四十二 死亡広告

文字数 1,467文字

 八月九日、月曜日、午後三時頃。
 奥山渓二郎が説明し終えた。
「やはり奥山さんは、単なる目撃者だったわけですな・・・」
 佐伯は奥山渓二郎を見て微笑んでいる。
 真理は驚いて思わず叫んだ。
「えっ、それは!」
「しずかに・・・」
 佐介が自分の唇に人差指を当てて真理を見つめている。

 佐伯がいう。
「単なる目撃者と、その仲間たちが何を計画しようと、計画は実行されなかったのですから、書類送検されるだけで問題にはならんでしょう・・・」
「そんな事は・・・」
 奥山渓二郎は正座した自分の膝を見て考えあぐねている。
 奥山渓二郎を見る佐伯のまなざしが、ふっと優しさを帯びたように見えた。
「そんな事はありえますよ。私がそう判断しました。
 私は対外的には本部長直属の本部長代行職ですが、実際の立場はその上です。
 あなたの計画がテロなら、計画だけで大問題ですよ」
 佐伯は真理と佐介に視線を移して目配せしている。
「しかし・・・」
 奥山渓二郎は困惑している。

「実は、旋盤のプラグの金属部と、スイッチレバーのグリップに繋がる金属部の下部から、関口虎雄さんの指紋が検出されましてね。
 奥山さんは、プラグのプラスチック部や、スイッチレバーのプラスチックのグリップを拭いたのでしょうが、金属部は拭かなかったようですね。
 おかげで、関口虎雄さんが自分でコンセントにプラグを入れ、スイッチレバーを上げたのがわかりました」
 なんと、伯父さんは、重要な証拠を私たちに隠して奥山渓二郎に真実を語らせようとしてたんだ・・・。

「さて、奥山さんの計画について細部を聞かせてください。国会議員も含めて、多数の関与者がいますね」
 佐伯の言葉に、奥山渓二郎が驚いて顔をあげた。
「なあに、調書作成のためです。形だけです。心配いりません。誰も罪には問われません。ここに、その旨を証明する証書も用意しました・・・」
 佐伯は微笑みながら、座卓に書類を拡げて奥山渓二郎の手元へ滑らせた。
「わかりました。計画を説明します・・・」
 奥山渓二郎が計画を説明し、ボイスレコーダーに山本刑事が記録した。


午後四時前。
奥山渓二郎が計画の説明を終えた。内容は渓二郎が一連の死亡事故の目撃者で、その他は自白内容と同じだった。
 佐伯は真理と佐介にいった。
「一時間後に交通規制を解きます。報道規制は午後五時に解きます。お二人とも自由に報道してください」
「国会議員も含め、関与者が多数いるので、事件ならどうなるのかと思ってました」
 佐介が本音を佐伯に漏した。その思いは真理も同じだ。記者として報道したいが、関係者の心情を思うと複雑な心境になる。
「それは、私も同じです・・・・」
 疑わしきは罰せず。伯父さんはそう考えていると真理は思った。

 奥山渓二郎が佐伯を見つめた。
「あの・・、もし可能なら、私が三人の葬儀の喪主をしたいのですが・・・。
 三人とも、肉親とは音信不通のはずです。警察から親族に連絡した時、その旨、伝えてください。三人を奥山村のそれぞれの家の墓に埋葬しますので・・・」
 奥山渓二郎の視線が真理と佐介へ移った。
「その時は、飛田さん。新聞のお悔やみ欄に、三人の死亡広告を載せてください」
「わかりました。こちらに連絡してください」
 佐介は奥山渓二郎に名刺を渡した。
 三人を抹殺しようと計画していた奥山渓二郎は、この場におよんで何を考えているのだろう?真理はそう思いながら佐介を見つめた。
 三人の自殺から三人の心情を知り、奥山渓二郎は三人を弔う気になったんだ・・・。
 真理を見つめかえす佐介の目は、そう真理に語っていた。
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