第18話 攻防戦 3

文字数 3,714文字

「あ、あの話は、やっぱり…ほ、本当だったんだな。」
「だから、言ったじゃないの!」
「何時言ったんだよ?」
「ああ、や、やれるぞ!」
「と、とにかく行くぞ!」
 2千の兵の中から、そんな声が漏れていた。彼らの前を大剣を片手で楽々と操り、もう一方で拳を繰り出すメドゥーサ、槍を目にも見えないスピードで繰り出し、踊るように、優雅なほどの動きで駆け回るマリア、大斧を振りまわすセンリュウを先頭にした300名ほどの部隊によって、数千の重装歩兵、石弓隊、神獣達、騎兵、魔道士達が、瞬く間の内に突き崩されてゆく。さらに、その前で超長剣を振るうゴセイ・ミョウ・ヨウがいた。ハンニバル、スキピオ率いる2千の兵は、その進撃に力を得て、それに続いた。彼らの先にいく300名の中からは、
「これが、リリスの姐さんの力かよ。」
「メドゥーサの姐さんやマリアの姐さんが、一番を譲るだけあるぜ。」
「おい、マリアの姐さんとメドューサの姐さんに睨まれているぞ。」
「と、とにかく、これなら、私達、勝てるわよ!」
との声が上がっていた。
 ドアーフの盾を、魔法強化した大盾を並べた一隊や上位の魔法石をもった高位の魔道士、魔法修道士、賢者、聖女、ハイエルフが集団で張った防御結界が一撃で壊され、破壊され、攻城用の大型投石機、大型石弓、亀甲車が一団ごとにまとめて吹き飛ばされ、四散し、後方陣地にまで届く魔法攻撃を、リリスが一人で城壁から行うのを、彼らは見たからだった。
 言葉をあげた者達は、前日の出来事を思い出していた。ラモウ城内て、ヨウが直接率いてきた300名、ハンニバル、スキピオ両傭兵隊長率いる2000名の兵が並ぶ中で、
「ショクの軍は、50万人だぞ。あのショカツが率いて、しかもいっぱいの攻城兵器、聖剣、聖鎧を身に付けた一騎当千の戦士や高位の魔道士クラスがどっさりいるという噂だぞ。大体、報酬だって3倍だったんだ!」
 それに対して、
「ヨウ様は、30人で魔王軍13000を壊滅させたんだぞ!」
300人の中から聞こえてきた。
「ああ、その話しは、確かに以前聞いたことがある。」
との声が、ところどころで上がったが、“尾ひれがついているんじゃないのか?”という顔が大部分だった。さらに、“奴らは、人間・亜人だけだが、精鋭50万人だぜ。”
「今なら我々300で、その魔族の軍は鎧袖一触だ。軍の力は、個々の戦力の合計ではない。だから、君らがいれば二倍、三倍になることは、知っていよう。それにだな、50万という数は、号しているだけのこと。こちらに向かって進軍してくるのは、20万がいいところだ。それに、陽動や後方かく乱のための別働隊は既に半壊させてある。この国の軍隊でも、あとは守れるだろうよ。」
 一度言葉を途切れさせてから、
「報酬は少ない分は、1万の戦死者と同数の捕虜の持ち物を剝ぎ取れば、十分過ぎるだろう。それも同意させているから、大丈夫だ。」
 ヨウが、如何にも当然なことを言う調子だったので、頷いた者の多くが、何を馬鹿な!という顔になった。すかさず、
「最低、合計5万は行くのではありませんか?なあ、ハンニバル?」
 スキピオが合いの手を入れるように割り込んだ。
「最低なら、その程度ですな。」
 2千の傭兵達が唖然とした。決して大風呂敷を広げない二人が言ったのからだ。誰もが、彼等の武勇、指揮、作戦ぶりを知っている、信頼している、信じ切っている。だからこそ、彼の呼びかけに応じ、ここまでついてきたのである。その二人が、当然なことのように言うのだ。
「あいつは、素早いし、見切りが早いからな。」
「確かに、バタバタとやられるのを見れば、彼なら素早く退却を命じますな。」
「確かに、躊躇なくな。見極めが、早いし、それはたいてい正確だ。」
 3人の会話に何となくのせられたような感覚だったが、やはり何となく半ば納得してしまったが、半ばひどく疑問を感じていた。
 この情景を見て、誰もがその疑いを忘れ去った。
 突き進む5千弱の軍を包囲するように左右の部隊が迫ってきた。ゴセイは、メドゥーサとマリアに兵を与えて左右の部隊を援護するよう命じた。
「分かっているよ!」
「まかせて下さい!」
と二人は左右に散った。リリスの攻撃が、その左右の軍に降り注ぐ。
「この婆!お前の相手は私だ!」
「あ、私の相手をとらないでよ!」
 ドラゴンに乗った魔道士達が先陣争いをしているのを、リリスは敢えて無視していた。
「熱き太陽のごとき力を我が敵に向けて…。」
「神の怒りの咆哮のごとき雷の制裁を…。」
「風の精霊よ、我が敵を切り刻む大いなる風の剣を…。」
 彼らを護る防御結界を他の魔道士が張っていることで、彼らはおのれの最大攻撃魔法の詠唱をし終えた。必殺と謂える攻撃が放たれた。勝利を確信していた彼らだったが、
「馬鹿な!」
「押し返されてる?」
 慌てて、彼らも防御結界に加勢した。それは間一髪間に合ったが、それを嘲笑うように、簡単に砕け散り、彼らはドラゴンごと黒炭となり、吹き飛ばされ、第三陣のど真ん中に落ちた。
「どうした?さっきまでの威勢は?」
「どうしました?早く私を瞬殺なさい。」
 メドゥーサとマリアは、そんな言葉を叫びながら、縦横無尽に暴れ回っていた。
「私と一騎討ち願おうか?」
 棒をもった逞しく、かつ凛々しい男が、ヨウの前に立ち塞がった。
 ゴセイは、傍らのセンリュウに先に行くように促した。彼女は、頷いて命じられた通りに、兵を従えて先に進んだ。
「我は、神聖棒術を極めたリン。我が手にするのは樹齢数万年の神木から作りしもの。まいる。」
「噂に高い棒術の天才、リン殿か。その方に戦場で出会えるとは、何たる幸運。では、一手指南を受けさせていただこうか。」
 彼は、皮肉と思ったのか、ムッとしたが、ヨウはそのつもりはなかったが、何も言わず踊りかかってきた。
 彼の棒の動きは変幻自在で、対応するので精一杯だった。ただ、一騎打ちのはずが、彼に次々に加わる加勢、魔法での援護を受け止めながらであったが。“武芸だけの闘いでは、なかなか倒せないな。天性の才能の差か?60年以上精進しても、素早く吸収出来ても、まだ学ぶべきものがあるというわけか。真の努力と一応の努力の差か。”ゴセイの長剣の一旋が、一突きがリンの鎧をかすめていたが、彼は自嘲気味に心の中で問いかけていた。リンの方は、擦っていることでプライドを傷つけられるのを感じていた。憤怒と魔力を神棒に集めて打ちかかっていった。受け流しても触れた瞬間に、神棒から衝撃を受けた。避けても、衝撃を感じるようになった。こちらも魔法で返すかと思った時、後方の魔力が急激に増大するのを感じた。大抵の場合、束縛魔法は外すことが出来るが、この場合、完全に動けなくなった。長い時間ではなかった。ほんの一瞬に近い、短い時間だった。しかし、それは達人には十分過ぎるものである。リンの神棒が、ヨウの頭を直撃した。スイカが割れるように、砕かれた。リンは、満足そうにニヤリと笑った。
「神木の力で、再生は不可能だ。これで終わりだ。」 
 魔道士の女が、魔力を全て放出して砕け散った魔法石を捨てて、彼に向かって微笑でいるのが見えた。彼女は、それから、足早にヨウにより斬られ、傷口を押さえて動けなくなっている十人以上の男女の兵士の回復のために駆けよった。その彼等も、痛みに耐えながら、リンを称賛するように手を上げ、声をかけていた。
「借り物の力を、自分の力とおもっていたものの末路だ。」
 そう言って、神棒を上げると、ヨウの頭を失った体は倒れ、ドスンと音をたてた。その死体に背を向けた時、背中に痛みを感じた。
「残念だよ。もっと、君の棒術の教えを受けたかったんだが。」
 後ろを、首をひねって見ていると、頭が砕け散って大地に倒れたはずのヨウが、何事もなかったように、そこにいた。自分の剣がないことに気がついた。後ろから密かに奪われて、それで後ろから、鎧の隙間から刺し貫かれていたのだ。
「ひ、卑怯者…。」
 苦しい息で、何とかそれだけが口にでた。
 ゴセイは、足でリンを蹴った。彼の体が、剣から抜け、血が吹き出した。
「ひ、卑怯者!」
 女魔道士が、叫んだ。
 聖具のはまった杖を差し上げ、己の最大の魔法攻撃を放とうとした。
「う…何?動かない?い、痛い?」
 うずくまりながら、何とか抵抗しようともがいた。その目の前に立ち、ゴセイは、
「せっかくの奥義の伝授の最中に、邪魔をした報いだよ。転真敬会奥義小退金で死ね。」
「こんな…、私の愛の力で…ぎゃあー!」
 彼女の体が一点に向かって縮むように砕け散った。
「まだまだ、未熟だな。」
 飛び散った血を浴びながら、周囲を見回しながら呟いた。その時、大きな矛をかざした大柄な、見事な髭面の騎馬の武将が視界に入った。
「卑怯者め!これで終わりだ!」
“どこが卑怯者なんだか?”と思いながら、奪った神棒を構えた。
“ん?”上に何かを感じた。周囲が暗くなった。上空を見ると、燃えた巨大な岩があった。気がついた時には、高速で落ちてきた。とっさに動いたが、その軌道は彼の動きを追っていた。轟音と砂煙の中、ヨウはその下敷きになったと、周囲の将兵は確信した。







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