十四 借金未返済殺人事件⑥ 落として埋める

文字数 1,728文字

 店をでた三人は、雨の中、宗谷慎司を近くの立体駐車場へ運んだ。
「車を頼む」
 山田勇作は福原富代にキーと財布を渡し、支払いと車の運転を頼んだ。
「うん・・・」
 福原富代は駐車場の支払いをすませて出車を待った。

 車がでてきた。福原富代は運転席に乗りこみ、車を三人の前へ移動した。関口虎雄と山田勇作は、宗谷慎司とともに後部座席に乗った。車は雨の首都高を走り関越道へでた。関越道も雨だ。
 車中で宗谷慎司が呻いた。山田勇作は、嘔吐物用のポリ袋を宗谷慎司の顔に当てて関口虎雄の目を見た。関口虎雄は山田勇作と目が合うと、宗谷慎司の上着の襟を首に巻きつけて頸動脈を絞めて落した。
「死んだか?」
 山田勇作が宗谷慎司の鼻先へ手をかざした。息遣いが感じられない。
「死んだも同じだ。放っておけば、死ぬ・・・」
 宗谷慎司は目を覚まさなかった。

 五時間後。
 車は、信州にある開発途中の国営試験牧場建設用地へつづく専用道路から森の中へ入った。都内で降っていた雨はここでは降っていない。
 深夜の森に車が停止した。
「早いとこ、埋めちまおう・・・」
 星空の下、山田勇作と関口虎雄は宗谷慎司を車外へ引きだして草むらに寝かせ、トランクからスコップとツルハシが入った袋を取りだして袋からスコップとツルハシをだした。車を借りた際、都内のあちこちで一個ずつ、山田勇作と関口虎雄が手分けして買ったツルハシとスコップだ。
「富代は中にいろ」
 山田勇作は、車からでてきた福原富代を車内に戻した。
 掘った穴に慎司を横たえて、青ざめた慎司の顔に土がかかり、五時間ほど前まで生きていた身体が土に埋もれてゆく様を見たら、富代は一生、慎司の姿を忘れねえ・・・。
 山田勇作は、土をかけられる宗谷慎司を福原富代に見せたくなかった。自分たちで殺しておきながらこんな事を思うとは、なんて身勝手なんだ・・・。もし、あの死体が俺なら、死んじまった俺は、どうしてるだろう・・・。山田勇作は、夜露に濡れた草むらに横たわっている宗谷慎司が、自分のように思えた。

 田舎育ちの山田勇作も関口虎雄も穴を掘るのは慣れていた。三十分ほどで人一人が横たわる広さの穴が一メートルほどの深さに掘れた。
「死人に金はいらねえな・・・」
 山田勇作は、雑草の中で横たわっている宗谷慎司の上着の内ポケットから金の入った封筒を抜きとり、車に戻って福原富代に渡した。
「無くすなよ」
「うん。わかった。早くしてね」
「ああ、もうすぐ終る」
 山田勇作は掘った穴に戻った。
 山田勇作と関口虎雄は宗谷慎司を穴に入れ、仰向けにした。慎司の顔に直接土をかけるのは気が引ける・・・。慎司の顔に土がかけられて埋もれてゆくのは見たくねえ・・・。山田勇作は、宗谷慎司の上着を脱がせて慎司の顔にかけた。これで慎司の顔に直接土が触れねえ・・・。オレの記憶に、土に埋もれる慎司の顔は残らねえ・・・。山田勇作の身勝手な考えだった。

 宗谷慎司の上に、掘り返した土が全てかけられて土の盛りあがりができた。
「盛りあがらねえように土を散らせ。最後に、草をのせるんだ・・・。
 そうすりゃあ、目立たねえ。一雨降れば草が新芽をだす・・」
 二人は土の盛りあがりを平らにした。関口虎雄は、穴を掘る前に、根ごと剥がすように取り除いておいた草を土の上に植えた。
「これでいい」
 二人はスコップとツルハシを持って車に戻った。

 関口虎雄と山田勇作はスコップとツルハシにこびりついた土を落し、持ってきた時のように袋に入れ、土を持ちこまないようにトランクに入れた。
 ずいぶん呆気なく事がすんじまった。人一人を殺した実感がねえ・・・。人を殺せばその場面を思いだして悪夢を見るなんていうが、それはこれからか・・・。勇作が富代に、車内に留まるように話したのはそのせいだ・・・。だが、富代は車の中から、慎司を埋める状況を見てたはずだ。これは記憶から消えねえ・・・。共犯なんだから、消えてもらっちゃ困る・・・。そう思いながら関口虎雄は車に乗った。

「さあ、帰ろう。国道を走ってくれ・・・」
 関口虎雄は福原富代にそういった。
 三人は国道を使って都内に戻る道すがら、大きな川を渡るたびに、堤防の上へ車を移動し、ツルハシやスコップを一つずつ川へ捨てた。
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