第5話  吾輩と水彩画 2

文字数 566文字

和樹は吾輩を風呂場に連れて行って、お湯を掛けて丸洗いした。
吾輩は水は大嫌いなのである。
ぎゃあぎゃあ鳴いて暴れた。
爪を出して和樹を引っ搔いた。手にがぶりと噛み付いた。
()て。止めろ。トラ。止めるんだ。分かった。分かった」
和樹は吾輩をタオルで包むとくりくりとタオルで拭いた。

小るりは絵を見てめそめそと泣いている。
奥様に叱られたらしい。
奥様はぶつぶつ言いながら床の上やテーブルの上の足跡を拭いている。
床に零れた水も。

小るりの絵には点々と吾輩の足跡が付いていた。
空の真ん中には真っ黄色のこれまた強烈な何かが描かれていて、和樹はそれを見て言った。
「すげえ。抽象画か?シュールだな」

こるりは泣きべそをかきながら和樹を睨んだ。
「馬鹿トラのせいだよ。どうしてくれるんだよ。先生に怒られちゃう」
「お前がトラを塗ったからだろう?」
和樹は言った。
「トラが先に邪魔して来たんだ」
小るりは口を尖らせた。
吾輩はタオルの中から小るりを見ていた。

「後で兄ちゃんが直してやるよ。それでいいだろう?もうトラを追い掛けるなよ。・・・俺の服を見てみろよ・・」
そう言った和樹を見て奥様も小るりもぷっと噴き出した。

吾輩はタオルに包まって和樹の部屋に行った。
そこで和樹はドライヤーなるもので吾輩を乾かした。
吾輩は部屋中を逃げ回った。

あの後、絵がどんな風に直されたのかは知らない。


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