三十一 推理②

文字数 1,555文字

 九日、月曜、午前三時すぎ。
 真理と佐介は布団に入った。すぐさま佐介から規則的な寝息が聞こえた。
 容疑者が何となくわかったという佐介の言葉が気になり、真理はなかなか寝つけない。佐介の寝顔を見ながら真理は、先を越されたと思った。しばらく事件を考えよう。考えれば目が冴えてますます眠れなくなるが、サスケがいるから何とかなるだろう・・・。

 関口虎雄の現場に遺留品は無かった。関口虎雄はコンクリートの床にうつぶせに倒れたまま息絶えていた。右手のそばに三本の銅線が剥きだしになった動力用三相交流電源ケーブルがあり、右手は、握った火薬が手の中で爆発したように、茶と黄と黒の妙な色彩に変色していた。私たちを地下倉庫へ案内した村田客室係は、関口虎雄の右手のそばにあった電源ケーブルを、旋盤の電源ケーブルだといった。
 事件前、関口虎雄は倉庫で機材整備をしていた。倉庫に容疑者が入ってきた時、関口虎雄は容疑者が犯行を行うとは思っていないから気を許して話したはずだ。
 容疑者は何らかの話をして、事前に旋盤から外しておいた動力用三相交流電源ケーブルを関口虎雄に握らせ、もう一人の容疑者がスイッチボックスのスイッチを入れた。
 事件当時、ケーブルを関口虎雄に握らせる者と、スイッチを入れる者の最低二人の容疑者がいた。そして、事前に監視カメラのスイッチを切っておかねばならないから、もう一人容疑者が増える。共犯者と呼ぶべきか・・・。

 福原富代は屋上にいたから靴底に地衣類と風化したコンクリートの砂粒が付いていた。
 容疑者は事前に、従業員用階段から屋上へでるドアの合鍵でコピーを作り、福原富代に指定した時刻の前に監視カメラのスイッチを切り、合鍵のコピーで屋上のドアを開錠した。
 指定時刻、屋上に現れた福原富代は騒がないように身体を押さえられて、ほとんど抵抗できないまま持ちあげられ、コンクリートの手摺りを越えさせられた。
 落とされる寸前、福原富代はコンクリートの手摺りを握った。手にコンクリートの砂粒が付いて、容疑者の衣類と腕を引っ掻いた爪に、衣類の繊維と皮膚の一部が付いた。
 福原富代を落とすには一人では無理だ。口を押さえて身動きさせずに落とすのだから、二人以上の犯行だ。福原富代が落下すると、容疑者たちは屋上へでるドアを施錠し、速やかに階下へ移動した。速やかな移動はエレベーターだ!従業員用のエレベーターだ!
 これだけの事をほぼ同時に行うのだから、容疑者たちは綿密に準備し、何度もシミュレーションしたにちがいない。

 福原富代を屋上に呼びだすには、屋上へでるドアの鍵が必要だ・・・。
 関口虎雄に会うため、容疑者は駐車場から倉庫へ入るドアの鍵を使って、駐車場から進入した・・・。倉庫に詳しい者が駐車場側から入るだろうか・・・。
 奥山支配人は半地下の倉庫の悲鳴を聞いて、本館一階の通路を奥へ走った・・・。
 奥山支配人は次の悲鳴を聞いて、調理場へ行った・・・。
 奥山支配人は、なぜ、倉庫へ行かなかったのだろう・・・。
 もしかして時間調整か・・・。
 死亡時刻を合せて、単独で関口虎雄と福原富代を殺害するのは無理だ・・・。
 関口虎雄が容疑者によって事前に殺害されて、容疑者の一人が午後十時に悲鳴をあげれば、関口虎雄を殺害した容疑者のアリバイが成立する・・・。
 逆に考えれば、被害者の死亡推定時刻前のアリバイが不明な者が犯行に関与した事になるが、集団でアリバイを作った可能性もある・・・。
 県警本部の鑑識は関係者のDNAサンプルを採取してる。福原富代の爪から得た皮膚片と繊維、屋上の手摺り付近で見つけた髪の毛の鑑定結果がでれば、容疑者が挙る・・・。
 三階から四階の階段で見つけた髪の毛は、階段で転んだ甲斐ソレアか、それを助けた麻生玲香の物だろう・・・。
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