十一 借金未返済殺人事件③ 返済金を作れ

文字数 1,433文字

 翌年、二〇〇六年六月。
 二年前期の授業料を納入する期限になった。関口虎雄、山田勇作、福原富代の三人は、仕送りとアルバイトでやりくりし、前期分の授業料を納めたが、昨年、宗谷慎司から借りたお金を返済しなかった。宗谷慎司との約束の返済期限、四月末日はとうにすぎていた。

 宗谷慎司は、約束の四月末日の期限を二ヶ月以上すぎても借金を返済しない三人を蒲田のアパートに呼んで忠告した。
「借用書を、お前らの実家へ持って行く・・・。親に借金を返してもらう・・・。
 それで、いいな?」
 宗谷慎司は立ちあがり、畳に正座してしおらしくしている三人を睨みつけた。こいつら、こんな脅しで金を返すような奴らじゃない。何とかしねえと金は戻らない・・・。末の妹たちのために貯めた金だ。必ず借用書をこいつらの実家へ持ってゆこう・・・。今度のお盆にそうしよう・・・。

 三人は、内向的で親しい人間としか話ができない宗谷慎司の性格をよく知っていた。
 借用書を渡してあるが、直接、宗谷慎司が三人の親に借金返済を迫るはずがないと考えた。実家がある奥山村でも、宗谷慎司の家族は全員が似たような性格で、なぜか地域住民から軽視されている。
 三人の考えに気づき、宗谷慎司は三人に詰めよった。
「富代、お前が身体を売ってでも、金を作れ!
 勇作!虎雄!お前ら、大学で、金払いのいい相手を探してやれ!」
 腹いせの一言が宗谷慎司の口を突いてでた。一瞬、宗谷慎司は、口走った事を謝罪せねばならないと後悔して反省した。だが、怒りから謝罪の気持を忘れた。

 こいつ、いわれたまま反論できなかった過去の慎司じゃねえぞ。何かが変ったみたいだ・・・。もしかして、変らないのは俺たちだけか・・・。
 今、そんな事を考えなくていい。何とかしねえと、親父に頭があがらなくなる・・・。この世から慎司が消えれば借金の事実は消える。親爺から責められねえ・・・。慎司を消してえ・・・。関口虎雄は宗谷慎司を目の前から消したいと思った。

 お金を返さないからって、いっちゃならない事があるだろう!このヤロウ、絶対に許さねえ!山田勇作は、正座の膝に置いた拳を怒りで握りしめた。頭に血が昇り、顔が赤くなるのが自分でもわかった。鼓動が激しくなって鼓動とともに拳が律動した。借金したまま返済せずにいる自分を省みず、勇作は考えねばならない借金返済を、慎司から浴びせられた言葉に対する報復へ変えていった。

 福原富代は山田勇作の膝から伝わる温もりに震えを感じた。勇作が激怒してる・・・。今ここで事を起こせない。ここは慎司が勤めている会社の社員用アパートだ。住人全てが会社の人間だ・・・。福原富代は、怒りを鎮めるように願いをこめて膝を山田勇作の膝に押しつけた。
 山田勇作はわかったというように、鼓動とともに律動する手を福原富代の膝にのせて怒りを抑えた。
「もうしばらく待ってくれ。夏休みにはバイトができる。頼む!」
 山田勇作がそういって三人は深々と頭をさげた。

「期限は八月六日、日曜だぞ!」
 宗谷慎司は、三人の頭を睨んで怒鳴るようにいった。こいつらの頭を蹴っ飛ばして半殺しにしてやろうか!だけど、そんな事をしたら金は返らない。傷害罪で捕まるのがおちだ・・・。八月六日にお金が返ったら、お盆に実家へ届けよう。お金が返らなかったら、駐在を連れて、借用書を三人の親たちに突きつけよう・・・、
「わかった・・・」
 三人は腹の中で怒りを爆発させながらじっと堪えて礼をいって、ふたたび頭をさげた。
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