第39話 吾輩と夏の災難 25
文字数 1,788文字
吾輩は小さな岩の裂け目から顔を出した。
雨が止んだらしい。
外は夏の宵である。
森の奥に社が見えた。
吾輩は穴から飛び降りて社の前まで歩いてみた。
ああ、この社は知っている。これはムラサメ神社だ。吾輩は吾輩の住んでいる町の土地神様であるムラサメ神社の本殿の後ろにある岩山から出て来たのであった。
吾輩は神社で一礼をした。
「無事に帰って来ることが出来ました。神様と鬼猫のお陰で御座います。本当に有難うごにゃいました」
そう言って神社の前の通りに向かった。
浴衣を着た人々や家族連れが一方方向にぞろぞろと歩いている。沢山の人々だ。
「ああ。そうだ。夏の終わりの花火大会があるって奥様が言っていたにゃあ」
吾輩は思い出した。
今日がその花火大会なのだろう。と言う事は吾輩は5日程町を留守にしていた事ににゃる。
人々の流れは川の方に向かっていた。
吾輩は人の流れとは逆に歩き出した。人に踏みつぶされない様に道の端を歩く。
浴衣を着たカップルの女の子が吾輩を見付けた。
「あっ、可愛い。ちびトラだ。何でこんな所を歩いているのかしら?」
彼らは足を止めて吾輩を見る。吾輩もカップルを見上げる。
「何か荷物を背負っているよ。乾電池とコードと……ねえ。あれ何? あの四角い箱は」
それはホタルライトの充電池でごじゃる。
吾輩は心の中でそう言いながら歩き出した。
「爆弾だ!!」
連れの男が叫んだ。
吾輩はびくりとする。思わずその男を見詰める。男の顔は恐怖で引き攣っていた。
周りの人々が一瞬足を止める。
「た、大変だ! あのネコ。あの背中に爆弾と起爆装置を背負っている。自爆猫だ!!」
にゃにぃー!!
にゃんだってー!!
誤解も甚だしい。
「超小型のプラスチック爆弾だ!! テロだ! 逃げろ!!」
「爆弾だって?」
「自爆猫?!」
「誰かが猫にセットしたんだ!」
「逃げろ!」
「まさか、そんな馬鹿な! こんな所で!」
「誰か、あのネコを捕まえろ!!」
「止せ!ショックを与えて爆発するかも知れない!」
吾輩は走り出した。目の前の人々が吾輩を見て逃げる。と思えば逆に吾輩を捕まえようと追い掛ける人もいた。吾輩は慌てて方向転換をして人の波を追い越した。
「自爆猫だ! みんな逃げろ!!」
みんながキャーキャー言いながら逃げる。吾輩の姿を沢山のカメラが写真に収める。カメラのシャッター音が雨あられの様に降って来る。誰かが警察に電話をしている。「ね、猫が背中に起爆装置と爆弾みたいな箱を背負って……」
泣き出す子供や慌てて逃げる人達で辺りはパニック状態だ。
これはとんでもないことになった。
吾輩はもう一度ムラサメ神社に逃げ込んだ。本殿の縁の下に隠れた。柱の陰に隠れてじっと外を伺う。心臓がバクバクと言っている。
サイレンの音が近付いて来る。何台もやって来るみたいだ。消防車のカンカンカンと言う音もする。アナウンスの声が聞こえる。
「危険だから下がってください」
「危ないです。危険です。下がってください」
「神社に入らないでください」
警官がだだだっとやって来た。足音が近付いて来る。
彼等は懐中電灯で辺りを照らして吾輩を探している。
ばらばらばらと空から音がする。柱の隙間から見上げるとヘリコプターが飛んでいた。
吾輩は慌てた。明かりが灯っていては人間に見付かってしまう。
「だ、誰かスイッチ切って!」
吾輩は自分の背中のスイッチを切ろうとぐるぐる回る。
数人が近くにやって来た。吾輩はびくりとする。
「木の上にはいないか?」
「よく探せ!!」
「見付けたら射殺しろ!」
「しゃ? 射殺?!」
吾輩はびっくりした。
「しかし、爆弾に当たってしまったら」
「狙撃手はまだなのか!」
「まだ爆弾と決まった訳ではない。誰かが面白半分に猫に取り付けたのかも知れない」
「何て人騒がせな奴だ!!兎に角神社から猫を出すな! だれだ! TV局を入れたのは!!」
人々はパニックに襲われていた。言っちゃ何だが、吾輩だってパニックだ。心臓の音が頭まで響いてそれが口から飛び出そうだった。
何? コレ? 信じられにゃい!!
ここで吾輩はジ・エンドにゃのか?
ダメだ! ここにいては! 逃げろ!逃げるんにゃ!!
吾輩の本能が叫ぶ。
ライトが吾輩の体を照らした。
「あっ!いたぞ! 本殿の床下だ。催涙ガスだ! 早くしろ!」
吾輩はだっと走り出した。途端に体ががくんと動いた。
雨が止んだらしい。
外は夏の宵である。
森の奥に社が見えた。
吾輩は穴から飛び降りて社の前まで歩いてみた。
ああ、この社は知っている。これはムラサメ神社だ。吾輩は吾輩の住んでいる町の土地神様であるムラサメ神社の本殿の後ろにある岩山から出て来たのであった。
吾輩は神社で一礼をした。
「無事に帰って来ることが出来ました。神様と鬼猫のお陰で御座います。本当に有難うごにゃいました」
そう言って神社の前の通りに向かった。
浴衣を着た人々や家族連れが一方方向にぞろぞろと歩いている。沢山の人々だ。
「ああ。そうだ。夏の終わりの花火大会があるって奥様が言っていたにゃあ」
吾輩は思い出した。
今日がその花火大会なのだろう。と言う事は吾輩は5日程町を留守にしていた事ににゃる。
人々の流れは川の方に向かっていた。
吾輩は人の流れとは逆に歩き出した。人に踏みつぶされない様に道の端を歩く。
浴衣を着たカップルの女の子が吾輩を見付けた。
「あっ、可愛い。ちびトラだ。何でこんな所を歩いているのかしら?」
彼らは足を止めて吾輩を見る。吾輩もカップルを見上げる。
「何か荷物を背負っているよ。乾電池とコードと……ねえ。あれ何? あの四角い箱は」
それはホタルライトの充電池でごじゃる。
吾輩は心の中でそう言いながら歩き出した。
「爆弾だ!!」
連れの男が叫んだ。
吾輩はびくりとする。思わずその男を見詰める。男の顔は恐怖で引き攣っていた。
周りの人々が一瞬足を止める。
「た、大変だ! あのネコ。あの背中に爆弾と起爆装置を背負っている。自爆猫だ!!」
にゃにぃー!!
にゃんだってー!!
誤解も甚だしい。
「超小型のプラスチック爆弾だ!! テロだ! 逃げろ!!」
「爆弾だって?」
「自爆猫?!」
「誰かが猫にセットしたんだ!」
「逃げろ!」
「まさか、そんな馬鹿な! こんな所で!」
「誰か、あのネコを捕まえろ!!」
「止せ!ショックを与えて爆発するかも知れない!」
吾輩は走り出した。目の前の人々が吾輩を見て逃げる。と思えば逆に吾輩を捕まえようと追い掛ける人もいた。吾輩は慌てて方向転換をして人の波を追い越した。
「自爆猫だ! みんな逃げろ!!」
みんながキャーキャー言いながら逃げる。吾輩の姿を沢山のカメラが写真に収める。カメラのシャッター音が雨あられの様に降って来る。誰かが警察に電話をしている。「ね、猫が背中に起爆装置と爆弾みたいな箱を背負って……」
泣き出す子供や慌てて逃げる人達で辺りはパニック状態だ。
これはとんでもないことになった。
吾輩はもう一度ムラサメ神社に逃げ込んだ。本殿の縁の下に隠れた。柱の陰に隠れてじっと外を伺う。心臓がバクバクと言っている。
サイレンの音が近付いて来る。何台もやって来るみたいだ。消防車のカンカンカンと言う音もする。アナウンスの声が聞こえる。
「危険だから下がってください」
「危ないです。危険です。下がってください」
「神社に入らないでください」
警官がだだだっとやって来た。足音が近付いて来る。
彼等は懐中電灯で辺りを照らして吾輩を探している。
ばらばらばらと空から音がする。柱の隙間から見上げるとヘリコプターが飛んでいた。
吾輩は慌てた。明かりが灯っていては人間に見付かってしまう。
「だ、誰かスイッチ切って!」
吾輩は自分の背中のスイッチを切ろうとぐるぐる回る。
数人が近くにやって来た。吾輩はびくりとする。
「木の上にはいないか?」
「よく探せ!!」
「見付けたら射殺しろ!」
「しゃ? 射殺?!」
吾輩はびっくりした。
「しかし、爆弾に当たってしまったら」
「狙撃手はまだなのか!」
「まだ爆弾と決まった訳ではない。誰かが面白半分に猫に取り付けたのかも知れない」
「何て人騒がせな奴だ!!兎に角神社から猫を出すな! だれだ! TV局を入れたのは!!」
人々はパニックに襲われていた。言っちゃ何だが、吾輩だってパニックだ。心臓の音が頭まで響いてそれが口から飛び出そうだった。
何? コレ? 信じられにゃい!!
ここで吾輩はジ・エンドにゃのか?
ダメだ! ここにいては! 逃げろ!逃げるんにゃ!!
吾輩の本能が叫ぶ。
ライトが吾輩の体を照らした。
「あっ!いたぞ! 本殿の床下だ。催涙ガスだ! 早くしろ!」
吾輩はだっと走り出した。途端に体ががくんと動いた。