第19話  吾輩と夏の災難 5

文字数 776文字

 「ところで満腹寺の。どこで俺が三毛野郎とやりあったって聞いたんだ?」
クロサキの声が遠くから聞こえる。腹がくちくなったカン吉親分は瞼が重くなる。
「どこって……、そりゃあ、俺はゲン太に聞いたんだ」
クロサキはゲン太を見る。名残り惜しそうに口の周りをぺろぺろと舐めていたゲン太は
「いや、違いまっせ。親分。俺ぁ、親分に聞いたんですぜ」と言った。
「馬鹿言うなよ。……俺は……? ん? ゲン太じゃねえってか? じゃあ、誰だ?
いや、俺は確かにおめえに……ああ。眠いなあ」
大きな欠伸をひとつするとカン吉は話の途中で寝落ちしてしまった。

カン吉はふと目覚めた。
長い夢を見ていた様に思える。誰かと話をしていたみたいだったが……。カン吉は辺りを見渡した。太陽が作り出す樹木の影を眺め「こりゃあ、半刻ばかし寝入ってしまったか」と思った。と、後ろから声がした。
「カン吉親分。ようやく起きたんですかい」
ゲン太の声だった。
「ああ。済まねえ。ん? クロサキの姿が見えねえな……」
カン吉はきょろきょろと辺りを見渡す。
「いや、ついさっきまで、カン吉親分のすぐ横で丸くなって親分が起きるのを待っていたんですがね。もう行かなくちゃならないと言って、出て行きましたぜ。親分に言伝(ことづて)だったら、あっしが承りますぜと言った所、いや、もう話は済んだって言って……。親分、一体いつ話をなさったんですか?」
「……。にゃ? どゆこと?」
カン吉は暫し考えた。

そして突然ばっと立ち上がった。
「そうだ! そうだった! こうしちゃおれねえ! 行くぜ! ゲン太!」
カン吉はそう叫ぶとたったと走り出した。ゲン太は慌てて付いて行く。
「お、親分。どこへ行くんですかい?」
ゲン太が叫んだ。
「みけ子の家だ。俺の女の家だ。畜生め!! 三毛野郎。みけ子の家にまんまと入り込んだらしい。俺の可愛い息子をあいつら!! 畜生め!許せねえ!!」

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