十五 借金未返済殺人事件⑦ 無断欠勤

文字数 951文字

 二〇〇六年八月七日月曜、朝。
 宗谷慎司は大田区の勤務先に現れなかった。これまで一度も無断欠勤がない生真面目な宗谷慎司だけに、会社の経営者奥山浩一は心配になった。
「主任、慎司はどうした?」
「来てません。欠席の連絡はありません。
 アパートの住人に聞いても、金曜から見ていないと話してました」
 宗谷慎司の上司小島洋介主任も心配している。
 宗谷慎司は、奥山浩一の遠縁に当る大切な親族の一人だ。
「様子を見てくる・・・」
 奥山浩一は宗谷慎司のアパートへ行った。

「宗谷慎司に、何か変った事はなかった?」
 奥山浩一が管理人の小林文子に聞くが、小林文子は、宗谷慎司は週末にでかけたまま帰ってこないというだけで要領を得ない。それがわかっているから、こうして私がここに来てるんだ・・・。そう思いながら奥山浩一は小林文子にいう。
「先週、何か異変はなかったか?」
「三日木曜の夜、電話で話してましたよ。何を話してたか知りませんよ」
 小林文子は、アパートの住人のプライベートに関わりたくないと思った。
 このアパートは会社の所有物で社員寮だ。アパート経営も考えていた先代が社員向けの施設として使用したのが始りで、それ以来、社員寮ではなくアパートと呼ばれている。
 それにしても小林文子は管理人の役目を果たしていない。いずれ、新しい管理人と交代して実務に戻らせよう・・・。小林文子の態度に奥山浩一はそう感じた。

 奥山浩一は、アパートの管理人室から奥山村の宗谷慎司の実家に電話した。実家の電話に母親がでた。
「奥山浩一です。慎司君、そちらに行ってませんか?出社してないんです。
 真面目な彼だけに、連絡無しで欠勤するとは考えられません」
「こっちには帰ってきてません。何かあったんですか?」
「わかりません。慎司君の親戚に連絡してみます」
「すみません。こっちも、知りあいに連絡してみます。迷惑かけてすみません」
「では、また連絡します」
「よろしくお願いします」
 奥山浩一は電話を切って、都内の宗谷慎司の親戚筋にも問いあわせたが、宗谷慎司の行方はわからなかった。奥山浩一はふたたび宗谷慎司の実家へ連絡し、
「警察に捜索願をだしたいので、許可してください・・・・」
「わかりました。よろしくお願いします」
 奥山浩一はただちに蒲田警察署に捜索願いを提出した。
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