三十四 自白①

文字数 1,263文字

 九日、月曜、午前九時すぎ。
 旧奥山館の広間に、関口虎雄と福原富代の死亡に関する捜査本部が設置されている。

「亡くなった福原富代さんの爪から、制服の繊維と皮膚片が見つかりました。
 繊維はあなたの制服の物でした。
 DNA検査の結果、皮膚片は奥山誠支配人の親族の物と判明しましたので、あなたのDNAサンプルを頂いたわけです。
 DNA検査の結果を待つまでもなく、あなたの右腕の引っ掻き傷から、あなたが福原富代さんといっしょに屋上にいたのはまちがいないといえます。
 今回の事件を時間を追って説明していただけると、とても助かるのです。
 ご協力していただけませんか?」
 佐伯は奥山渓二郎の自宅、旧奥山館の広間で丁重に話した。
 たとえ容疑者であろうと、人としての扱いを受けるべきだと真理は思っている。
 容疑者が、取り調べる刑事に攻撃的態度で接するなら、その時はそれなりの対応をすべきだが、可能な限り丁重に扱わねばならない。伯父さんの考えも私と同じだ・・・

「五月に三人を葬る計画をたてました・・・」
 奥山渓二郎は冷静に話しはじめた。
 佐伯が奥山館を予約したのは今年の五月の連休後だ。
 鞠村まりえは、秋山秀一と会った六月二十八日以後に、八月五日以降の予約をしている。
「国会議員の谷村さんとは、弁護士だった当時からの付きあいがつづいてます。
 谷村さんは、宗谷慎司を殺害した三名の出所後、彼らを出所者の就労支援企業に入れ、いつも所在を把握してました。
 Marimuraの商品宣伝用画像を撮影する名目で、鞠村まりえさんに頼んで関係者を集めてもらいました」

「渓二郎さんは、どうして三人を葬ろうと考えたのですか?」
 佐伯は穏やかなまなざしで奥山渓二郎を見つめている。
「奥山事件がきっかけです・・・」
 奥山渓二郎は静かに説明した。

 借金を返さなかったため、山田勇作、福原富代、関口虎雄は、宗谷慎司から罵倒されて逆恨みし、慎司の首を絞めて気を失わせ生き埋めにして殺した。
 加害者の家族は村の有力者だったが、自分たちに不利な事は全て他人のせいにする者たちだった。加害者の行動は家族の性格そのものだった。村人は皆、加害者家族からなんらかの損害を受けていた。
「私は奥山村を離れて奥山温泉から奥山村を見ていて、その事に気づきました。
 加害者家族が村八分になったのも、そうした過去に積もり積もった村人の鬱積が、宗谷慎司を殺害した者たちの家族に対して爆発した結果でした。
 福原富代の弟は本人たち加害者家族の行いも姉の罪も省みず、加害者家族が村八部にされたのを逆恨みして慎司の家族を皆殺しにした。
 奥山事件後は、懸念したとおり、夏山登山口の風光明媚な村から人が減り、村は廃村になりました。
 私の親戚は、宗谷慎司の家族と、慎司が勤務した会社を経営する従兄の奥山浩一の家族だけなんです。それが今は従兄家族だけになった。
 私は慎司を殺害した三人者を許せなかった。
 三人を必ず私の手で葬る決心をしたのです。
 十四年前の夏の雨の日の深夜でした・・・」
 奥山渓二郎は冷静に話しはじめた。
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