第2話 あれからの30年

文字数 2,234文字

 ゴセイは、転がる死体から色々なものを剥ぎ取った。
「こいつは、大して持っていないな、だからあんなにがっついていたわけか。こっちはかなり持っているな、刺客の中心はこいつかな。割にいい魔法具だな。こいつは聖剣を・・・、不相応なものを…これで過信したか。このエルフの髪の毛ももらっていくか。」
 “あいつは、相変わらずだな。”
 リリスはそう思いながら、死体を次々に踏みつけていた。残った魔力、生命力の残渣を吸い取っているのだ。死んで、大して時間が経過していなければ、多少なりとも吸い上げることができる。元々たいして多くはない魔法力、生命力だが、死んですぐに大部分がすぐに消滅する上に、吸収率は悪い。本当に少しだけで、労力に見合わないが、
“ないよりましだ。少しでも早く、我は魔力を高めないとな、あやつのためにも。”
 体を貫き、腕や足などを突き入れた方が吸収率は高いが、その分時間がかかる。足で踏みつけて足を踏みながら、多数をまわった方がよい、とリリスは考えた、その結果である。
「そのブレスレットは、なかなか良さそうではないか?」
 最後の女を踏みつけていたリリスが、ゴセイが死体から取り上げていた中のブレスレットを見て言った。幾つもの宝石が、魔法石を囲んでいるものだった。
「欲しいならやるが、入手先を詮索されないように改変させておかないと…、できるか?」
「大丈夫じゃ。高度な技術は必要だが、魔法力は大して必要とはしない、我ならな、他の連中とは違ってな。貸してみよ。」
 ゴセイは手渡した。リリスの手の上で、それは直ぐに姿と色を変えた。面影を残しながら、同じ物とは言えないものになっていた。
「趣味が良くなった。」
「当たり前だ。その聖剣も貸してみよ。」
 その聖剣は、直刀が反りのあるものに変わった。
「お前の好みだろう。」
「そうだな。チュウドカッシンと名付けるか。」
 嬉しそうに、剣を掲げながら言った。
「相変わらず、変な名前をつけるやつだ。どうじゃ、似合うか?周辺の宝石も魔法石の性格を持っておったが、作ったやつも気がつかなかったらしいな、見てくれだけのカットで魔法石にならなかったのだ。見栄えも良くして、魔法石として働くようにしたのだ。」
 ブレスレットをつけて、彼に品定めさせるような腕をかざした。
「似合っている。お前がつけると、ものの価値が何倍も高まる。」
「お前はまたそのような…、本当に正直だな。」
 少し頬を赤らめていた。
「では行くか。道々、あれからのことを話そう。」
 彼が手を差し出すと、彼女は躊躇なくその手を握った。二人は、手を繋いで歩き始めた。
「お前を助けようとした時、まっ先にチャールズが立ち塞がった、聖大剣をかざしてな。あれは、女神の力でいつも以上の耀きを発していた、今までにないくらい。」
 それに対して、彼の持つ剣は、死体から奪った単なる粗末な剣でしかなかった。チャールズの大剣の攻撃を、その剣を、その剣が保つ程度の魔法力で強化し、受け流して受けざるを得なかった。それでも10合目で、その剣は折れた。その一瞬、剣に込めた魔力を放出させた。その光の圧力に、チャールズが怯んだ隙に、衝撃魔法で彼を吹っ飛ばした。
「奴を吹き飛ばしたか、衝撃魔法で。上達したのう。」
「あいつの聖鎧は、いつも倍以上の、いやそれをはるかに上回る力を持っていたからな、大して効果はなかったよ。それに、一太刀受けてしまったよ。」
 それでも、先に進むことができた。その彼の前に達へ塞がったのが、勇者アーサーだった。
「シン!我々は戦友ではないか?私の言葉を聴いてくれないか?」
 そう言いながら、アーサーは斬りつけてきた。何とか光の剣を魔法で作り出して、受け止めた。
「アーサー!そいつに何を言っても無駄だよ!」
「あの魔女にやらせてもらって、頭がいかれたいるんだよ。」
 サッチャーやエリザベス達は、聖弓、聖石弓で次々に矢を放ってきた。それを叩き落としながら、アーサーの剣を受け止めた。が、何本も矢が体を貫き、光の剣はアーサーの聖剣で6合目で雲散霧消してしまった。聖剣に切り裂かれ、血が噴き出した。体が回復するのを隠すために、魔法で光を発した。
「やはり君自身が、類い希な回復魔法の使い手…賢者だったんだね。だが、今の私達の聖剣、聖具を相手では限界があるよ!」
 アーサーの顔は、悲しみに歪んでいた。
「あいつらが単純で助かったよ。チャールズも、その他も加わって、もうやられっぱなしになった。何とか立っているのがやっとの状態になったが、その時、イシュタルの、お前の封印は完成し、私の目の前から消えてしまった。」
 二人は、しばらく無言で見詰め合った。リリスは、目で続きを催促した。ゴセイは、続きを話し始めた。
「封印を行っているいたモーゼ達も加わって、火球、氷弾、雷電玉などが降り注いだ。そして、最後に氷漬けにされた。それを、チャールズが大剣でたたき割った。」
 チャールズが、倒れたシンの首を大剣で切り取ろうとした時、アーサーが止めた。
「どうして止める?」
 それにはモーゼが答えた。
「かつて友と呼んだ者を、殺すに忍びないではないか?」
“それで何で、寄ってたかって攻撃力するんだよ。”シンは心の中で文句を言った。
 チャールズは、不満そうだったが、大剣を収めた。
「で、どうするんだよ?」
「封印しようではないか。」
 再び、モーゼ達は円陣を組んで、封印の魔法を永承し始めた。その詠唱が終わるとともに、彼の姿は、彼らの前から消えた。
 

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