第32話 吾輩と夏の災難 18
文字数 1,076文字
その晩、和樹は久々にいい気分で家に帰って来た。
ここ暫く、いなくなったトラを心配して気分が滅入っていたが、友達にカラオケに誘われ気分転換に出掛けてみたら、以前から気になっていたクラスメイトの女子が友達と一緒に参加していたのだ。
すげえラッキーだと思った。和樹はすっかりトラを忘れてエンジョイした。
「和樹君。歌がうまいね」などと言われ、天にも昇る気分である。ラインも登録し合い、またまたすげえ幸せだと思った。
帰りに駅の本屋を覗いたらお気に入りのコミックの新刊が出ていた。こりゃまたラッキーと思った。それを買って序にコンビニでアイスとポテチを買って帰って来たのである。
今日は父親は飲み会で遅くなるし、母親とるり子はママ友母子と一緒に食事会である。まだ、誰も帰って来ていないみたいだ。
和樹はふんふんと鼻歌を歌いながら玄関の鍵を開けた。
「あの招き猫のお陰かなあ」などと呟く。
ふと何かの気配を感じた。後ろを振り返る。何もいない。和樹はドアを開けた。その瞬間、
何者かがだだっと庭の暗がりから飛び出して来た。それがばっとジャンプして和樹の背中を蹴った。
「うわあぁ!」
和樹は転びそうになって慌てて床に手を付く。コンビニの袋が落ちてアイスが飛び出た。その和樹を踏み台にして次から次に動物が家の中に走り込む。
「な、何だ!?」
でかい猫が5匹玄関の中をぐるぐると走り回っている。いつの間にかみけ子もそこに加わって猫は6匹になった。和樹は倒れたまま茫然とそれを見る。狭い玄関をぐるぐる回っていたそれらは次から次に靴箱に飛び乗り、招き猫に体当たりを喰らわせる。招き猫は動かない。一際でかい茶トラがジャンプして飛び掛る。招き猫はずずっと動く。
「お、おい。何をやっているんだ。お前ら、一体どこから来たんだ。おい、お……止め。止めろ!! 壊れる」
和樹は慌てて起き上がって招き猫を押さえようと手を伸ばした。と、その顔にみけ子が飛び掛った。
「に"ゃー!!」
「うわあああ!」
和樹は顔に張り付いた猫を剥がそうとする。猫は爪を立てて離れない。
「痛い!痛い!おい。止めてくれ。みけ子。止めろー!!」
「がっしゃん!!」
陶器が壊れる音が玄関先に響いた。
途端に猫達は脱兎の如く玄関から走り去る。
和樹は嵐が来てたった今去ったみたいな荒れ果てた玄関を茫然と眺めていた。アイスの箱は無残にも猫に踏みつぶされ、ポテチの袋も蹴飛ばされ玄関の隅に転がっていた。和樹の横ではみけ子が壊れた招き猫の欠片を前足で突いていた。
「な……何だったんだ。今のは……」
和樹は座ったまま茫然と呟いた。
ここ暫く、いなくなったトラを心配して気分が滅入っていたが、友達にカラオケに誘われ気分転換に出掛けてみたら、以前から気になっていたクラスメイトの女子が友達と一緒に参加していたのだ。
すげえラッキーだと思った。和樹はすっかりトラを忘れてエンジョイした。
「和樹君。歌がうまいね」などと言われ、天にも昇る気分である。ラインも登録し合い、またまたすげえ幸せだと思った。
帰りに駅の本屋を覗いたらお気に入りのコミックの新刊が出ていた。こりゃまたラッキーと思った。それを買って序にコンビニでアイスとポテチを買って帰って来たのである。
今日は父親は飲み会で遅くなるし、母親とるり子はママ友母子と一緒に食事会である。まだ、誰も帰って来ていないみたいだ。
和樹はふんふんと鼻歌を歌いながら玄関の鍵を開けた。
「あの招き猫のお陰かなあ」などと呟く。
ふと何かの気配を感じた。後ろを振り返る。何もいない。和樹はドアを開けた。その瞬間、
何者かがだだっと庭の暗がりから飛び出して来た。それがばっとジャンプして和樹の背中を蹴った。
「うわあぁ!」
和樹は転びそうになって慌てて床に手を付く。コンビニの袋が落ちてアイスが飛び出た。その和樹を踏み台にして次から次に動物が家の中に走り込む。
「な、何だ!?」
でかい猫が5匹玄関の中をぐるぐると走り回っている。いつの間にかみけ子もそこに加わって猫は6匹になった。和樹は倒れたまま茫然とそれを見る。狭い玄関をぐるぐる回っていたそれらは次から次に靴箱に飛び乗り、招き猫に体当たりを喰らわせる。招き猫は動かない。一際でかい茶トラがジャンプして飛び掛る。招き猫はずずっと動く。
「お、おい。何をやっているんだ。お前ら、一体どこから来たんだ。おい、お……止め。止めろ!! 壊れる」
和樹は慌てて起き上がって招き猫を押さえようと手を伸ばした。と、その顔にみけ子が飛び掛った。
「に"ゃー!!」
「うわあああ!」
和樹は顔に張り付いた猫を剥がそうとする。猫は爪を立てて離れない。
「痛い!痛い!おい。止めてくれ。みけ子。止めろー!!」
「がっしゃん!!」
陶器が壊れる音が玄関先に響いた。
途端に猫達は脱兎の如く玄関から走り去る。
和樹は嵐が来てたった今去ったみたいな荒れ果てた玄関を茫然と眺めていた。アイスの箱は無残にも猫に踏みつぶされ、ポテチの袋も蹴飛ばされ玄関の隅に転がっていた。和樹の横ではみけ子が壊れた招き猫の欠片を前足で突いていた。
「な……何だったんだ。今のは……」
和樹は座ったまま茫然と呟いた。