第19話 攻防戦 4

文字数 1,483文字

 巨大な岩は、一部が地面に埋め込まれた形で、砂煙が収まると姿を現した。それは、鎮座して動かないと思われた。
「立派な墓標になったな。恩に着るがいい。」
 騎馬の武将は、高笑いをした。
「あ?」
 周囲からざわめきが起こった。岩が動き始めたのだ。初めは小さな動きだったが、次第に大きくなり、岩は転がりだした、シンカン軍の方に。皆が慌て、逃げ惑った。逃げ遅れた何人かが、その下敷きになり、逃げ惑うために陣形が少なからず乱れ、大きな混乱が生じた。
「痛かった!熱かった!」
 大岩が動いた後にできた穴から這い出てきたのは、ゴセイ・ミョウ・ヨウだった。
「この化け物が!」
 騎馬武者は、馬を駆けさせ、ヨウに矛を打ち込んだ。聖矛、かなりの高位の、重く、相当なものではないと扱えない代物だった、を神棒で受け流した。浮き足だって遅れていた騎馬の武将の部下達が襲いかかってきた。
「転真敬会奥義、小進水!」
 衝撃を受けて周囲の人間が飛ばされ、その圧力で潰された。聖矛の力で、押され、後退しただけで、こらえられた騎馬の武将は、
「この卑怯者が!もう許さん!」
と再び打ち掛かろうとした。
「兄貴。コウメイの野郎が引けとよ。」
 異なるが見事な髭面の大柄な騎馬の武将が、もう一人現れて、遮ろうとするように彼の前に出た。
「いや、こいつを!」
 慌てて馬を止め、不満そうな顔で言った彼に、
「兄貴に何かあったら、ゲントクの兄貴が悲しむぜ。それに、兄貴を連れ帰らないと、コウメイに怒られるのは俺なんだせ。」
 その言葉に、しばらく身を震わせて自らを落ち着かせて、
「お前にたしなめられるようでは駄目だな。分かった、退くぞ。」
「じゃあ、行こうぜ!」
 馬首をめぐらせて、背を見せて去って行く一行を援護しようと、自分に向かってくる将兵達をヨウは切り刻みながら、シンカン軍が退却をし始めたのを感じた。
「ゴセイ!連中が退却し始めたぞ!」
 リリスの声が頭に響いた。
“しばらく追撃する部隊を援護しながら、しっかり周囲を警戒していてくれ。”
 それから、“メドューサ。マリア。上手く兵を引け。ああ、ハンニバルとスキピオを援護してくれ。”念波で指示した。
「後は、ポエニ王国軍に任せて、戦死者の遺体収容と負傷者の手当、それから敵の遺体からの装備などの取得なども認めるが、周囲への警戒を忘れるな。後は任す。」
 スキピオとハンニバルが報告の報告を聞き終えると、ゴセイは二人に指示した。
 彼の後ろには、既にメドューサとマリア、センリュウが立っていた。
「メドューサとテンリュウは、一隊を率いて、ポエニ軍を見守りながら、周囲を警戒してくれ。何かあったら、ポエニ軍を支援して、怪しい者がいたら殺せ。マリアは、必要な連中を連れてけが人を治療してやってくれ。」
 そこまで言ったところで、頭の中に響いてきた、
「我は何をするのだ?治療魔法も十分できるぞ?」
 リリスだった。治癒魔法の優劣は今の段階では、マリアの方が上かもと思える以上に、優劣以外の面でもマリアの方が適任だと、ゴセイは考えていた。が、そのことはおくびにも出さないで、
「城の周囲を警戒していてくれ。連中のことだ、このままでは引き下がらないだろう。まずは、少数の決死隊を幾組か送ってくるだろう。そいつらを、全員殺せ。」
「分かった。が、まずは、と言ったがその後はあるのか?」
「ああ、ある。気になる情報がある。後で話す。」
「仕方ない。分かった。」
 不満そうではあったが、リリスは念和を打ち切った。
「これはと思う者は、まだ死なない程度にして、連れてきますよ。」
 マリアは、彼の耳元で囁いてから、彼の前から消えた。
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