第29話 魔族の襲撃

文字数 3,047文字

「ドラゴンが加わっています。1ダースほどですが、どうしますか?マスター。」
 センリュウの顔には、自信と殺戮できるという悦びの笑みが溢れかえっていた。ゴセイは、ため息をつきながらも、
「どうだ、相手にできそうか?」
「このくらい、楽勝です。」
「苦労して、全滅させるようにしろ。それから、見えるくらいになってから向い撃って、三匹くらいは、この上まで侵入させてから殺せ。」
「分かりました、マスター。」
 センリュウは、頭を下げてから、にっこりと笑った。"一匹は捕獲しろと言った方がよかったか?"とも思ったが、ドラゴンはここで捕虜にするわけにはいかないし、今後の使い道も思いつかなかったので、"どうせ知能の高い上位種は来ないだろうからな。"で、訂正はしなかった。
「残りは我が処分するということでよすか?」
「ぼくが全部殺るから、リリスもマリアも指をくわえて見てればいいよ。」
「私が水平線のかなたで、全部沈めますから、手をださないでくれます?」
とにらみ合う3人に、苦笑しながらゴセイは、
「まず、魔族の軍船は奴らの攻撃範囲内まで近づけさせろ。海蛇もできるだけ近づけさせろ。リリスは、軍船からの攻撃の防御と海蛇達の始末、それからこの船に潜り込んでいる魔族の掃討でラファエロ達を助けろ。それから、海蛇は2匹突破を許せ。メドューサは、その海蛇の一匹を殺して、2番船の魔族退治の援護、マリアは残りの一匹の海蛇の始末と3番船に潜んでいる魔族討伐支援。それから、軍船は一番デカイ旗艦から右まわりで、リリス、メドゥーサ、マリアの順で3隻づつまかすが沈めるのは2隻、一隻は残せ、航行できる程度にボロボロにしていいから、乗ってる奴も船を動かすのに必要なだけは残しておけ。いいな。」
 彼の指示が終わると、とたんに、
「で、その旗艦はお前が一人でやるというわけか?」
「全く、ずるいぞ、ゴセイは。」
「ひとりでやりたいのですか?」
と不満を漏らす3人に、
「そのくらい私にとっておいてくれてもいいだろう?」
 3人は、しかたがないという顔をしていた。
 翌日、魔族の軍船、西方の海の魔王の魔軍、禍々しい装飾というか、造りをした、ある意味奇妙だが、それでいた基本的には造船の基本は守られている、が包囲するように現れた。ドラゴンが空に12匹、巨大な海蛇が10匹、威嚇のためか、わざわざ頭を水面にだしてから、再び水面下に潜った。
 巨大な石弓、投石器からの矢、岩、そして高位の魔導士による火球、雷電玉などによる攻撃が一㎞ほどから放たれた。ドラゴンも口から炎を放ち、海蛇が水流を放った。それらは全て3隻の商船の数十m先で消滅した。軍船、ドラゴン、海蛇は、それを見ても急速に、距離を狭めてきた。指揮官が、そう命じたのだ。
「じぁあ、後は任せた。私は、旗艦に向かう。」
 ゴセイが、甲板から海面に飛び降りた。そのまま、海面に着水、水面に立って、そして駆けだした。しばらく駆けると、彼に攻撃が向けられるが、抜き放たれた超長剣の一閃で次々に攻撃が弾かれていく。そのうち、一隻、また一隻と軍船は炎上、または傾き、ドラゴンが一匹、また一匹と翼をはぎ取られ、体を引き裂かれて落下、海面に大量の血が浮かび上がって広がった。
「やあやあ遠くからん者は・・・。」
 旗艦に駆けあがったゴセイは、大音声を上げていた。
「ふん。上達したもんじゃが、あのわけのわからんことは相変わらずだのう。敵に注意を引くつもりなのはわかるが。」
 リリスが面白そうに微笑んだ。
「あれは昔からなんだ?」
「知っているのか?」
「ええ、私を助けるために駆けながらあれを・・・。その後、血の草原の上で私を、それは激しく抱いてくれて・・・、私は彼の妻となることを決めました。」
「本当か?」
「まあ、本当だよ。」
 自分の世界に没入しているマリアとそれを見て、面白くなさそうに自分の時はもっと情熱的で・・・などとぶつぶつ言うリリスとメドゥーサだったが、自分の仕事はきちんとしていた。何とか船までたどり着いたと思い、海面に現れて襲い掛かろうとした巨大な海蛇は一瞬だけ船乗り達のトラウマになりそうな恐怖感を与えたが、たちまち2匹とも切り刻まれるように肉片になって崩れていった。同じく3隻の上空に達した3匹のドラゴン、かなりの大きさだった、が火炎あるいは雷撃を放ったのを見て、船乗り多くが神に祈り、身を伏せたが、それは途中で消え、ドラゴンはみている間に肉片になって落ちてきた。
「メドューサ様!マリア様!ドラゴンの相手は、私とマスターが命じられていたはずです、どうして横取りを・・・ひどいですよ。」
と上空からセンリュウの文句が響き渡った。もちろん、ドラゴンの姿ではなく、人間の姿のままだった。
「うるさいなあ、暇すぎて手持無沙汰だったんだよ。いいじゃないか、ケチ。」
「二人とも騒いでいる暇があったら、海蛇とドラゴンの肉片から牙とかを集めなさい。私とリリスを見習って。」
 さらに、軍船は次々に炎上、沈没して海の藻屑になっていった。水面に浮いている魔族で生きている者はいない、全て死体だけだった。沈没していない軍船も甲板の上は死体の山、その中に怯えて座り込んでいる魔族が少数いるだけただった。
「リリス様。マリア様。メドューサ様。危ない。」
 ラファエロの叫びが聞こえた。本体を現したミネタウロス型の魔族が、リリス達に襲い掛かろうとしていた。だが、振り下ろそうとしたオノを持つ手が止まり、うめきながらへたり込んだ。ラファエロ達がすかさずとどめを刺した。
「これで終わりだな。」
 リリス達が乗り込んでいる船には、人間・亜人を装った魔族が3人潜り込んでいた。他の2人もラファエロ達が始末していた。リリスはそちらも、しっかり支援していた、だからラファエロ達で始末できたのだ。
「ぼくの方は、もう終わっているよ。」
「ゴセイが、助けろと言ったでしょ?あなたがやってしまっては、彼らの立つ瀬がないでしよう?私の方も終わりましたわ。」
「あとは、旗艦だけだな。ゴセイの奴、楽しみおって。」
 魔力をまとった超長剣が、時には2倍に伸び、短剣のように縮み、三本、4本になり、鞭のようにしなるように見える一閃で、攻防一体の防御結界、放たれる衝撃波、光のドリル、十字剣で魔族の戦士達、魔導士達は次々に倒れていった、ゴセイの前で。甲板も、船内も血の海と死体の山だった。甲板には、まだ戦意のある指揮官と数人の魔族、数人がいたが、残りの生存者は怯えて助けを求めて、ゴセイに奴隷化されている僅かな人数だけだった。
「周りはもう終わったようだな。こちらも、そろそろ終わらせないとリリスに怒られるな。おい、そこの奴、もうお前らの負けだ。降伏しろ、一応助けてやる。」
 指揮官である、小魔王クラスか、それに準じるくらいの半魚人型の大柄な魔族に呼びかけた。
「う、うるさい。死ね。」
と躍りかかってきた。彼の脇にいた数人の魔族達もともに剣を振りかざし、あるいは踏みとどまって詠唱を唱え始めた。
「海の魔王の配下とは言え、姿からして海の・・・という奴は少ないな。」
 ゴセイの剣は、彼らにはあまりにもゆっくり旋回してくるように見えた。勝ち誇って、余裕でそれを避けた後の記憶は、なくなっていた。
「え~と、残って降伏している連中は何人いるかな~。魔王に報告させるのに適当な奴は・・・どいつをマリアに回復させようか?」
 血の海と死体の山の中で、ゴセイは思案顔でつぶやいた。


 
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