第13話 お家再興の願い

文字数 1,887文字

「ゴセイ・ミョウ・ヨウ様ではありませんか?」
 とりあえずの目的の町について、その宿の食堂で食事を取っていたゴセイ達に声をかけてきたのは、いかにも身分の高い女性の旅衣裳を着た、若い、金髪に似た明るい赤髪、やや小柄だが、魅力的な容姿の、彼女の旅衣装はそれを隠してはいなかった、美しい若い女性が声をかけてきた。
「そうですが。高貴なお方。」
 首をかしげながらも、高い身分と思われる女性に立ち上がって、軽く頭を下げた。
「失礼いたしました。私は、ブルゴー公国元大公プラムです。」
 彼女も軽く頭を下げた。
「今は、単なる流浪の者。国の再興を目指し、各地をまわっております。」
 彼女は、国が他国に唆された勢力と他国の軍により滅び、流浪の民となった数千人の臣民と共に、国の再興をしようとしていることを説明し、それを彼に協力をしてもらいたいと話した。ぜひ、借りている屋敷に来て、詳しい話をしたいと言ってきた。今夜にでも、と言った。
 ヨウは、少し考えてから受け容れた。彼女は、感謝の言葉を告げて立ち上がったが、その際、彼の耳元で、
「ぜひ、お一人で。私と楽しい時間も。」
 人間の騎士とエルフの女を従えて立ち去った。
「ユダ、ヨハネ。彼女の情報は?」
 離れたテーブルにいたユダと、ヨハネ、元聖騎士の三十代の黒い髪を短く刈り込んだ、中背だが逞しい男だった、は既に彼の後ろに立っていた。というより、ヨハネがユダを引き摺って来たのだ。
「少なくとも、女公プラムという方が、公国の再興のため、援助を求めて各地をまわっていること、数千の流浪の民が彼女を慕っていることは事実です。彼女は、私が得た情報による限りでは、本物かと思われますが。」
 さらに、彼女にはエルフの血が流れていること、公国が代々、彼女の治世も含め、人間、各亜人諸族の共生に努めてきたこと、彼女の母親がエルフとのハーフで、正妻だったことも付け加えた。
 さらに続けようとしたヨハネを遮って、
「ここには、三日前から滞在してますがね、ここにいても何もないのに。まるで、ダンナが来ると知ってのように、すね。別に、口の軽いヨハネが吹聴していたわけではないのにですよ。」
 小馬鹿にするような言い方だった。口が軽いと言われたヨハネが文句を言おうとしたが、ゴセイが制して、彼は彼女の話を求めた。
「針と糸の兄弟団の本拠が壊滅したんすけど…。」
とリリス達3人を見た。
「ほう、我がやったと?そんなことができると思うか?」
 リリスは、あの時の快感を思い出しながら尋ねた。
「い、いえ。聖女な、リリス様がそんなことするはずないとお、思ってますよ。」
 リリスが浮かべた残忍な笑いを前に、背筋が冷たくなるのを通り越した恐怖を感じたユダだった。
「神罰を受けたのよ。」
「あれ?数千の兵がということじゃなかったかな~?」
 マリアとメドューサが悪戯っぽい目で言った。
「あたいは、かなりの悪党かと思ってたけどさ、小悪党に過ぎないと分かったよ。ちびっちまったよ。」
 後でヨハネに、下半身を気にしながら、ユダは言った。
「どうするんだい、ゴセイ?一人で行くのかい?」
 メドューサが、尋ねた。リリスとマリアは、一人で、ということだけに関心を向けていた。
「あいつの意思は、どうだ?」
 リリスは、疑い深そうな顔で、
「殺意を感じるな。欲情もな。」
「色仕掛けで、殺すつもりというわけですね。」
 マリアが補足した。
「後ろで、糸を引く奴を知りたい。お前達と一緒に行く。そうすれば、直ぐに襲ってくるだろうよ。」
 ゴセイは、未練もなさそうに言った。
「手間が省けて良いな。」
「言っておくが、皆殺しにするな。彼女も含めて、できるだけ死なない程度に倒せ。」
「まさか、あの女に?」
「生かすのは、彼女一人でいいのでは?」
「あの女を世話する奴がいないといけないだろう。利用するならなおさらだろう?彼女の民も含めてな。」
「そんなこと言って…でも、助けるのはどういう奴らだい?」
「彼女に忠義の心のあるやつらさ。」
「それなら…。」
「裏切り者がかなりいると見たか?用が済んだら殺すためにか…。糸を引いている奴が、か?」
 リリスが、お前の考えは、わかっているという顔で言った。
「いなかったら皆殺しでいいかな?」
「お馬鹿ね。2人くらいは残さないと。今の2人を?あとは?」
 マリアが窺うように尋ねた。
「あとは、なぶり殺していいね?」
 言ったのは、メドューサだったが、リリスもマリアも同感!という顔だった。
「ああ、いいさ。だが、確かめてからだぞ。私がいいと言ったらだぞ。」
 苦笑しながら、窘めた。“こういう時の顔は、3人とも、すこぶる可愛いな。”
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