第40話  吾輩と夏の災厄 26

文字数 793文字

 びくりと体が動いて、吾輩ははっと目を覚ました。
 薄闇に眼を凝らす。
 心臓はまだばくばくと言っていた。
「夢だったんにゃ……」
 吾輩はふうっと人間みたいにため息を付いた。そして「夢で良かったにゃあ。……しかし、やたらとリアルな夢だったにゃ……」と呟いた。

 吾輩の前方に見える穴からは相変わらず雨の音がする。
 吾輩は歩いて行って外を眺めた。
 雨は小降りになっていた。
 吾輩は空を見上げ、そしてまた穴の中に戻った。有難いことに穴は地面から1m程高い場所にあるので水は侵入して来なかった。
 もうすぐ夜が来る。猫は夜行性だが、吾輩は明日の朝まで待つことにした。道は雨でぬかるんでいるだろうし、クマやイノシシなんかには出会いたくなかったからだ。それで丸くなって眠っていたのだが、いやいや、とんでもない夢を見たものだ。
 吾輩は元の場所に戻って丸くなった。うとうとと眠り、また目覚め、そしてまた眠る。それを繰り返した。不思議な事に腹が空く事も喉が渇くことも無かった。そしてホタルライトは消える事なくほんのりと灯っていたのであった。(鬼猫のお陰だにゃ)
 自爆猫の夢はもう見なかった。

 夜半にはすっかり雨も上がり、夜空はきらきらと輝く星で満たされていた。恐ろしい程の星の数である。吾輩はこんな豪華な星空を見たのは初めてだった。
 薄絹の雲が流れた。宇宙は雲の切れ間から地球に零れんばかりの光を注いでいる。地球の大気圏を通り抜けて吾輩に届く星の光はきらきらと瞬く。星々は遠い過去からのメッセージを光のモールス信号にして永遠に地球に送り続けているみたいだと思った。
「ツー・トントン・トントン・ツー」。

 遅い月が登って来た。
 月は黄色の輪郭を際立たせ、濃紺の空にぽっかりと浮かんだ。吾輩は昔からの親しい友人に出会った様に感じた。
「お月様。また会えて本当に良かったですにゃあ」
 吾輩はそう言ってしみじみと月を眺めた。

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