第42話 帰還(最終回)

文字数 1,700文字

「お疲れ様でした。ヨウ様。」
「いえ、クロランド殿こそ。護衛の任、有難うございます。」
 船乗りシンドバットの船が彼の乗船を待つ中、クロランドは、ゴセイ・ミョウ・ヨウとの別れの挨拶を続けていた。
 2年以上の月日を経てアルシードの居城に戻ったゴセイ・ミョウ・ヨウ達を、相変わらず年齢を感じさせない彼は、彼が使命を果たしたことへの礼も兼ね、大々的に歓待した。彼は抜かりなく、彼の行動を把握するため、あらゆる手段を行使していたのだ。
「お前の活躍は、お前がナポリ王と言う若造に逐一教えておいたぞ。ひどく喜んで、感動しておったとのことだ。安心せよ、ああ、あいつからも、必要なことは全て手をうっておいたから、安心しろとの伝言をうけとっておるぞ。」
“こいつは…まあ、大体のことはやっておいてくれているだろうな、絶対に。”と心の内で苦笑しながら、大げさに感謝を示すヨウだった。
 彼らを国境線で迎え、ここまで護衛し、そして、港までの護衛を命じられたのが、クロランドだった。彼女にとっては、次何時会えるあえるか分からない、少しでも多く、彼と語り合いたいと思っていた、本当なら二人きりで。
 もちろん、リリス、メドゥーサ、マリアは、ゴセイとクロランドを二人っきりにしないために、彼から離れようとしなかった。
 この旅は3年近くの日々が過ぎていた。クロランドは、ゴセイの顔を見ながら、嬉しそうでいて、少し悲しそうな表情を微かに垣間見せていた。リリスが、自分から彼女に近づいてきた。
「?」
 彼女の方に視線を、クロランドは向けた。ヨウは、商人のシンドバットから声をかけられたので、そちらの方を向いていた。マリアとメドゥーサは、彼に寄り添って二人の方を見ていなかった。
「100年、もっと長くてもよいが、そのままでいさせてやってもいいぞ。奴めの今後が見たいだろう、ともに戦いたいだろう?」
「まさか・・・?」
「我には可能だ。ただし。」
「100年後の奴の下にいたことを後悔するだろうがな。」
 一瞬迷った。が、
「後悔するのであれば、自分の目の至らなさです。それが分からず死ぬことは、さらに後悔するでしょう、後悔。」
 キリッとした表情で、リリスを見返したクロランドだった。
「分かった。生きろ。ではな。」
 そう言って、背をむけたリリスに、クロランドは、
「は?」
 唖然とするクロランドに、リリスは振り返って、
「もう終わっておる。ついでに、あの馬鹿が、お人好しが、お前につけた連中にも、魔法を施し終わっておる。それだけのことだ、我にとっては。」
 クロランドは、言葉すら出てこなかった。そして、彼女の空恐ろしさを、じんわりと感じていた。その彼女に優しい視線を送るヨウの姿を見て、“やはり…最後まで見たい…。”
「分かったか?悪かったかのう?」
 歩み寄るリリスに向けるゴセイの顔を見て、リリスは悪戯っぽい表情をして見せた。
「いや、いいさ。ただ、お前も私と同じことを考えるようになってくれて、助かるなと思っただけだ。」
「我は、お前の一番だからな、当然であろう。」
 彼女は、そのまま顔を彼の胸に埋めた。
「あ、そこは僕が活躍したんだぞ!」
「いいえ、私がまとめて倒したのです。あなたは、暴れていただけです!」
「それは自分だろう?」
「まあまあ、マリアの姐さんもメドゥーサの姐さんも、ここはいったん…その続きを、お願いしますよ。」
と商人のシンドバッドは、小説家のシンドバッドに伝える話を、二人から聞き取ろうとしていた。それが、終わると、マリアとメドゥーサがにらみ合ったままだったが、商人のシンドバッドは手を振って叫んだ。
「リリスの姐さんも!旦那もお願いしますよ!」
 そして、出港直前、ゴセイはいったん背を向けて歩き始めたが、またクロランドのところに戻ってきた。驚いて、そして少し嬉しそうな顔をした彼女に歩み寄り、
「この和平は、長くは続かないでしょう。しかし、1日も長く続くように努めるつもりです。協力して下さい。」
 それだけを言って、また背を向けて駆け出した。彼女は、深々と頭を下げるしかなかった。"でも、これからも、ともに・・・と言ってもらえた。"

 

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