第18話  吾輩と夏の災難 4

文字数 1,193文字

 吾輩は玄関にお目見えした、その物体を眺める。吾輩が座ってじっとそれを見上げているとみけ子がやって来て、吾輩の隣でそれを見上げた。

 それは目を半眼にして慈悲深い表情で吾輩と母を見下ろしていた。
 口元がちょっと笑っている感じ。片手を顔の横に置いてこちらに肉球を見せている。何かを手招いている。首には赤いリボンと鈴。胸には大きな金色に輝く小判が付いている。
 招き猫である。
 旦那様の紙袋にはこれが入っていたのだ。
 吾輩だって招き猫ぐらいは知っている。だが、こんな招き猫を見たのは初めてだった。
 何故ならこの招き猫は三毛猫だったから。
 白地に大きな茶色と黒の模様が描かれていた。
 吾輩はみけ子に尋ねた。
「母さん。三毛猫の招き猫っていうのは、見たことはありますか?」
 みけ子は即座に答えた。
「にゃお(ノォ)」
「母さん。こんな観音様みたいな招き猫を見た事がありますか?」
「にゃお(ノォ)」
 吾輩は母をじっと見た。最近、母は奥様と一緒にハリウッドの映画を観ているのだ。じゃあ、イエスは何と言うかと言うと「nya」。
……読者の皆様。作者の英語力はこの程度でごにゃります。いや、英語ですら無い。単なるローマ字。

……話を戻そう。
 そしてその隣には小さな茶トラの招き猫がいた。それも赤いリボンをしていた。同じく胸に黄金の小判を抱き、片手を上げて「おいで。おいで」をしている。茶トラの方はくりくりとした目を見開き、なーんも考えていなそうな顔で前を見ている。吾輩はその幸せそうな顔を眺めた。

 和樹が階段を下りて来た。招き猫を見て、招き猫を見上げている二匹の猫を眺める。そしてクックと笑って居間に行った。
「興味深々で招き猫を見ている」
 和樹は冷蔵庫を開けながらそう言った。
 キッチンの椅子に座った旦那様と奥様はアイスコーヒーを飲みながら言った。
「ムラサメ神社のお隣の公園。そこで骨董市がやっていてね。そこで買ったのよ。『菩薩猫』と言うらしいわよ。慈悲深いお顔で、厄を祓い,福を招くのだって。三毛猫って言うのが変わっているわよね。思わず気に入っちゃって買ったのよ」
「そうそう、厄除けの猫らしいよ。売っていた古物商が言っていた。これを置いて置くと悪いモノが家に入って来ないって。それで福を招くんだって。で、隣の茶トラはおまけに付けてくれたんだ」
 旦那様が言った。
 和樹がこちらに向かって笑って言った。
「おい。トラ。お前はおまけだってよ」
 いちいち念を押さなくても話し声がここまで聞こえてくるのだから、そんなのは分かっている。吾輩は和樹を無視した。
 と、その時、菩薩猫の半眼がちらりと動いた気がした。吾輩は目を擦ってそのお顔を見詰めた。そして母に言った。
「母さん。今、この三毛、目が動きませんでしたか?」
 母は一言「おー・にゃい・ゴッド」と言った。その後少し考えて「にゃんセンス」と答えた。
 吾輩はまた母をじっと見た。
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