第32話 リバイアのしまつ

文字数 2,047文字

 黒人の使用人頭の不在中の領地内の状況、手紙などで頻繁に報告されていたが、の説明に満足そうに頷きながら、
「明日から見てまわる。手配を頼む。ああ、私に訴えごとをしたいという連中も押し寄せているんだったな。同時に聞いてやろう。」
と言ったところで、リバイアと侍女達が彼の前に立った。それは、彼の執務室、書斎、寝室が続く部屋の扉の前だった。
「ん?」
「アルディーン陛下の命で、浴室と寝室その他の改装がされまして・・・。」
 使用人頭の困ったというような調子の声が聞こえてきた、後方から。リバイアは、それを無視し、あるいはそれに続けて、
「私が、ご案内いたしますわ。私の主様の部屋ですし、私が主様にお仕えする場所でもありますから。そちらの女性達は、汗で汚れた服をあちらで着替えて下さいませ。お前たち、ご案内を。」
 彼女の言葉に、彼女の侍女達がリリス達の前に立とうとした。ゴセイが、手で制していなければリバイアもろとも一瞬で八つ裂きしかねない形相で、顔を引きつらせている3人だったが、彼女達は全く怯んでいなかった。"この女達、異様に落ち着いているな。いや、自信があるのか。…む?…こいつら、戦いたくてうずうずしている?"彼女らの力には無知でも、彼女らは完全武装、剣も帯びているのだ。彼が、3人を制したことで、自信を得た、誤った自信なのだが、リバイアはゴセイに歩み寄った。彼女の胸の谷間が目に入り、彼女の匂い、振りかけた香料の匂いが鼻をくすぐった。全て計算づくで、彼女は動いていた。"堕ちたわね。"彼女は確信した。が、
「この部屋で、リリス、メドゥーサ、マリアは、私の前で着替える。この寝室は、私とリリス達が使う。」
 侍女長の方に、ウサギ耳の30台くらいに見える小柄な女だった、顔を向けて、
「センリュウ達を部屋に案内してくれ。それから、」
とさらに続けた。
「リバイア以下に、部屋をあてがってくれ。選択はまかす。センリュウ、すまんが彼女を手伝ってくれ。」
 嬉しそうに微笑む侍女長とリバイア達を横目で見ながら無言で頭を下げるセンリュウに対して、リバイアの侍女達はいらだっているのが分かった。リバイアは、全くと言ってよいほど、動揺を見せることなく、
「ラシード様がどう言われるか?」
とゴセイの顎に手をのばし、弄ぶように撫でた。彼女の目は、彼女の手の柔らかい感触で、ゴセイの動揺を見透かしている、というものだった。
「陛下には、私からお伝えするから心配するな。私の定員は3人までだ。それに、」
と顔の向きを変えた。視線の先は、リリス達3人だった。それに合わせて3人は、それぞれのしなを軽くつくり、肌を少し露出させた。それに満足そうに頷いてから、またリバイアの方を見た。彼女の頭から足の先まで視線を動かしてから、
「残念だな。だめだ。」
というふうに、首を横に振った。さすがにリバイアも動揺し、怒りの炎を瞳に浮かべ、微かにわなわなと体を震わせた。彼女からも、彼女の侍女達からも殺気すら感じた。
「以上だ。そこをどけ。リリス達に殺される前にな。」
 "死ぬのは、そちらよ!"という表情の侍女達をリバイアが制した。彼女は口惜しそうな顔だったが、無言で頭を下げた。そのまま、彼は部屋にはいり、リリス達3人もそれに続いた、3人は当然、リバイアに勝ち誇った表情を見せて通り過ぎていった。しばらく彼女らは、侍女長とセンリュウとにらみ合っていた。
「いい気味じゃ。あのブス女。」
「悔しそうだったね。」
「最高でしたわね、あの顔。」
 部屋に入るなり、3人は満足そうに笑った。"まったく、何だこれは?"模様替えが大変だ。"
と自分とは趣味も違うというより、使い勝手が悪い、豪華な造り、配置、備品に頭を痛めていたゴセイだったが、3人はそれにお構いなく、
「あの侍女達な、ただの侍女ではないぞ。かなりの魔法が使えるし、戦闘力があるぞ。」
「まるで暗殺者の集まりのようだったね。僕ら相手に、自信満々だったようだよ。」
「まあ、大したことはありませんけど、このまま黙っている連中ではないようですわね。」
"ちゃんと見てるな。何時仕掛けてくるかだが・・・。"と思っていると、寝室に真っ先に入ったメドューサが、
「このベッド、いいよ。4人寝ても余裕があるよ。」
とキングサイズのベッドの上に飛び込んだ。
「全く何のために・・・4人か。」
「4人・・・ですわね、確かに。」
不満そうな顔をした二人だったが、ため息をついてから、脱ぎ始めた。それを見てメドューサも脱ぎ始めた。
「?」
 遅れて寝室に入って、疑問顔のゴセイに向かって、
「おぬしがいったのではないか。おぬしに見られながら着替えせよと。」
「そう言いましたわ。汗臭い私達を、早く味わいたいとも、言いましたわよね?」
「おお、そうも言った、確かに。」
"そこまでは、言ってはいないぞ。"と思ったものの、
「僕も確かに聞いたよ。だから、早くここに来いよ。裸になってさ。」
 ため息をつきながらも、彼の衣服を脱がし始めたリリスとマリアをゴセイは止めなかった。

 
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