第9話 尻の青い婆

文字数 1,818文字

 リリス達が連れ込まれた店の中は、女ものの服飾品が並び置かれていた。
「お嬢様達にお似合いのものが、絶対ありますよ。」
 はじめはドワーフかと思ったが、別の小人属らしい小男がニヤニヤして、4人に言った。
「外では始まったようですね。リリス様?」
 マリアが囁いた。
「ええと、マリアだったな。奴は魔法の連続発動が上手くなっているし、数も、威力も増したな。剣の動きと違和感もなくなっている。うん?」
 弟子の成長ぶりを喜ぶような、自分の恋人だからという顔で誇るようなリリスを、マリアはしばらく見ていたが、彼女も、やはり残忍な笑みを浮かべて、
「こちらも、ですわ。気が早いこと。」 
 二人の周囲を、七人の男女が取り囲んだ。少し離れたところにいたメドューサとセンリュウの周囲にはそれぞれ3人男女が取り囲んでいた。
「そこの小娘ども。大人しくしていれば、怪我しなくてすむよ。少しばかり痛い思いをさせるけで、可愛い顔を傷つけたくはないからねえ、寛大な私は。」
 奥から、長いキセルから煙を出しながら、いわゆるダークエルフ風の女が声をかけてきた。人間風に見れば、三十代半ばに見える、少し崩れてはいるが、その分妖艶な感じの美人だった。
「なんじゃ。尻の青い婆が。」
 リリスの言葉に、マリアとメドューサが笑った。女、女主人ははっきりと怒り狂ったのが分かった。
「あんた達。この女達を取り押さえてしまいな。少々手荒なことをしてもかまわないよ、顔さえ傷つけなければいいからね!」
 ドサッと、男が一人、床に叩きつけられた。直ぐ後に、女が一人、床に倒れた。リリスが機先を制して、投げ飛ばし、肘打ちを炸裂させたのだ。
「へえ、リリス様は、近接戦もやるんだ。」
 リリスの動きに感心しながら、メドューサは、取り押さえようと迫ってきた連中を無造作に、殴り、蹴った。彼らは、血を吹き出して倒れた。
「全く汚いですわね、いつも、あなたは。」
 マリアは、手刀で、血が出ないように頭蓋骨を砕いた。センリュウは、既に周囲を血の海にしていた。リリスは、身体強化して、残りを軽くぶち倒して、瞬時に黒炭にして止めを刺した。
「少々、怪我してもいいわよ!」
 女主人と脇にいた魔道士3人が、素早く詠唱を唱え、彼女らの最強の攻撃魔法を発動した。が、それは不発、失敗したように、小さな音を出しただけだった。慌てて張った防護結界の隙間を縫ったように、小さな光の小刀が彼女らの額に突き刺さった。
「さすがの技術ですわね、リリス。」
 マリアが感心するように、リリスを見た。魔法の発動を、僅かばかりねじ曲げて、事前に防御結界が発動すると同時に発動する魔法を設定、それは防御結界発動とともに、その内部に取り込まれて、その内部で発動したのだ。最小限の魔力で、高度に操作されている。“さすがに破壊と殺戮の魔女ね。”
「奥に、変な自信を持った奴がいるがどうする?」
「わたしに任せて下さい。」
 リリスがメドューサ達に視線を向けると、
「まあ、あいつならしかたがないか。」
「私は別に。」
 メドューサとセンリュウは了解した。リリスは、なんとなくわかったという顔で頷いた。マリアは、満足気な顔になり、
「出てきなさい。虫けら。」
 その言葉に応じるかのように、男が奥から出てきた。神族の戦士だった。
「不可知の結界を張っていたのに、気がつくとは流石に、自称神族殺しのマリアだ。」
 神剣を抜いた。
「あれで不可知?」
 リリスが鼻で笑った。
「この程度でも、こいつらには大したもんなんだって。」
「もう哀れですね。」
「こいつらの言う通りだ。」
 メデューサとセンリュウも笑っていた。リリスは、見下すという顔だった。
「墜ちた神族のマリア。今日こそが、貴様の最後だ。」
 彼は、マリアを見据えて、剣を構えた。
「虫けらは早くいなくなりなさい。汚らわしい。」 
 彼が気がつくと、マリアは彼の目の前にいた。動く前に、彼女の手刀が脳天を割って、胸まで切り裂いていた。自分の死を認識出来る前に、彼は絶命した。
「虫けらが。自分の分をわきまえなさい。」
 吐き捨てるようにマリアが言った。その店の中の連中は、それで一掃された。
「メデューサ。店のものには、手をつけないようにしなさい。」
 マリアが注意すると、メデューサは、
「分かっているよ。でも、こいつらの身に着けているものは、取るんだろ?あれ?リリスは何してるのさ?」
「こいつらの、記憶を見ておる。それも必要だろうが、ゴセイにはな、多分?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み