をたって、ポエニ王国王都カルタゴにゴセイ達が到着した時には、既にカルタゴには大軍の侵攻が迫っていた。
 報告が来ている割には、大軍が迫っている割には、到着した彼等を迎え入れるまでの時間がひどくかかった。既に、和平論を展開していた宰相が、内通していたことが発覚して獄に繋がれ、国論は徹底抗戦に固まっているのに、だった。
「長々とお待たせしてしまい申し訳ありません。」
 将軍のハンは、丁重な言葉で頭を下げた。その脇から、彼より背が低い、かといって小柄ではない、ハンが逞しすぎるのである、まだ若い官吏が申し訳ないと言う顔で、
「ご案内するトウです。それで、ここからはヨウ殿だけで。愛人の方々や家臣達は別室でお待ち頂きたいのですが。」
 ヨウと並んで、当然、リリス、メドゥーサ、マリアが立ち、その後ろにセンリュウが、整然と並ぶ300名を超える様様な種族の戦士達を従えるように立っていた。その間に、元ブルゴー公国女大公プラムと数人の家臣達がいた。彼は、軽く頭を下げて、丁重に
「分かりました。部下達は、ご指示ある別室に控えさせましょう。しかし、妻達は、私の妹であり、戦友であり、あらゆる意味で私の片腕達ですので、常に私と共にあります。それから。」
 さもついでにという調子で、少し視線を後方に向け、
「かの女性はブルゴー公国大公プラム様です。高貴な身分の方であり、陛下としても是非、礼を失しない対応をと願っておられるでしょう。」
 そう言うと振り返り、
「センリュウ。皆と連れてしばらく待っていてくれ。それから、ブルム大公の家臣の方々のことも頼む。」
 分かりました、というように彼女が頭を下げると、彼はこれで全ては終わったと言う顔で、
「ではブルム大公様も。」
と言って、歩み出した。トウは止めようかと、ハン将軍の顔を見たが、仕方ないだろう、という顔でヨウに話しかけていた。諦めたトウは、
「ではこちらへ。」
とヨウ達の前に立った。
 国王の間に案内されたヨウ達は、その間、トウは上司らしい者達に呼びつけられ詰問された。その度に歩みが止められたが、何とかトウは切り抜け、彼らの下に戻り、先導して国王の謁見の間に入った。
「我は、臣民達が死ぬのを見たくないのだ。それなのに、死者がでるだろう戦いをして、国王の座を守ろうと考えていいのだろうか?」
 形式的な、儀礼的な言葉もそこそこに、ヨウ達のセキスイ城奪回の礼も一応触れた後、耐えきれないという調子で、国王はすがらんばかりにヨウに向かって尋ねた。廷臣達は、慌てていたが、まさか国王を叱責でもして、話を止めるわけにはいかなかったので、まごつくような状態となっていた。
 “本心か?”どこをとっても傑出したところのない、かといって悪行の噂もない単なる凡人の善人のようだった。“それはそれで、長く平和が結果として続いた国の国王としては、長所とも言えるか?”
「失礼ながら、長く平穏の中にあり、残念ながら、この国の兵は弱いかと感じますが、その国の兵が初めこそ敗北を重ねたものの、今ではショク帝国軍に対して、各地で城に立て籠もり、持ち堪えております。陛下と共に、国を護りたいと考えているのです。それに応え、私達も馳せ参じたのです。」
 彼がそこまで言うと、安心したような表情となり、
「貴公の言うとおりである。共に我らと共に戦って欲しい。」
 ヨウは、頭を深々と下げた。それから、頭を上げると、後ろに控えるプラムの方を見て、彼女のこと、彼女の現状を簡単に説明した。その上で、彼女の国の再建への協力を願い出た。廷臣達が渋る顔をする中、マルカ五世は、
「名家を再興することは、国の義務である。喜んで協力しよう。」
 プラムに視線を向けながら言った。プラムは泣かんがばかりに喜んだが、“どれだけ支援してくれるかは分からないが、ないよりましだろう。”とヨウは考えていたし、彼女もこれで安心したわけではなかった。
 それで会見が終わり、またトウに先導されて王宮内を進んだ。かなりある長い時間廊下を歩き、ある部屋のまえでトウの足が止まった。広い居間、書斎、主寝室、さらにいくつかの寝室があった。トウが説明した。彼等5人の部屋だと彼は言った。センリュウ以下の者達、プラムの家臣は、ほど近い兵士の宿舎にいるとも、彼は説明した。彼がそこまで言って、これからの予定を述べようとしたところを制止して、
「何か誤解されておられませんか?」
「?」
 わざと溜息を突くような素振りを見せて、
「プラム公のような者が、私のような者が夫などであろうはずはありませんよ。そして、彼女は家臣達とおられるべきでしょう。まさか、プラム公を私のような者の愛人とでも思っていたということはありませんな?」
「?」
 とまどっているトウに畳みかけるように、
「おう、そうだ。私達は、公の家臣達と部屋を交換すればよい。では、プラム公。しばしこちらでお待ちください。」
 独りで納得したような顔で、歩き始めた。それに従うリリス等、彼等を追うトウ。
 自分に関心がないような態度、いや道具としての関心しか示さない彼に恨めしく感じた。
「大公様…。」
 主人を心配するように、家臣達が声をあげかけた。
「我が国を再興してくれるのなら、何でもやるつもりです。今回の戦いでも、存在価値を見せなければなりません。私も陣頭に立ちます。あなた方にも、協力してちょうだいね。流浪の民となっている国民のためにも。」
 自分に言い聞かせるように言う彼女に、家臣達は涙ぐみながら、頷いた。
 翌日からの作戦会議には、彼も加わったが、なかなか進まなかった。結局、宰相以下将軍、参謀、高官、高位貴族などのあてどもない議論が続いた後、みな疲れきって途切れた時に、それまで黙っていたヨウが、自分達が、王都前面の守りの城、ラザン城で迎え撃ち、撃退する、今出撃出来る兵力だけついてきて欲しい、自分とラザン城兵の上に立つ将軍を一人つけて欲しい、今すぐ自分達は出ると言って背を向けかけて、動きを止めた。
「マリア。例のものを。」
 マリアは、静かに宰相の前に歩み寄り、書類の束を渡した。
「私達が敵軍を撃退した後に支払ってもらう報酬のリストです。」
「勝利を確信していると?」
「違いますわ。勝利を確信しているのではなく、勝利するのです、私達は。」
 彼女は、穏やかに微笑むと、直ぐに背を向けて、ゴセイのところに歩み寄った。彼女を待っていた彼は、彼女が横に立つと、再び動き出して、出て行ってしまった。
 プラムも従わざるを得なかった。
「お前達を援護する連中はつけてやる。だから、働いてくれ。そうでないと、国を再興などしてやれない。わかったな?」
 唇をかんだ彼女だったが、彼の言葉を従順に聞いている自分がいることに気がついて、唖然としていた。

 
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